ついに発見!2000年間見つからなかった鰻の故郷はマリアナ海溝 | コラム | オリーブオイルをひとまわし

ほぉ・・・


毎年暑くなってくると目にする「鰻」の文字。脂がのって栄養たっぷりの鰻は、土用の丑の日を中心にスタミナ食として食べたくなる人も多いだろう。しかし近年気になるのが鰻の価格高騰…。2013年に絶滅危惧種に指定されてしまった鰻だが、実は日本は世界の鰻の7割を消費しているという。このまま手をこまねいていると鰻自体を口にすることができなくなる可能性もあるのだ。

1. 鰻の故郷はどこ?謎に包まれた鰻の生態

絶滅危惧種に指定されてしまった鰻。今後私たちが継続的に鰻の食文化を守っていくためには、どうすればいいのだろうか。そのためには鰻の生態を知り生育しやすい環境を整えること、乱獲を控えること、人工的な養殖技術の開発が必要だろう。知ることが守ることに繋がるのだ。

日本では万葉集の時代から「夏やせにはむなぎ(うなぎ)を獲って食べろ」という歌が残るほど、古くから鰻を食べる文化が育まれてきた。我々が食しているニホンウナギとは別種だが、ヨーロッパでもヨーロッパウナギが稚魚や成魚の状態で食されてきた文化がある。

しかしながら、その一方でつい最近まで鰻がどこで生まれているのか、どのように成長しているのかはほとんど分かっていなかった。かのアリストテレスでさえも「鰻は泥の中で自然発生する」と書き記しているほどだ。

それは、鰻の成魚や稚魚は川で採取されていたのに対して、卵がまったく発見されてこなかったことに原因がある。主に川や池の淡水で生活すると考えられている鰻だが、産卵から稚魚としてある程度の大きさになるまで海水域で生息することが分かった。それでも鰻の故郷ともいえる産卵場所は特定できなかったのだ。

2. 解明されてきた鰻回遊の謎

鰻の故郷を世界で初めて発見したのは日本のグループ

鰻の故郷となる産卵場所が特定されたのは2009年のこと。東京大学の塚本勝巳教授のグループが世界で初めて鰻の卵を発見した。鰻は遊泳力が弱いため当初は本州近海で産卵していると考えられていた。しかし鰻の卵どころか幼生であるレプトケファルスすら見つけることができない。研究を続けるうちに、鰻の産卵期が従来想定されていた冬ではなく、夏だと分かったことが産卵場所発見のきっかけになった。調査対象を日本から6000kmも離れた西マリアナ海嶺付近に変更、ついにそこで鰻の卵を見つけることができたそうだ。

産卵期の鰻は大変身

鰻は産卵期になると驚くべき変化を遂げることも分かってきた。産卵時期になったことを示すホルモンが分泌されると、鰻は昼夜問わず泳ぎ続けることができる「ナイトレストレス」となり、マリアナ海溝まで6000kmもの距離をあの体で泳ぎ切るのだ。そして体中が精巣だらけ、卵だらけとなり産卵にいたる。産卵が終わるとその場で一生を終えることも分かった。

卵は1日半ほどで孵化

受精後1日半ほどで孵化した鰻は約6か月海流に流され浮遊し、日本近海へとやってくる。稚魚は5cmほどの「シラスウナギ」と呼ばれるサイズに成長し、日本の川を遡上。体の色も私たちがイメージする背が黒で腹が黄色い「黄ウナギ」となり5~10年ほど生活する。産卵できる準備が整うと川を下り、生まれ故郷のマリアナ海溝付近へと戻っていくと考えられている。

3. 商業化はいつ?完全養殖への道

半天然半養殖の現状

現在日本産の鰻はほとんどが養殖されたものである。養殖と言っても卵から成魚までの完全養殖ではない。鰻の卵がなかなか発見できなかったことなど生態に謎が多く、これまで完全養殖は不可能だったのだ。そのため日本近海までやってきたシラスウナギを捕獲し、そこから養殖する形を取っている。しかしこのやり方だと稚魚の乱獲につながり鰻の資源保全にはならなない。絶滅危惧種に指定された鰻を保全し、今後も食卓に供給するためには完全養殖の技術が不可欠だ。

完全養殖への課題

一番の課題はシラスウナギに成長するまでだ。近年の研究から卵を安定して採取することはできるようになった。孵化してシラスウナギになるまでのレプトケファルスの時期の育成が難しいのだ。約半年におよぶレプトケファルスの時期は未だ解明されていないことが多い。水深100~200mの辺りで育つと考えられているが、何を食べているのか分かっていないのだ。分解中の動物プランクトンの死骸などを食べているのではないかと考えられているが、養殖で安価に再現できる餌が見つからない。そのため卵から育てて成魚まで成長する割合は5%ほど。1匹1,000円程度で提供できる商業化のラインはまだまだ遠いのが現状である。

結論

鰻が私たちのスタミナ源となっている理由は、その驚くべき生態に隠されたようだ。日本食ブームが世界で広がる中、鰻の消費量は世界レベルで増えている。完全養殖の技術やナマズを使った代替食の研究も進んでいる。古くからなじんできた鰻文化を後世に残すため、そして何より美味しい鰻を私たちが心行くまで楽しむため、今後の研究に期待したい。

情報源:ついに発見!2000年間見つからなかった鰻の故郷はマリアナ海溝 | コラム | オリーブオイルをひとまわし


概要
ウナギは謎に包まれた生物。稚魚も卵を持った親も見つからないので,アリストテレスが「ウナギは泥の中から自然発生する」と記したほどです。  9月のUTalkでは,世界で初めてウナギの卵を発見した塚本勝巳さん(大気海洋研究所・教授)をお招きします。ウナギの生態は一体どこまで分かっているのでしょうか?

