不安で…セックスがやめられない

不安で…セックスがやめられない|NHK NEWS WEB

えぇ・・・


インターネット上で気になる漫画を見つけました。タイトルは「セックス依存症になりました。」「性依存症」と診断を受けた男性が、自分の病と向き合い、回復を目指すストーリーです。性依存症は、アルコールや薬物、ギャンブルなど、ほかの依存症と同様に精神科などの一部の医療機関で治療が行われていますが、日本ではあまりなじみがなく、正しく理解されているとはいえません。なぜこのような漫画を描いたのか、性依存症の人たちはどのように病気を乗り越えようとしているのか、取材しました。 (社会部記者 三浦佑一)

“性依存症”とは?

漫画の連載が週刊誌のサイトで始まったのはことしの4月13日。毎週1話ずつ無料で公開されています。

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“性依存症”とは?

漫画は複数の女性と性的関係を結ぶことに執着してきた男性が、心療内科の医師から「あなたがセックス依存症であることは間違いない。このまま放置すると性犯罪で逮捕される確率は非常に高い」と告げられる場面から始まります。

連載序盤では、男性が病気を自覚し回復プログラムに取り組もうとする姿が描かれています。

「性依存症」というこの病気。
日本ではあまり知られておらず、専門に診療している医療機関も多くありません。周りの知人にこの病気を知っているかどうか尋ねてみても「性欲が強い人のこと?」「だらしない人でしょ」という反応がほとんどでした。

一方、アメリカでは「パラフィリア(性的倒錯)」という病名があり、医学事典では「性的興奮をもたらす反復的な強い空想、衝動、または行動によって苦痛または日常生活への支障を来している状態」(「MSDマニュアルプロフェッショナル版」より)などと説明されています。スポーツ選手や俳優などがこの病気だと報じられることも少なくなく、専用の治療施設もあるそうです。

漫画の中で、主人公の男性は医師に自分の症状を打ち明けます。

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「セックスに関する思考や発想が自分の意志とは無関係に脳内をかけめぐる」「過剰な性欲はもはや苦痛になり、解消できないストレスで激しい怒りがこみ上げてくる」「性欲と身体と感情がバラバラ…」。そう訴えながら、衝動を抑えられない自分を情けなく思う男性。しかし医師は「恥ずかしいと思うことが一番あなたを治療から遠ざける」と伝え、自分は病気だと認め治療を受け入れるよう促します。

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作者の思いは

どうしてこのテーマを漫画で描こうと思ったのか。私は出版社を通じて、作者の津島隆太さんに取材を申し込みました。

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作者の思いは

津島さんは、40代で、もの静かで実直そうな男性でした。

約1年前に性依存症の診断を受け、その経験をもとにしたストーリーを、デビュー作となったこの漫画で描いているといいます。

「自分の経験を語ることで、同じ依存症の人たちが治療につながるのを後押ししたい」と、顔を明かして取材に応じてくれました。

津島さんはまず自分自身の過去を語り始めました。
「私は幼い頃から自分に自信がありませんでした。愛情や安心を感じられる唯一の方法が、私にとっては女性との性行為だったんです。その欲求は1人の相手では収まらず、次々と相手を変えていきました。次第に過激な行為を要求して相手の心を支配しようとするようになりました。女性にとって嫌な行為も、私のために受け入れてもらうことが真実の愛だと思い込むようになっていたのです」

さらにそうした自分について「相手のことを考えられない自分に対し、常に嫌悪感がありました。しかしそれでも性への渇望感はやみませんでした。次第に仕事や金銭管理がおろそかになり、女性との関係も破綻していきました。するとその悲しみを埋めるため、また新たに性で支配できる相手を探す。その繰り返しだったのです」と明かしました。

津島さんは今、専門の治療プログラムを受け、一切の性行為を絶っていると言います。
「自分が病気だと認めて性行為を遠ざけることで、不思議と渇望は薄れ、穏やかに過ごせるようになりました。私は犯罪にあたるような行為はしてこなかったつもりですが、多くの女性を巻き込んで迷惑をかけてきたことは事実です。病気を理由に過去の行為が許されるとは思いません。ただこの経験を漫画に描くことで、同じ悩みを持つ人たちが依存症だと気づくきっかけを作りたいのです」と話しました。

