ふむ・・・
プロになって1年半に満たない将棋の藤井聡太(そうた)新六段(15)。並み居る一流棋士を次々と破って17日、史上最年少優勝を果たした。
割れんばかりの祝福の拍手が鳴り響いた。午後4時28分。藤井新六段の117手目▲3七金を見て、広瀬章人(あきひと)八段(31)が投了。この瞬間、史上最年少での一般棋戦優勝の達成と同時に、史上最年少の新六段が誕生した。観戦していた子どもが「藤井君、六段になっちゃった」と喜んだ。会場で見守った師匠の杉本昌隆七段(49)も「素晴らしい日になりました」と笑顔だ。
この日の対局は公開され、解説会と合わせて約800人が訪れた。報道陣も100人を超えた。
午後2時30分に始まった決勝戦は、両者得意の「角換(かくが)わり相腰掛(あいこしか)け銀」という戦型に。藤井新六段の「攻め」対広瀬八段の「受け」とハッキリ分かれたが、検討した棋士たちは「攻めを続けるのも、受けきるのも、それぞれ難しい」と漏らす。両者、40分の持ち時間を使い切った。会場は静まりかえり、記録係の秒読みの声しか聞こえない。
高レベルの応酬が続く中、藤井新六段は93手目に▲4四桂。自分の駒が利いていないマス目に、金取りに放ったのが絶妙手。「仮に後手が飛車で取れば、▲4五歩が用意の一手。先手は、後手の飛車か角を取れる展開になり、攻めがつながります」と解説の佐藤天彦名人(30)。広瀬八段は「完全に見落としました。この手を指されてからはダメです」。攻めがつながる展開となり、藤井新六段は「いけると思いました」。そのままゴールに飛び込んだ。
対局を振り返り、広瀬八段は言った。「(決勝は)ほとんどノーチャンスでした。とんでもない新人だな、と思いました」。藤井新六段は優勝の感想を問われ、「まだ足りないところがある。なお、上を目指していきたい」。緩むそぶりは一切なかった。
これに先立つ準決勝では、藤井新六段が、約30年にわたってトップで活躍を続ける羽生善治竜王(47)に勝利。数々の記録を打ち立ててきた王者も舌を巻く強さだった。
新星が第一人者に挑む「世紀の対決」は、先手番の藤井新六段が攻勢をとった。大胆な手と着実な手を織り交ぜてリードを広げ、押し切った。
両者は昨年、非公式戦で2局対戦経験があり、1勝1敗だった。羽生竜王は「藤井さんは指し手の緩急のつけ方がうまかった。終盤、局面がごちゃごちゃしても、落ち着いていた」とたたえた。
全棋士が参加する棋戦で中学生が優勝したのは史上初で、最年少記録(15歳6カ月)だ。「とてつもないことだと思う。空前絶後では」。史上初の七大タイトル独占などを果たした羽生竜王は感嘆した。
羽生竜王は、子どもの頃からの憧れの存在。「対戦の機会を得ただけでも大変なこと。しかも勝利できて、今後の糧になった」。羽生竜王の指し手の印象について、藤井新六段は「すぐに切り捨ててしまいそうな手を指されたので驚いた。そこに強さを感じた」と話し、「最後まで全力で指せた」と満足感をにじませた。
15歳6カ月での六段昇段も史上最年少記録。段位は棋士の格を示すだけでなく、対局料にも影響する。今後、タイトル獲得や六段昇段後150勝などの基準を満たすと、七段に昇段できる。(佐藤圭司、村瀬信也)
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〈決勝指し手〉先手・藤井新六段 ▲2六歩△8四歩▲7六歩△8五歩▲7七角△3四歩▲7八銀△3二金▲4八銀△7七角成▲同銀△2二銀▲4六歩△6二銀▲4七銀△4二玉▲3六歩△7四歩▲7八金△3三銀▲5六銀△6四歩▲3七桂△7三桂▲6八玉△6三銀▲4八金△8一飛▲2九飛△6二金▲6六歩△5四銀▲9六歩△9四歩▲1六歩△1四歩▲7九玉△4四歩▲4五歩△5二玉▲2五桂△2四銀▲4四歩△4一飛▲7五歩△同歩▲7四歩△4四飛▲4七銀△4一飛▲6七角△6三玉▲7三歩成△同金▲1五歩△同歩▲8五角△7四金▲同角△同玉▲5二金△4三飛▲4四歩△同飛▲5六桂△4五飛▲5三金△8一角▲5四金△同角▲5三銀△8一角▲6四銀成△8三玉▲7四歩△6二金▲4九飛△4一飛▲8六銀△5五歩▲7七桂△5六歩▲6五桂△6一桂▲5六銀△3七角▲7三歩成△同桂▲同成銀△同金▲同桂成△同玉▲4四桂△2六角成▲3二桂成△4三飛▲7四歩△同玉▲6五銀△8三玉▲8五銀△4五角▲7四歩△8一桂▲6四銀△8二銀▲8四金△7二玉▲7三歩成△同桂▲7四銀△8五桂▲同金△7六歩▲5六桂△3六馬▲3七金まで、117手で藤井新六段の勝ち
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第11回朝日杯将棋オープン戦(朝日新聞社主催)の本戦決勝の会場では、藤井聡太新六段の優勝が決まった瞬間、1分近く続く拍手と共に、観客席から熱戦をねぎらう言葉が飛び交った。注目の対戦となったこの日、公開対局と解説会合わせて約800人が訪れ、報道陣も100人を超えた。
藤井新六段の地元・愛知から訪れた森元香奈さん(26)は「本当に強い中学生だなと、同郷として誇らしかった」とうれしそうに語る。藤井新六段がコンピューター将棋や先人たちの棋譜を使って、勉強していると新聞で読んだといい、「努力は実るんだと思いました。まさに日本の宝。将棋界にとって貴重な一日に立ち会えてうれしい」と笑った。
会場を後にする観客たちは「どれだけ進化していくんだろう」などと口々に藤井新六段をたたえていた。(江戸川夏樹)
情報源:藤井新六段、勝負決めた絶妙手 広瀬八段「見落とした」:朝日新聞デジタル
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