ふむ・・・
2019年3月17日09時40分
「GAFA」(ガーファ)と呼ばれるグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン。こうした巨大IT企業への風当たりが世界的に強まっている。もっと納税すべきだ、という批判もその一つ。格差が広がる世界経済のいまを映すこの問題、どう考えれば良いのか。
元・米グーグル副社長 村上憲郎さん「情緒的な規制、避けるべきだ」
GAFAは支払うべき税金をきちんと払っていない、などと言われますが、違法な脱税をしているわけではないでしょう。節税をしている。それを問題視するなら、「納めなくても済む」という税制の方にこそ問題があるんですよ。税制を整えれば、それに従って、適法に納税すると思われます。
最近は税金に限らず、データの集積などの問題も含めてGAFAへの批判が高まっています。ただGAFAもサービスを提供して対価を得るという商行為をしているわけで、情緒的に「GAFAが悪い」とあおることは即刻、やめるべきです。世界的に社会の格差が広がる中、特定の誰かに対する不満をあおることは負のエネルギーを生み、全体主義の復活にもつながりかねない。日本もGAFAへの規制に乗りだそうとしていますが、情緒的なアプローチだけは絶対避けるべきです。
富の集中による不公平の存在は多くの人の指摘の通りですが、再分配をどうするかは難しい問題です。GAFAを生んだ米シリコンバレーでは高額所得者が集まった結果、住居費が上がりすぎ、普通の地元の人たちが住めなくなっています。米国の分厚い中間層も失われてきています。これまでの資本主義とは様相を異にしてきています。特に若い世代の格差をいかに少なくするかを根本的に議論すべき時期に来ている。ただそれは特定の私企業の責任ではありません。
検索やSNSなどのサービスを提供するグーグルやフェイスブックなど「プラットフォーマー」と言われる企業は最強のポジションを握ってはいます。全てのビジネスの基盤となるからです。ただインターネットでのビジネスは、その上に幾層も重なるレイヤー構造です。動画配信大手のネットフリックスもプラットフォーマーですが、テレビ受像機をつくる企業、動作のアプリをつくる企業、番組などコンテンツをつくる企業など多くの層があります。それら全てが繁栄しないとプラットフォーマーも繁栄しません。「一人勝ち」はありえないんです。
欧州では課税強化や個人データ保護などGAFAへの規制が強まっていますが、米国の本音は「勝った」でしょう。欧州にもそれなりの企業はあるけれど、データへのアクセスを罰則つきで規制されれば事業を大きくすることはできません。インターネットにつながる家電などのIoT(モノのインターネット)が成長分野ですが、データへのアクセスを制限された欧州企業は何もできず、地力を失っていくと思います。
個人データの問題でもGAFAはやり玉にあがっていますが、便利さとの引き換えで利用者が判断すべき問題です。GAFAが最終的に提供しようとしているのは「執事サービス」です。執事は主人のすべてを知り尽くし、冷蔵庫に好物を常備しておく。アマゾンはいずれ、「注文しなくても必要な時に必要な商品が届く」サービスも可能になると公言している。そのためには全部見せる、つまり個人データの開示しかありません。
私の見立てでは、21世紀は中国の圧勝になる。中国は東大も京大も東工大も10校ずつあるという感じで、米国で教育を受けた優秀な人たちも帰国し、一党独裁のもとで量子コンピューターなどの技術に集中投資できる。GAFAもいずれ、中国企業に取って代わられるかもしれない。GAFAを規制している場合じゃないんですよ。
そんな世界で、日本はどうするか。もう若い人たちにやりたいようにやらせるしかありません。IoTの時代には車や産業ロボットなど、インターネットにつながるリアルな「モノ」がカギになります。日本はその「モノづくり」では蓄積があります。でも、そこで年寄りが威張るのではなく、若い人にこそ任せるべきです。(聞き手・栗林史子)
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むらかみ・のりお 1947年生まれ。日立電子(現日立国際電気)を経て米国系IT企業数社の日本法人代表を歴任。2003年~08年に米グーグル本社副社長兼日本法人社長。