9月のUTalkは、大気海洋研究所で教授を務めていらっしゃる塚本勝巳さんをお迎えしました。まだ暑さの残る中、今回も涼しい店内での開催です。

みなさんは「ウナギ」と聞いてどんなことを思い浮かべるでしょうか。蒲焼などの料理、「うなぎのぼり」といった慣用句、「掴みどころがない」といったイメージなど様々あると思います。最近では「おはよウナギ」なんて言葉も流行りました。
しかし、生き物としてのウナギの生態系は謎に満ちあふれています。川や近海で捕れたり、近年では養殖も盛んになったりしていますが、どこで生まれ、どのようにして日本にやってくるのかがわかっていませんでした。
しかし、塚本さんを始めとする調査チームが始めてウナギの天然受精卵の採取に成功しました。今回は長い間見つからなかったウナギの卵が発見されるまでの壮大な物語を話していただきました。

ウナギは孵化までおそらく1日半、仔魚になるまで半年、合わせて約1年を海水中で過ごし、あとは淡水で生活するそうです。ウナギを図鑑で調べてみると、ほとんどが淡水魚の図鑑に載っていて、海水魚図鑑には載っていないのはこのためだと塚本さんは話します。
では、ウナギはどこで産卵しているのか。これが最大の謎でした。調べ初めは本州近海でしたが、それが沖縄の南、台湾沖、フィリピン近海とだんだんと推定場所が南下していきました。中でもフィリピンではウナギの変態前であるレプトケファルスが見つかるなど期待が高まりましたが、しかし卵は見つかりません。
そこでウナギを捕って調べてみると、あることがわかりました。冬だと思われていた産卵時期が、実は夏だったのです。ウナギは「耳石」を見ればいつその個体が生まれたかがわかるそうです。塚本さんはこれが調査成功の一因だと語ります。

調査対象は、西マリアナ海嶺の南端部に移ります。東西に伸びている塩分フロントと海嶺との交差地点です。塩分フロントとは、異なる塩分濃度の境界のことです。この地点はスコールが多発するため、急に塩分が薄くなる場所があるそうです。調査チームは、ウナギがサケのように海の”ニオイ”を幼い頃に刷り込まれることで産卵するためにこの場所戻ってくるのではないかという仮説を立てました。
そして2009年、4回目の網でついに受精卵が見つかりました。最初は深海の底にあると考えられていましたが、実際は深海の淵の浅いところ(海抜160m程度)にピンポイントに網をかけて見つかったそうです。卵は1日半で孵るのですが、幸運にも孵化直前の56mmの卵が採れました。

ここから親ウナギの行動や産卵の流れなどが明らかになってきました。あるホルモンの分泌をきっかけに、川にいるウナギが昼夜を問わず泳ぎ続ける「ナイトレストレス」状態になり、一目散に産卵場所に向かいます。昼は外敵から身を守るために深海を、夜は精巣や卵を成熟させるために温度の高い表層近くを泳ぎます。ウナギは意外と俊敏で、長距離を泳ぐのに適した泳ぎ方をするそうです。また、60gというわずかな脂肪の量でなんと6000kmもの距離を泳ぐそうです。そして産卵期になるとオスの体は精巣だらけ、メスの体は卵だらけになり、1年の産卵期に複数回産むそうです。新月の夜に乱婚をすると考えられ、新月がくるまではその地点で滞留していると考えられています。そして産卵期を終えると、ウナギはその一生も終えます。

塚本さんがこれから調査したいこととして、「受精直後のタマゴが見たい」とおっしゃってました。今回の卵が採れた付近の水深6000m地帯は調査チーム内で通称「ウナギ谷」と呼ばれていて、そこにウナギの骨の化石や耳石が溜まっているはずであり、「しんかい6500」に乗って調査したいという次の目標を話していただきました。
「そもそもどうしてウナギを研究対象にしようと思ったのか」と参加者から問われ、塚本さんがこれまで研究してきた魚たちを紹介しました。最初はアユ、次にサクラマス、そして今のウナギです。アユは産卵場が淡水にあるのであまり謎が深くなかったのに対し、ウナギの場合は産卵場がわからなかったため、研究が長期化したそうです。

塚本さんの研究とそのエピソードの数々は、「なぜ動物は旅をするのか」というとても壮大な問いであるというお話しが印象的でした。たいへん興味深いお話を伺うことができました。また、『旅するウナギ』と題した塚本さんの本の紹介や、東京大学総合研究博物館の特別展(※10/16で終了しました)の案内もあり、終了後に博物館へ向かう参加者の方も見受けられました。お集まりいただいたみなさま、ありがとうございました。

情報源:何故、ウナギの卵は2000年間見つからなかったのか – UTalk


へぇ・・・