各地に広がる自助グループ

津島さんのような性依存症の人はどのくらいいるのか。調べてみましたが、そういった統計を見つけることはできませんでした。

一方で、全国各地には性依存症の人が集まる自助グループがいくつかあることがわかりました。

取材を申し込んだところ、ほとんどのグループから「参加者のプライバシーを守りたい」と断られましたが、ある西日本のグループが特別に私の参加を認めてくれました。

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各地に広がる自助グループ

私が訪ねた公共施設の会議室に集まったのは、いずれも性的な衝動によって社会生活が立ち行かなくなったという男女十数人。不特定多数の異性と交際しては人間関係が壊れてしまう人、風俗店通いで経済的に破綻した人、盗撮や痴漢などで逮捕され職場を解雇された人…。彼らは毎週のように集まって悩みや苦しみを互いに打ち明け、衝動に身をゆだねてトラブルを起こしたり、犯罪を犯したりすることのない日々を送ろうと誓い合っています。医師からの勧めで参加しているという人も多くいました。こうした「仲間どうし」のつながりが、依存症から抜け出す上で重要だということです。

津島さんの漫画を読んでもらい感想を尋ねると、メンバーの女性が話し始めました。

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各地に広がる自助グループ

「すごく、共感しかなくて。私もふとしたことで、頭の中で性のスイッチが入ってしまう。将来への不安やストレスがあってもセックスすればスカッとすると思って、欲望に走ってしまう。漫画は面白かったけど、悲しくもなったかな…私も病気なんだなって」

女性は思いを言葉にしていくうちに、涙ぐみました。

ほかの参加者たちも漫画に共感し、他人から理解されにくい自分たちの悩みが堂々と描かれていることに励まされたといいます。

背景には虐待も…?

さらに取材を進めると、性依存症の原因のひとつに、性暴力被害があることもわかってきました。

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背景には虐待も…?

大分県に住む工藤千恵さん(46)。8歳の時に路上で男に連れ去られて性暴力を受け、いまは被害の苦しみを伝える活動をしています。

工藤さんは「私自身、被害を受けたことをきっかけに、性依存になったんです。私の場合は、性暴力で心も身体も他人に支配された現実を上書きしたかったのか、自分で自分の体を触ることがやめられなくなりました。成人してからその衝動は男性に向かい、同時に複数の人と交際しても収まらないようになっていきました。私のように性暴力被害を受けた後に自分の性行動で悩む女性は少なくないんです」と打ち明けました。

実は漫画の作者の津島さんも性的虐待を受けていた過去があり、今後の連載でその経験についても描くつもりだといいます。

工藤さんは、衝動を受け止めてくれる夫と出会ったことで、自分をコントロールできるようになったと言います。 「こうした漫画を通じてもっと多くの人に性依存症のことを知ってもらうことが、被害にあって生きづらさを感じている人への誤解や偏見の解消につながると思います」と話していました。

性依存症にどう向き合うのか

性依存症の問題は、どのように理解し、解決していけばいいのか、津島さんの漫画を監修する専門家に聞きました。都内の精神科クリニックで性依存症の人を2000人以上診てきたという、精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんです。

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性依存症にどう向き合うのか

斉藤さんは「性行為は一定の年齢になれば誰でも行うことなので、性依存症に陥るリスクは誰でも潜在的にあります。家庭や仕事、恋愛関係でうまくいかず大きなストレスを抱えたとき、それを性でしか解消できないと考えてしまう人が危険です。また津島さんのように性的虐待がきっかけで『自分は性的なことでしか人に愛されない』と思い込み、依存症になったという人も、私のクリニックには多く来ます」と話しました。

