ふむ・・・
2019年5月9日10時12分
佐藤天彦名人に豊島将之二冠が挑戦する第77期名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催)の真っ最中です。第1局は勝敗がつかない「千日手」。名人戦七番勝負では16年ぶりで大きな話題になりました。
点数差を競うスポーツと違い、将棋には同点や引き分けは基本的にありません。しかし、勝敗がつかずに指し直しになるケースが千日手です。
打開が難しいある局面。相手から動いてもらおう、と待つケースがあります。飛車を左右に動かして様子見。しかし相手も同じことを考え、金を行ったり来たり。これでは決着がつかず、千日経っても終わりません。同じ局面が4回繰り返されると千日手となり、初手から指し直しになるのです。
今回の名人戦では馬で飛車を追う佐藤名人に、それをしのぐ豊島二冠。両者とも変化できない中盤戦は午後3時すぎに千日手となり、規定により翌日に指し直し。ちなみに、午後3時前の千日手なら同日に指し直しでした。千日手の成立から封じ手の時刻までは、まだ3時間ほどあります。これを折半して両対局者の持ち時間から減らすのが規定です。
豊島二冠は序盤を早指しで飛ばす対局スタイル。もしかすると、佐藤名人はあえて自分の持ち時間を減らす代わりに、豊島二冠の持ち時間を削ったのでは? そう思わせるほどの虚々実々の駆け引きでした。
千日手は私も色々経験があります。昨年の藤井聡太七段との師弟対局は午後1時すぎに千日手となり、30分間の休憩後に指し直し。「弟子との対局だから、じっくり指したい」という私の作戦でもありました。
当日は取材陣が多く駆けつけていましたが、まさか早々に対局終了(無勝負)になるとは思っていなかったのでしょう。外出先から慌てて戻られたメディアの方もいたそうです。
忘れられない千日手が、1997年の深浦康市九段との名人戦順位戦。私の有利で迎えた終盤戦で深浦九段の頑強な粘りにあい、駒を打っては受けるの繰り返し。千日手は戦いの大詰めでも起こるのです。千日手が成立したのは未明の2時前でした。
指し直し局も大熱戦。勝負がついたのは実に明け方の午前6時前。対局は20時間近くに及んで両者疲労困憊(こんぱい)でしたが、負けた私は疲れも倍増でした。
2002年、朝日オープン将棋選手権の決勝五番勝負で堀口一史座七段と対局したときも、やはり終盤で千日手模様になりました。
実はこのとき、私は打開することを決めていました。しかし、関係者にはわかりません。初手から指し直しとなると、新聞記事も大きく書き直す必要があります。打ち上げの時間はどうする? 対局者への食事は? 控室が騒ぎになったそうです。
このときの立会人は加藤一二三九段でした。両対局者にうな重か、すしの差し入れをと、関係者にアドバイスされたそうです。指し直し前にはもう少し軽食が良さそうな気もしますが、これは加藤九段が対局でよく頼まれた「勝負めし」。この話を後から聞き、ちょっとうれしく思ったものです。
予期せぬときに起きる千日手の裏には、思わぬ人間ドラマがあるのです。
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すぎもと・まさたか 1968年、名古屋市生まれ。90年に四段に昇段し、2019年2月に八段。第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。藤井聡太七段の師匠でもある。
情報源:予期せぬ千日手の裏に人間ドラマ 弟子の藤井七段とも:朝日新聞デジタル
ほぉ・・・