【勝負師たちの系譜】藤井聡太竜王、驚きの新記録　同日に最年少６冠＆史上初の一般棋戦年度独占Ｖ – zakzak：夕刊フジ公式サイト

NHK杯

2023.3/25 15:00

ＮＨＫ杯テレビ将棋トーナメントで優勝した藤井竜王＝東京都渋谷区（ＮＨＫ提供）

今まで何度も、藤井聡太竜王には驚かされたが、この１９日、一日で２つの新記録を打ち立てるという離れ業を見ては、驚きを通り越して、唯々脱帽である。

この日の午前に、藤井対佐々木勇気八段のＮＨＫ杯テレビ将棋トーナメント決勝戦が放映された。

視聴者もこれは録画だと分かっている。何せ当日は栃木県日光市で、棋王戦第４局が行われているのを、将棋ファンなら誰でも知っているからだ。

ただし放映されていないテレビ棋戦の勝敗は、放映当日まで発表されないから、実質は放映日が対局日と同じこと。

藤井はこの日、ＮＨＫ杯を勝って優勝。そして一般棋戦と呼ばれる、タイトル戦を除く４棋戦のうち、銀河戦、ＪＴプロ公式戦（ＪＴ杯）、朝日杯将棋オープン戦も優勝しているから、史上初の一般棋戦年度独占を果たしたのだった。

たった４つだが、全部がトーナメント戦で、タイトル戦の番勝負と違い、一局も負けられない棋戦ですべて勝つのは、至難の業。

しかもこれらはほとんどが早指し戦であり、一手でも手元が狂ったら、立て直す時間のない勝負なのだ。

誰も成し遂げた人がいなかったのも、当然である。

そして棋王戦は、渡辺明棋王が２連敗の後、１勝を返したが、ここまでだった。１９日の第４局は渡辺の先手番で、決して悪い将棋ではなく、終盤でもチャンスがあったが読み切れず、負けのコースに入ってしまった。

これで藤井は２０歳８カ月という、羽生善治九段の最年少記録を３年半も縮める若さで、６冠となった。

この６冠には、同時進行していた羽生との王将戦で、防衛を果たすという絶対条件があった。

羽生が２勝２敗まで追い上げたときは、もしかしたらという期待も大きくなっていた。第５局の終盤では、一旦優勢になったらまず逆転を許さない藤井の形勢の針が、一度は大きく羽生に傾くなど、決して楽な防衛ではなかった。それだけ精神的に藤井も、追い詰められていたといえる。

しかしそのチャンスを羽生は生かせなかった。平凡な王手飛車を見送ってからは羽生の勝ち筋が消え、その敗戦を引きずるかのように第６局は良い所なく敗れて、王将戦での羽生のタイトル１００期の夢は消えた。

渡辺にとっても羽生の敗戦は残念だったろうが、残された牙城の名人戦を藤井相手にどう戦うかが、興味あるところとなった。

■青野照市（あおの・てるいち）　１９５３年１月３１日、静岡県焼津市生まれ。６８年に４級で故廣津久雄九段門下に入る。７４年に四段に昇段し、プロ棋士となる。９４年に九段。Ａ級通算１１期。これまでに勝率第一位賞や連勝賞、升田幸三賞を獲得。将棋の国際普及にも努め、２０１１年に外務大臣表彰を受けた。１３年から１７年２月まで、日本将棋連盟専務理事を務めた。