また、セクハラや痴漢、不倫問題などにも性依存症が疑われるケースがあるといいます。

斉藤さんは「依存症はよく『否認の病』と言われます。自分が病気とは認めたくない、性のことなど人には相談できないと考えて、問題を長引かせてしまいます。しかし依存症だと認めることができれば、家族への相談、専門の治療、自助グループへの参加など、回復への道が広がります。そうなるためにこの病気が国内でももっと知られる必要があります。単に性欲が強いだけという話と思わず、思い当たれば受診してほしいです」と話していました。

漫画の作者の津島さんも言うように、性依存症であったとしても性行為の強要や犯罪が許されるわけではないと思います。しかし悩みを誰にも打ち明けられずにいる依存症の人たちへの支援はもっと必要だと感じた取材でした。

情報源:不安で…セックスがやめられない|NHK NEWS WEB


セックス依存症を患い、現在も治療中の津島氏。真面目な性格で、世間がイメージしている性依存症患者とは程遠いが…
セックス依存症を患い、現在も治療中の津島氏。真面目な性格で、世間がイメージしている性依存症患者とは程遠いが…
4月13日より、『週プレNEWS』で新たに連載スタートした漫画『セックス依存症になりました。』。本作がデビュー作となる漫画家・津島隆太氏が自身の壮絶な実体験をベースに性依存症の実態、そして克服への道のりを描く異色作だ。

今回、その津島氏と本作の監修を務める精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳(あきよし)氏との対談が実現。現在も依存症からの回復の半途にいる津島氏が、2千人以上の性犯罪加害者と面談してきた斉藤氏とともに知られざるその実情を明かす。

* * *

―本作のテーマでもある「セックス依存症」とはどのようなものなのでしょうか?

斉藤 専門家の間でも意見が分かれていて、実は明確な定義がないんです。例えば、反復する性犯罪は依存症ではないと主張している専門家もいます。したがって私の中での臨床的な定義ですが、まず「性依存症」という大きな枠組みがあり、その中に「犯罪性のある性依存症」「犯罪性のない性依存症」のふたつのカテゴリーがある、と考えています。

「犯罪性のある性依存症」はさらに「接触型」と「非接触型」に分かれていて、接触型は強姦や痴漢、小児性犯罪、監禁などの性的サディズム。非接触型は下着窃盗や盗撮、露出ですね。いわゆる「セックス依存症」は、このうち「犯罪性のない性依存症」に該当します。身体的損失や社会的損失があるにも関わらず、不特定多数との性交渉や風俗通いがやめられなかったりします。既婚者なのに不倫を繰り返し職を失ったり婚姻関係が破綻する、というのもこれに当てはまるといえるでしょう。

津島 斉藤先生の言われた通り、私は典型的なセックス依存症です。そして私の「嗜癖(しへき)」(熱中しすぎるとやめられなくなる行為)は、「処女である若い女性とのセックスがやめられない」というもの。しかも不思議なことに、援助交際や風俗といったお金が介在する行為では代替できないんです。あくまで恋愛関係という体をとっていないと欲望が満たされない。

―しかし一般的にも、若かったり性体験の少ない女性との性交渉を好む男性は少なくないと思います。どこからが「依存症」といえるのでしょうか?

斉藤 よくある質問ですね。セックスに限らずアルコールや薬物、ギャンブル依存症でも当てはまるのですが、その物質や行為によって社会的損失や経済的損失、身体的損失を被っているにも関わらず、それがやめられない状態にあれば依存症であるといえます。

例えば、アルコールを毎晩たしなむ人は多いでしょうが、それだけでは依存症ではありません。つまり飲酒量ではないんです。お酒を手に入れるために盗んだり、たび重なる飲酒問題が原因で会社を解雇されたり、アルコールによって体を壊しているのに酒が切れると離脱症状が出始め、それでもなお酒を飲み続けていれば依存症と診断されるわけです。

津島 アルコールの例ですと、楽しんでお酒を飲んでいる人であれば、体調が優れない時は自分の意思で飲酒を控えますよね。しかし「楽しくない、でもやめられない」というのが依存症で、私もまさにこういった状況でした。

