山根ことみ女流二段タイトルへの道程

【インタビュー&未公開写真】山根ことみ女流二段タイトルへの道程|愛媛新聞ONLINE

やめねこ


3月11日に行われた将棋の第15期マイナビ女子オープン挑戦者決定戦で敗れ、愛媛県松山市出身の山根ことみ女流二段(24)は、あと一歩ところでタイトル挑戦を逃しました。対局から一夜明けた12日、都内で愛媛新聞のインタビューに応じました。 (聞き手・小田良輔)

■チャンスはあったので悔しい

やまね・ことみ 1998年生まれ。愛媛県松山市出身。松山将棋センターで将棋を始め、新田高校在学中にプロの女流棋士となった。2019年の第5回YAMADA女流チャレンジ杯で優勝、21年の第32期女流王位戦でタイトル戦に初挑戦した。野田敬三六段門下。東京都在住。
やまね・ことみ 1998年生まれ。愛媛県松山市出身。松山将棋センターで将棋を始め、新田高校在学中にプロの女流棋士となった。2019年の第5回YAMADA女流チャレンジ杯で優勝、21年の第32期女流王位戦でタイトル戦に初挑戦した。野田敬三六段門下。東京都在住。
Q.タイトル挑戦者決定戦から一夜明けて、今の心境はいかがでしょうか。

内容自体もいろんな方から「チャンスがあったね」と言っていただいて、本当にチャンスはあったと思うので、そこは悔しいですね。悔しさがじわじわときています。でも、切り替えは早いので、すでに次の対局に向けて準備をしているところです。

Q.その日のうちに、自分の中で分析されているのでしょうか。

モヤモヤしたままで次の日を迎えたくないので、その日にどこがどう悪かったかを反省して、自分の中で処理して忘れるようにしています。だからちょっと眠るのは遅くなったんですけど。一局をじっくり考えて、次の日に延ばさないようにして。だからすぐに切り替えることができました。

Q.分析は具体的にどんなふうにされていますか。将棋ソフトも使って、でしょうか。

棋譜は頭の中で思い出せるので、食事とか何かやりながらでもできます。その局面で自分がどんな読みをしていたか振り返ります。それから(棋譜を)ソフトに入れて。先に入れてしまったら、結果が全部分かってしまうので、自分でまとめて納得してからソフトに入れるようにしています。

Q.今回の対局は午後3時ごろに終わりましたが、遅くなる場合でも、その日のうちに分析を終えるのでしょうか。

寝る前はずっと頭に局面が浮かんでいて、納得したら寝ています。対局の帰り道も歩きながら考えることが多くて、いつも危ないんですよ。考える時に上を見ちゃう癖があって、帰り道とか上を向いたまま歩いていて、一度、電柱に当たったこともあります(笑)

Q.反省を翌日に持ち越さないという言葉を聞いて、山根さんが以前の取材で語っていた大山先生(大山康晴15世名人)の言葉を思い出しました。大山全集には「勝った将棋はすぐ忘れること。(中略)負けた将棋はその原因をはっきりつかむこと。つかんだら、これも忘れる。要するに勝負の尾を後に引かないことである」と書かれていますね。

そうですね、ずっと自分の芯としてありますね。大山先生の教えはずっと自分の中に残っています。

■里見女流四冠の存在

里見香奈女流四冠
里見香奈女流四冠
Q.挑戦者決定戦は里見香奈女流四冠との対局でした。里見さんとは今回が通算して7局目でした。そのうち5局がこの1年間のうちに行われています。

タイトル戦に出たのが大きいですね。相手が誰でも準備して常に同じ気持ちで臨もうと思っているんですけど、やっぱり里見さんという存在はずっと昔からの憧れなので、存在感の大きさを意識してしまうことがあります。
(初めて戦った16年の)1局目の時は気がついたら負けていたので、それに比べたら、周りの方も「チャンスがある」って気づけるくらいなので、いい方に向かっているんじゃないかな。

Q.人工知能(AI)による評価値では50手目くらいまでは山根さんの方が優勢でした。対局直後に話を聞いたときは「(50手目からの)△4四飛車、▲7五歩、△4六銀となってしまい、取れたはずだった銀が『銀交換』になった」ことを反省点に上げていました。

(評価値について)自分が得意ではない序盤でポイントは稼げていましたね。でも(その後)得意なところで間違えてしまったので…。ちょっと迷いながら指してしまいました。迷いがあると、悪い方に手がいくことが多いので。時間差が開いていたのが途中から気になってしまって、だから、そういうところですよね。気持ちは将棋に出てしまうので。そういう焦りが出た手だと思います(51手目の)7五歩は。
自分のペースが保てていなかったと思います。本来は時間を気にせずに自分が納得するまで考えて、持ち時間を十分に使うのがいいんですけど。結果的に(持ち時間を)残しちゃいましたし。焦っちゃったのが悪手になりましたね。

Q.長らく女流棋界でトップに立つ里見さんという絶対的な存在がいます。でも、山根さんが彼女を倒してタイトルを取る姿が見たい気もします。

そうですね。でも、背中を追う立場の方がいいと思うので。ずっとトップを維持されている人なので、目標となる存在があるということで自分は強くなれると思います。でも、まだ全然実力は足りないとも思っていますけど。

Q.「女流」の勢力図も変わってきていて、里見さんと西山朋佳さんの2人でタイトルを占めていましたが、この1年で伊藤沙恵さんと加藤桃子さんがそれぞれタイトルを取りました。

