虐待など幼少期のストレスは遺伝子レベルで受け継がれてしまう可能性、一方ではそれを断ち切れる光明も – GIGAZINE

ふむ・・・


By Sydney Agee
By Sydney Agee

子どもの頃に受けた虐待などのつらい記憶は、その人に一生涯にわたる影響を残すことがあります。これは主に精神面に大きく現れる影響といえるのですが、実はそのストレスが遺伝子の一部にも影響を与え、本人の次の世代にもその「記憶」が受け継がれてしまう可能性があることが研究によって明らかになってきています。

Reduced levels of miRNAs 449 and 34 in sperm of mice and men exposed to early life stress | Translational Psychiatry
https://www.nature.com/articles/s41398-018-0146-2

How stress echoes down the generations – Genetics
https://www.economist.com/science-and-technology/2018/05/26/how-stress-echoes-down-the-generations

この研究は、アメリカ・マサチューセッツ州のタフツ大学のラリー・フェイグ博士らによる研究チームが進めているものです。個体にストレスを与えて影響を見る調査を実際のヒトで行うことは難しいため、チームはラットやマウスを使った研究で、ストレスが遺伝子に与える影響についての調査を行っています。

生き物の形質が遺伝子によって次の世代に伝えられることは既知の事実です。しかしこの時、生き物はその生活の中のさまざまな段階で遺伝子の活性をコントロールすることで、状況に対応することができます。このようなエピジェネティックな現象の存在により、たとえ同じ遺伝子を持つ生物であっても、さまざまな要因によって個体の特徴がわずかに変化し、その変化は次の世代へと受け継がれることが明らかにされています。

フェイグ氏の研究チームはまず28人の男性ボランティアに対し、子どもの頃に体験した心的外傷の度合いをはかるアンケート調査を実施。この時、併せて被験者の精子サンプルの提出を受けています。次に研究チームは、「マイクロRNA(miRNA)」に関連するエピジェネティック現象のメカニズムを調査しました。マイクロRNAの役目は、遺伝子から読み取られた情報を、必要とされるタンパク質を作り出す細胞向上に届ける役目を持つ「メッセンジャーRNA(mRNA)」と呼ばれる別の分子に結合することにあります。マイクロRNAはメッセンジャーRNAを不活性化し、問題の遺伝子の活性を低下させ、DNAとともに精子内を移動することができます。

研究チームが採取した男性の精子をスクリーニングすると、2種類のマイクロRNA「miR-34」および「miR-449」の濃度が、虐待された経験を持つ男性のサンプルでは100倍も低いことが確認されました。

この結果をもとに研究チームは、マウスを使った調査へと進みました。マウスにストレスを与える方法としては、ストレスを与えたい個体を別のマウスがいるかごの中に繰り返し移動させる行為をマウスが成体に達するまで繰り返すことがあげられます。この方法でマウスにストレスを与えたところ、ボランティア男性の時と同じようにマウスの精子でもmiR-34およびmiR-449のレベルが低かったことが確認されたとのこと。

その後、これらのマウスとストレスを受けていないメスのマウスとの交配が行わせ、得られた胚を調査したところ、同様に2つのマイクロRNAのレベルが低いことが確認され、さらに、このようにして生まれた子孫のマウスの精子でも同様に2つのマイクロRNAのレベルが低かったことが確認されています。つまり、子どもの頃にストレスを受けて成長したマウスから産まれたことも世代のマウスに、親が受けたストレスの影響が遺伝子レベルで伝わっていることが確認されたということになります。

研究チームによると、このようにして生まれた子ども世代のマウスは、より不安性が高く、社会性が低いという傾向が見られたとのこと。さらに、その次の世代に生まれてくるマウスにもストレスの影響は及んでおり、ある世代の個体が受けた影響は、その孫のレベルにまで受け継がれていることが併せて確認されているというわけです。研究チームは、この遺伝性の原因がmiR-34およびmiR-449にあることを証明する段階には至ってはいませんが、調査結果はそのことを示唆していると考えられているとのこと。

今回の研究結果をより確実なものにするために、フェイグ氏らはさらに広範囲な調査を計画しています。今後は、被験者の父親にもアンケート調査を行い、被験者に確認されたエピジェネティックな変化が幼児期の経験から引き起こされたものなのか、それとも父親によるものなのかを突き詰める方針を立てているとのこと。また、姉妹や娘を対象にした同様の調査についての計画も立てられています。

この調査は複数の世代にわたる壮大なスケールの影響を明らかにする野心的な内容となっています。ひとたびその内容が確立されると、たとえば親の世代に存在するストレスの影響を、特定のマイクロRNAのレベルを変化させることによって、次の世代へと引き継がれることを防止できるようになる可能性を秘めており、虐待の負の遺産を人為的に断ち切ることができるかもしれないという意味で大きな価値を持つといえそうです。

情報源:虐待など幼少期のストレスは遺伝子レベルで受け継がれてしまう可能性、一方ではそれを断ち切れる光明も – GIGAZINE


ほぉ・・・