私の場合のセックスにしたって、やりたくてやっているわけではなく、ある種の強迫観念に突き動かされ行為に及んでしまうんです。加えて「年齢の若い処女とのセックス」に限定しているのも、処女が好きだからというわけではないのに勝手に自分で作ったルールに縛られてしまっている。だから自分の中では常に罪悪感や自己嫌悪がある。それも依存症の辛いところです。

斉藤 依存症になると、その依存先が生きがいの全てになってしまうことが多いんです。ギャンブルをするために仕事に行かなくなったり、食事や睡眠を摂らずにやり続けたりと、他の行為に興味や関心がいかなくなってしまうんですね。

さらに、津島先生のように依存症患者の多くは自分の行動を「よくないこと」だと認識し、繰り返すたびに後悔や罪悪感を感じています。そのため、「ギャンブルはやめなよ」「お酒を控えたほうがいいよ」と忠告してくる友人との関係も断ち切ってしまう。そうなると、いよいよ社会との接点がなくなり、さらに依存先にのめりこんでいく、という悪循環に陥(おちい)ります。その先に待っているのは社会的な死、経済的な死、最悪の場合は身体的な死です。

漫画『セックス依存症になりました。』の監修を担当していただく斉藤章佳氏
漫画『セックス依存症になりました。』の監修を担当していただく斉藤章佳氏
ガツガツした肉食系という感じとは程遠い印象を受ける津島氏だが、斉藤先生は「いかにも精力絶倫な“肉食系”の男性を想像するのが偏見」と語る
ガツガツした肉食系という感じとは程遠い印象を受ける津島氏だが、斉藤先生は「いかにも精力絶倫な“肉食系”の男性を想像するのが偏見」と語る

津島 私も当時、付き合っている彼女がいるにも関わらずSNSなどを使って若い女性と関係を持っていました。当然、怪しまれ、浮気がバレ、何度となく元カノとは大ゲンカになりましたね。

―そのインパクトの強いエピソードも作品中に出てくるそうですが…。さすがに、そういったトラブルが繰り返されれば行為を控えるのでは??

津島 いえ、それが依存症の怖いところで、何度、元カノと同じことでケンカになろうと、ほとぼりが冷めるとまた女性とコンタクトを取ってしまうんです。ついには女性に対し、会話をしたり、プレゼントを贈り合うといった行為では愛情や喜びを感じることができなくなってしまう。コミュニケーションの手段がセックス一択になるので、性行為もどんどん過激なものになっていく。

そこでさすがに「これはおかしいぞ」と気がつき、自助グループ(同じ症状を持った依存症患者が交流することにより、症状の回復を目指す取り組みをする集団)と病院に通うことに決めました。

―しかし津島先生は見た感じ、スリムで優しそうな“草食系男子”ですし、セックスに依存するタイプとは思えないのですが。

斉藤 そのような感想を持たれる方も多いのですが、それこそが大きな誤りです。性犯罪も同様ですが、世間のイメージとの乖離(かいり)が非常に大きいんですね。例えば、強姦や痴漢の加害者と聞けば、粗野(そや)で筋肉質、いかにも精力絶倫な“肉食系”の男性を想像するでしょう。そのような男性が性欲を抑えきれず犯罪に手を染めたり依存症に陥る、というのが世間の印象ではないでしょうか。

しかしこれは偏見で、痴漢の加害者には四大卒で妻子のいるごく一般的なサラリーマンが多いんですよ。また、70代で性犯罪を犯す人も治療にきています。

津島 自助グループに来る人の多くもおとなしくて優しそうな人です。子どもがいる方だってたくさんいます。

斉藤 そもそも、性欲が抑え切れず性的な問題行動を繰り返すのであれば、テストステロン(性欲を引き起こす男性ホルモンの一種)濃度が最も高い15歳前後が一番、性犯罪率が高いはずですが、実際は違いますよね。性依存症は性欲によって引き起こされるのではなく、孤独感や満たされない承認欲求、支配欲や優越感など、人間の本質的な欲求や感情が絡まりあった複合的なもの。決して性欲が暴走しているわけではないです。