デロイトトーマツ税理士法人パートナー 山川博樹さん「データ時代に新しい税制を」
グローバル企業に相応の課税ができていないのではないか、という議論が盛んになったのは、2000年ごろからです。対象は必ずしもIT企業だけではありませんでした。経済協力開発機構(OECD)はこの問題について、従来の国際ルールを元に、部分的な修正をしました。
08年のリーマン・ショックがさらにこの議論を後押ししました。各国で財政が悪化し、所得増税などで国民の負担が増えた一方、グーグルやアップル、スターバックスなどが税負担を回避する仕組みを使っていることが次々と明るみに出ました。なかでもIT企業は各国で存在感を高め、利益も巨額なのに、納税のレベルが極端に低いのは不公平だ、という人々の意識が高まりました。フランスでは国民の怒りが、課税できない政府にも向かいました。
なぜ課税できなかったのか。理由は大きく二つあります。
まず、現行のルールでは企業が進出先の国で工場などの「恒久的施設」を持たなければ、法人税をかけられません。たとえば日本でアマゾンから電子書籍や映画を購入しても、配信拠点が米国にあれば法人税は米国で払い、日本には納めないことになります。
もう一つは、税負担の少ないタックスヘイブン(租税回避地)などにほとんど実態のない子会社を作り、利益を移すとても高度な仕組みが作られていたことです。公開データによると、米IT企業など40社以上がこのやり方を使っていました。これは脱税ではありません。税制が追いついていないのです。ただ企業の存在感が大きくなったいま、もっと課税すべきだという声が出てくるわけです。
OECDは15年、「税源浸食と利益移転(BEPS)に関する行動計画」をもとに、国際的な課税の共通ルール作りを始めました。世界中の国が同じルールにしないと抜け道が生まれるためです。現在、プロジェクトに約120の国・地域が参加しています。ただネット上の取引の扱いは積み残されました。既存ルールの根幹に関わる難しさがあるからです。
ところが、この1年弱ほどの間にこの問題が急に進展し始めました。積極的に関わろうとしなかった米国が、議論に参加し始めたことが大きな理由です。トランプ政権は、GAFAなど米国企業だけが「狙い撃ち」にされるのはたまらないと思ったのでしょう。
もう一つの背景は、一部の国が独自にIT企業に課税すると表明したことです。フランスは見切り発車で「デジタル課税」を始めると発表しました。米国も無視できず自ら関わらざるを得なくなりました。ただ欧州でも、アイルランドやルクセンブルク、オランダなど低い税率でIT企業を誘致してきた国と、それ以外の国との間で不協和音が起きています。
いま求められているのは、データをビジネスにする時代に合った新しい税の考え方です。
シリコンバレーのIT企業が持つ重要な価値は「アルゴリズム」です。市場のある国の利用者1人分のデータには意味がなく、集積して解析することで価値が生まれます。そしてこの活動は米国で行われています。では市場のある国でどういう理屈で課税するのか。また、各国で使われるアルゴリズムの開発やデータ管理の費用などをどう計算し、法人所得を算出するのか。極めて難しい問題です。
新しいルールづくりで重要なのは、二重基準にならず、現行の制度から大きく乖離(かいり)しないこと。また、各国の税務当局や納税者、紛争を解決する裁判所などにとっても論理的に理解できるものにすることです。途上国も対応できるよう、簡素な計算式を使うなど実務的でなければなりません。6月には日本でG20財務相・中央銀行総裁会議が開かれる予定ですが、議論の進展を期待しています。(聞き手・宮地ゆう)
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やまかわ・ひろき 1959年生まれ。82年に国税庁に入り、調査査察部調査課長などを歴任。国際課税を長年担当してきた。14年からデロイトトーマツ税理士法人。
情報源:GAFA納税不十分? 元グーグル副社長「税制に問題」:朝日新聞デジタル
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