ほぉ・・・
2019年9月26日16時00分
日本将棋連盟のプロ棋士養成機関「奨励会」の入会試験が8月にありました。私の教室から4人が合格。「杉本一門」が12人に増えました。
東京と大阪の将棋会館で行われた試験には、小、中学生を中心に全国から有段者の少年少女が集まります。合格には受験者同士が対戦する1次試験で5局中3勝、現役奨励会員と対局する2次試験は3局中1勝が必要です。
実技(対局)が一番重要視されますが、筆記試験や面接もあります。「タイトル保持者の名前を答えなさい」という問題は定番ですが、タイトルは移り変わるので意外と難しい。迷った受験者が「羽生善治九段」と書くことは多いそうです。
奨励会の一番下のクラスは6級。しかしこれはプロの級で、アマの4~5段に相当します。奨励会員は子ども大会やアマ大会に出場できません。もう「アマ」ではないからです。
奨励会に入ると誕生日が嫌いになります。21歳で初段、26歳で四段という厳しい年齢制限があるためです。私は年齢制限の心配をしたことはありませんでしたが、それでも誕生日が来るたびに重たい気持ちになったものです。
奨励会員から棋士になれるのは約2割。10人いれば8人はやめていく運命にあります。入会はそれほどではなくても、卒業は限りなく難しい。それが奨励会です。
私が関西奨励会に入会して2年経ったころ、一つ年下の受験生と2次試験で対戦して負けました。それまでは相手が自分より年上ばかりで、最年少だったことがささやかなプライドでしたが、それを打ち砕かれた瞬間でした。その対局相手の名前は佐藤康光。そう、現九段で、将棋連盟の会長です。
なお、藤井聡太七段の奨励会在籍は小学4年から中学2年までの約4年。入会も昇級スピードもあまりに早すぎて、ライバルは常に年上でした。「年下と対戦したことがない」というのもうなずけます。
一門の弟子が増えたことは、同時に藤井七段の弟弟子が増えたことを意味します。新入会の弟子からすれば、藤井七段は年の近い兄弟子。しかし、立場は天と地ほど違います。
先日、新入会の4人が加わった研究会。たまたま藤井七段も別の用事で隣の部屋にいました。こちらの研究会が先に終わり、私は弟子たちに「棋士の先生(藤井七段)にあいさつをしてから帰るように」。しかし、皆もじもじしてその場から動きません。そのうち弟子の一人が私に「なんてあいさつして帰れば良いですか?」。
学校なら「さようなら」で良いのでしょうが、こんな場合は「(お先に)失礼します」が正解。一列に並んで直立不動であいさつする新入生たちと、自然体の藤井七段。ほほ笑ましい光景でした。奨励会員は棋士との接点が増えます。ここで失礼がないよう、礼節を教えるのは師匠の役目です。
今でこそ奨励会は学校が休みの土日に行われますが、私の修行時代は平日にあり、そのたびに学校を休んだものでした。テスト期間と重なった時は、担任の先生に露骨に嫌な顔をされました。学校の先生に理解してもらえなかった場合、それを説明して説得するのも師匠の役目でしょう。
師弟は、年は離れていても同じ道を志す「同志」です。この世界の師弟は期間限定。弟子が途中で挫折し、他の世界に移ってしまうこともあるからです。それぞれの弟子たちとの付き合いが永久であることを願いつつ、皆で集まって研究会にいそしむ日々です。
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すぎもと・まさたか 1968年、名古屋市生まれ。90年に四段に昇段し、2019年2月に八段。第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。藤井聡太七段の師匠でもある。
情報源:藤井七段、弟弟子が一気に4人も増加 奨励会試験に合格:朝日新聞デジタル
へぇ・・・