しかし現代社会では、あらゆる問題が矮小(わいしょう)化される傾向にある。誰もが「簡単に理解できるもの」を求めたがるんですね。ですから、「性依存症患者=性欲が抑えきれない男性」という“いかにも”なレッテルをみんな信じてしまうわけです。

『セックス依存症になりました。』は、津島先生自身の体験をベースにしているだけあって、依存症患者の実態がリアルに描いてあります。偏見を正し、性依存症に悩んでいる人が解決に向けて動き始める一歩の手助けになるのではないのでしょうか。

◆後編⇒作者自らが赤裸々告白し反響を呼ぶ、漫画『セックス依存症になりました。』ーー「心の中で悪魔が囁くような感じでした」

★衝撃の新連載漫画『セックス依存症になりました。』第1話は、『週プレNEWS』で無料配信公開中!

(取材・文/結城紫雄 撮影/鈴木大喜)

津島隆太(つしま・りゅうた)

年齢、出身地ともに非公表。長く漫画アシスタントを務め、4月13日(金)より自らの経験を描いた『セックス依存症になりました。』で連載デビュー。

斉藤章佳(さいとう・あきよし)

1979年生まれ。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。精神保健福祉士、社会福祉士として約20年にわたりアルコール、薬物、ギャンブル、クレプトマニア、DV、性犯罪など様々な依存症問題に携わる。『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『性依存症のリアル』『性依存症の治療』(共著、金剛出版)など著書多数。

情報源:性依存症を作品でカミングアウトした漫画家が赤裸々に描く実体験ーー“楽しくない、でもやめられない”苦悩とは|ニフティニュース

情報源:性依存症を作品でカミングアウトした漫画家が赤裸々に描く実体験ーー“楽しくない、でもやめられない”苦悩とは(週プレNEWS) – Yahoo!ニュース

情報源:性依存症を作品でカミングアウトした漫画家が赤裸々に描く実体験ーー“楽しくない、でもやめられない”苦悩とは – 社会 – ニュース|週プレNEWS[週刊プレイボーイのニュースサイト]


漫画『セックス依存症になりました。』の監修をしていただく斉藤章佳氏(左)と作者である津島隆太氏
漫画『セックス依存症になりました。』の監修をしていただく斉藤章佳氏(左)と作者である津島隆太氏
4月13日より、『週プレNEWS』で新たに連載をスタートし、反響を呼んでいる漫画『セックス依存症になりました。』――本作がデビュー作となる漫画家・津島隆太氏が自身の壮絶な実体験をベースに性依存症の実態、そして克服への道のりを描く異色作だ。
今回、その津島氏と本作の監修を務める精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳(あきよし)氏との対談が実現。現在も依存症からの回復の半途にいる津島氏が、2千人以上の性犯罪加害者と面談してきた斉藤氏とともに知られざるその実情を明かす!
前編“楽しくない、でもやめられない”苦悩とはでは「彼女にハンマーで殴られても、他の女性とのセックスがやめられない」状態にまで陥った津島氏が、荒(すさ)んだ性生活からどのように回復へのプロセスを歩み出したのか…? 本日20日より第2話が配信、そちらとともにお読みいただきたい!
* * *
―自らの依存を自覚し、「自助グループ(同じ症状を持った依存症患者が交流することにより、症状の回復を目指す団体)」に通い出したとのことですが、当然、依存症からの回復には「セックス断ち」が必要ですよね。

津島 そうなんです。グループにもよりますが、私の参加しているところではセックスはもちろん、マスターベーションすら禁止。セックスは1年、マスターベーションは4ヵ月していません。