伊藤さんはタイトルを取るべき方だとずっと思っていました。女流の中では一番、伊藤さんの将棋が好きで、将棋界全体を見てもファンなんですよ。棋譜はすごく見ていて。(タイトルを取ったことに)全然驚きもしなかったです。
今タイトル保持者の4人は、それにふさわしいという印象で、私がその中に並ぶことはまだ想像できません。まだ全然、実力が足りないですからね。

Q.伊藤沙恵女流名人は、タイトル初挑戦が15年。今回は9度目の挑戦で初タイトルを勝ち取りました。

伊藤さんクラスの実力者がずっと取れないのはタイトル戦に魔物がすんでいるとしか思えなかったです。今回は(表情を見ていて)自信のようなものが感じられましたし、新しくタイトルを取られた2人は(表情に)自信を感じられました。自分もその活躍を見て頑張ろうと思いました。(2強時代に)風穴をあけてくれたので、自分もそこに飛び込めたらいいですね。

■将棋ブーム 女流の底上げに

Q.藤井聡太五冠の活躍で空前の将棋ブームが来ています。メディアにもたくさん取り上げられ、将棋に関心を持つ方も増えています。

(自分がプロになった)高校生の時だったら、棋士という職業を説明しなければいけない時代でしたけど、最近は「棋士です」と言えば、説明しなくても分かってもらえるので、その面はすごくうれしいです。あと女性のファンの方も増えていて、(自分が携わる)指導会に女性が来てくれることもあります。女性が増えると、将棋を指す女の子も増えてくるので、そうすると女流棋界の実力が上がるきっかけになるので、その面はうれしいです。将来的には(将棋を指す)男女が同じ人数になれば、きっと棋力差もそれほど生まれなくなると思うんですけど。

Q.プロの世界という意味で、比較するのは恐縮ですが、プロスポーツと将棋のプロには大きな違いがあると感じています。例えばサッカー選手なら、ピッチで試合をするのが仕事です。もちろん仕事としてファンと交流することもありますが、棋士の場合は、対局のほかに普及の仕事も大きな柱としてあります。つまり、一般のファンと将棋を指す指導会が当たり前のように存在します。

確かに珍しいですよね。将棋ファンからそれはよく言われますね。愛媛にいたころは子ども教室の指導をしていて、子どもたちと接する機会が多かったんですけど、東京に来てからは大人の一般の方との指導会が増えて、最初は指導も下手だったと思うんですけど、徐々にこつというか自分なりのスタイルもできてきたので常連も増えています。
タイトルに挑戦した後に何人かから、私の将棋を見て「将棋を再開しました」と言ってくださって、それはすごくうれしかったです。私が将棋で活躍するだけで、影響を与えることができる。自分にそんな力があるとは思ってないので、すごくうれしかったですね。それが自分のやる気にもなるし、もっと頑張ろうと思いますね。
指導対局には遠方から来てくださる人もいて、北海道や大阪、広島とか。皆さん足を運んでいただき応援してくださるので。結果で返したいなと思います。

Q.新型コロナウイルスの影響もあると思いますが、今は指導対局はどのくらいの頻度でされていますか。

月1回ですね。ちょっと減りましたね。他に子どもの将棋教室も月2回やっています。

Q.VS(1対1の練習将棋)も今はオンラインが多いのでしょうか。

そうですね。ほぼオンラインですね。ここ1、2年くらい、月1回、先崎先生(先崎学九段)に1対1で教わっています。きっかけは女流棋士のパーティーで、自分から教えてくださいとお願いをし、快く引き受けてくださいました。

■男性棋士との対局 勉強に

Q.女流王位戦でタイトル戦に進んだことで、本年度は男性の棋戦にも女流枠で出場しました。違いはありますか。

まだ2局しか指してないですけど、相手が男性というだけで違和感がすごくあります。相手から見ても同じなんでしょうけど(笑)。読みの違いとかが勉強になることが多いですね。そういう権利を頂けるのはありがたいと思いますね。
ちょうど来週、新人王戦で渡辺和史先生(五段)と指すことが決まっています。渡辺さんは今、十何連勝もしてて、絶好調のときに当たってしまうので。調子が上向いている方とは一局指しただけでも吸収できることが多いと思うので、すごく楽しみですね。今はそこに向けて切り替えています。コテンパンにされないように気をつけます(笑)

Q.棋士にはオフがありません。3月でいったん年間成績は確定しますが、4月からまたすぐに対局が始まります。

私は対局がないとむしろダメ人間になってしまうので、もっと将棋を指したいですね。たまたま昨年の9月は一局もない月で、その時は暇でした。対局があった方が自分のモチベーションも保てます。(対局が今より増えて)疲れるくらい指してみたいですね。

Q.今年は1月の対局が延期になりました。発熱によるものでしたが、検査の結果は陰性でした。

もしコロナだったらどうしようと思っていて。たくさんの方にご心配をおかけしてしまいました。いい1年にしたいなとか思っていたら、体調を崩してしまって。あれが新年1局目でスタートからちょっと転んじゃったので、もうこれ以上落ちることはないかと。まだ先は長いので巻き返せるように頑張りたいです。

Q.山根さんは1998年生まれの寅(とら)年です。今年は「年女」の1年になりますが、どんな1年にしたいでしょうか。

寅年の棋士で思いつくのは、戸辺先生(戸辺誠七段)とか。女流棋士だと、塚田恵梨花さん(女流初段)。攻めに勢いのある方が多いので、私も寅年らしく勢いのある、力強い将棋を指したいなと思います。

情報源:【インタビュー&未公開写真】山根ことみ女流二段タイトルへの道程|愛媛新聞ONLINE



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