当初は、セックスだけが私の生きがいだったこともあり、人生の喜びをすべて失ったような気分でした。TVを観ても音楽を聴いても楽しくないし、5分ともたない。

―4ヵ月…依存症でなくても辛そうです。

津島 と、男性なら誰しも思いますよね(笑)。私も「それすら禁止されたら、性欲が暴走して今度こそ犯罪を犯してしまうんじゃないか」と不安でした。

初めは、まさに心の中で悪魔が囁(ささや)くような感じです。「おまえはセックスもマスターベーションもできずにかわいそうだな」と。しかし不思議なことに3日、4日と時間が経つにつれて、悪魔の囁きが次第に遠のいていくのがわかるんです。それに伴い、徐々に性への渇望も薄れていく。これには自分でも驚きました。

斉藤 男性なら皆さん、覚えた時からずっと定期的にマスターベーションをされていますよね。ということはすなわち、それを「一定期間やめた」経験がある男性は非常に少ない。

性依存症患者の人はみんな、津島先生のように「それを断つなんて無理だ」と言うんですが、そういう人の誰もが断った経験がない。つまり、「マスターベーションをしなければ性欲が暴走する」というのは想像上の話でしかないんです。結果的に、やめてみたら意外と簡単だったという人が多い。

―そもそも、津島先生が依存症になったきっかけはなんなのでしょうか?

津島 幼少期、父親から暴力を受けていたことがひとつの要因かもしれません。父からの恐怖を紛らわすためにマスターベーションにふけっていたんです。

斉藤 依存症に陥る要因はひとつではありません。遺伝的要因、環境的要因、心理社会的要因と様々です。親からの虐待はその最たるものですね。対人関係の基盤が安定していなければ社会的に孤立していきますし、その結果として特定の依存先に耽溺(たんでき)するケースが多いです。

特に、対人コミュニケーションの機会が減少した現代社会では、ささいなきっかけで簡単に孤立してしまいます。SNSなどの発達で表面上のコミュニケーションは取りやすくなりましたが、一方では他人の投稿を見て「みんな幸せそうで羨ましいな」「それに比べて自分は充実していないな」と感じた経験がある方は多いのではないでしょうか。SNSには「つながればつながるほど寂しさを感じる」という、ある種、矛盾した側面があるんです。

ですから、大切なのはSNS上で繋がっている人の数ではなく、相手と直に会って交流すること。ジャーナリストのジョハン・ハリ氏の言葉で「アディクション(依存)の反対はコネクション(繋がり)」というものがありますが、依存症からの回復に関しても同じことがいえます。基本的な人間関係を何よりも大事にしてほしいですね。

―では自助グループに通われることにより、完治することができたのでしょうか?

津島 いえ、基本的にどんな依存症にも「完治」するということはないんです。私は1年、セックスをしていませんが、この期間をいかに長く保っていくか、という考え方ですね。正直、「このまま一生、セックスできないのか」と絶望することもありますが。

斉藤 日本では「アルコール依存症」の治療方法が他の依存症治療のモデルとなっています。かつてアルコール依存症患者のたどる道というのは「飲み続けて死ぬ」「断酒する」の二者択一でした。ただ「10年、断酒しています」「20年、断酒しています」という人でも、再びお酒を口にすればコントロールできずに元の生活に戻ってしまう。「回復はするけれども完治はしない」という考え方はそこからきているんです。そういう意味では、依存症は「脳の病気」です。

しかし最近、「ハームリダクション」という新たな治療法が登場しました。海外の薬物依存症患者の治療では今や主流になりつつあるのですが、「違法薬物を合法化する(自己使用に限って)」という考え方です。例えば、ポルトガルでは2001年にすべての薬物の所持と使用が非犯罪化されています。それどころか、病院などで新品の注射器を配ってもいます。要は、安全に薬物の使用さえしていればよいということです。

「この作品の読者の方には、“自分の問題”であると思ってぜひ読んでもらいたい」と語る、斉藤先生
「この作品の読者の方には、“自分の問題”であると思ってぜひ読んでもらいたい」と語る、斉藤先生
対談中もメモを取りながら話を聞く津島氏
対談中もメモを取りながら話を聞く津島氏
―それだと、返って依存症患者が増える気が…。

斉藤 いえ、この施策の面白いポイントは薬物や注射器と一緒に「病院の連絡先」を渡す点なんです。「依存先を完全に断つ」のではなく「まずは自分の意思で薬物の使用をコントロール下におく」ことを目指すということ。そして「コントロール下に置けなくなったらいつでも助けを求めていいよ」ということなんです。

例えば、私が以前、視察したオーストラリアのトイレには使用済み注射器用のゴミ箱まで用意されていますから、非合法で薬物を手に入れ、使い回しの注射器を使うこともなく、エイズやC型肝炎などの感染症を防ぐこともできる。事実、この政策を導入した国の薬物依存症患者や感染者の死亡者は減っています。

ハームリダクションが他の依存症治療でも主流になっていくと、性依存症などの行為、プロセス依存や関係依存にしても「完全に断つ」という方法以外の選択肢が生まれます。依存症のせいで性感染症になったり、不倫をしてしまい家庭崩壊したりというケースはもちろん問題ですが、そもそもセックスって人間が生きる上で大切なことじゃないですか。

―確かに、性行為が自信や承認欲求にも繋がる場合もありますよね。

斉藤 従来の「完全に断つ」というのもひとつの方法ではあります。しかし「性的な満足感を得る」というのも生きる上で非常に重要なこと。ハームリダクションを治療に導入すれば、特定の人とのみのセックスや常識的な回数のマスターベーションをしつつ回復へ向かうことができるかもしれない。もちろん、自分の中である程度、リスクマネジメントできるという条件が必須ですが。

―治療法の選択肢が増えれば、依存症から回復する方も増えますよね。

津島 私の自助グループにも、弁護士や教師や大手企業の重役など職業や地位に関わらず様々な方が訪れています。いろんな方が依存症に陥り、「加害者」になってしまうんです。連日のように性犯罪事件が多発していて、これは社会的にも大きな損失だと感じています。

それに、私は痴漢や強姦といった犯罪行為こそしていないものの、若い女性と過激な性行為をしてきた。彼女たちもある意味、「被害者」といえるでしょう。加害者と被害者、その両方を今後少しでも減らすために『セックス依存症になりました。』で、その実態を周知していきたいと思います。

斉藤 前編でも述べた通り、性依存症患者の方は性格が歪んだ人でもなければ、性欲が抑えきれない変態でもない。そもそもセックスは男女問わず日常的に行なう行為ですから、依存症に陥るかどうかは誰しも“紙一重”なわけです。ですから、この作品の読者の方には、性依存症が“自分の問題”であると思ってぜひ読んでもらいたい。ここでいう“自分”とは、本人がなるかどうかということだけではなく、読者の友人が依存症になるかもしれないし、家族が陥るかもしれないということです。

街中で「痴漢は犯罪です」と啓発するポスターはよく目にしますが「痴漢は依存症です。病院に行きましょう」と教えてくれる人はなかなかいませんよね。でも、病院に行きさえすれば回復への道筋は開ける。『セックス依存症になりました。』を通じて、そういう知識が少しでも広まればいいですね。

(取材・文/結城紫雄 撮影/鈴木大喜)

自身の壮絶な実体験をベースに「実態を漫画で周知したい」と素顔を晒し、覚悟を持って作品にのぞむ津島隆太氏
自身の壮絶な実体験をベースに「実態を漫画で周知したい」と素顔を晒し、覚悟を持って作品にのぞむ津島隆太氏

『セックス依存症になりました。』第2話は本サイトにて!

津島隆太(つしま・りゅうた)

年齢、出身地ともに非公表。長く漫画アシスタントを務め、4月13日(金)より自らの経験を描いた『セックス依存症になりました。』で連載デビュー。

斉藤章佳(さいとう・あきよし)

1979年生まれ。精神保健福祉士、社会福祉士としてアルコール依存症や性犯罪、ギャンブル依存などさまざまな問題に携わる。『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『性依存症のリアル』(共著、金剛出版)など著書多数

情報源:作者自らが赤裸々告白し反響を呼ぶ、漫画『セックス依存症になりました。』ーー「心の中で悪魔が囁くような感じでした」|ニフティニュース

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ふむ・・・