武富礼衣女流初段
2023年3月21日 15時28分
スポーツ報知ウェブでは、1999年卯年生まれの若手棋士、女流棋士に昨年の振り返り、今年の目標を聞きつつ、人柄に迫る連載を行っている。第3回は、昨年、関西から東京に所属を変えるという決断をした佐賀県出身の武富礼衣女流初段。
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「あ、佐賀!これにします!」。将棋界唯一の佐賀出身女流棋士は、カフェのメニューで「佐賀県産」の文字をみつけるなり、即決した。頼んだのは佐賀県産のショウガを使ったアップルジンジャー。「え~佐賀~。うれしいな佐賀」と武富の声が踊る。「母親が最近、ジンジャーシロップ作って送ってくれたんですよ。定期的にママの手作りのものが冷凍で送られてくるから、アマゾンとかけて”ママゾン“って呼んでるんですけど(笑い)」。ストローで一口吸い上げ、「えーおいしい!今度からアップルジンジャー、ママゾンに頼まないと!」。愛らしい笑顔を見せた。
今は都内で一人暮らしをしている。昨年は「決断の年」だった。10月、覚悟を持って、所属を関西から関東に移した。「大学を昨年の3月に卒業して、これからどうしていくかっていうのをゆっくり考えて、東京移籍を選択したんですよね。卒業して、大学生活をふと振り返ったときに、すごい将棋の高い目標を掲げていたのにも関わらず、それに沿うような行動をしていなかったなって思って。入学したときは4年は長いと思っていたのに、あっという間にもう卒業してしまったなって」
大学生活を送る18~22歳は、一般的に棋力が伸びると言われる時期でもある。あっという間に過ぎ去った4年間を省みてはっとした。「自分の危機感をわかっていなかったなって。あ、このまま大きな活躍ができずに月日が経つのかなて思いました」
気づけば、5月で24歳になる。「棋力が伸びると言われている25歳まではもう数年しかないじゃないですか。もう自分の将棋人生のことを考えても、リミットじゃないか、最後のチャンスじゃないかなって気持ちになって。でも、やりきってもないのに、終わっちゃったら、絶対『あのときに…』って後悔するから。すでにちょっと後悔はあるから…」
だから、東京に来た。「優しくしていただいている先輩方に会ったら行きたくないってなっちゃうので、コロナ禍であんまり会えてない今だったら決断出来るって思って」。女流王位戦挑戦者決定リーグ入りも決めた今期。「ひとまずの結果を残せたので、移籍を決断して良かったと思っています」とアップルジンジャーをみつめて言った。
将棋を始めたのは、3歳上の兄の影響だった。兄について回った幼少期。兄が遊戯王カードをやれば、遊戯王カードをやり、ちゃんばらをやれば、武富もちゃんばらをやった。「新聞紙をどれだけ固く丸めて剣を作れるかって(笑い)」。将棋もその流れだった。
父は8歳の兄に将棋を教えた。「絶対私もやりたい」と思った。5歳の武富にはルールを覚えるのも難しいだろうと、父は積極的に教えてはくれなかったが、見て覚えた。半年たつと、父に勝てるようになる。「ほんとにフェアなゲームで、大人とか男女とか関係なく戦える。勝った時の爽快感が、子供心にすごい刺さって」
将棋大会にも出るようになり、週末は福岡の道場まで片道1時間半かけて通った。だけどやっぱり、一番多く戦ったのは、兄だ。一日30~40局。「どっちかが負けちゃうゲームだから、平和には一日が終わらないんですよ。私が最後に負けたら、寝ようとする兄を止めて、『次やったら勝てないと思ってるから寝るの?』って挑発をして(笑い)親はずっと怒ってました。風呂入りなさい、ご飯食べなさい、寝なさいって。ずーっと将棋やってるから。でも、それが強くなるために大きかったかもしれない」
そんな兄だが、武富が女流棋士になっても、反応はとくにはなかったという。「ツンデレなんです(笑い)。あんまり私の将棋にも興味なさそうだなって思ってたんですけど。母によると、すごい成績とか気にして、今日どうだったの?とか聞いてたみたいで。でも、最近は、将棋のこともよく話すようになりました。今でも実家帰ったら絶対将棋指しますし。対局の度に棋譜を見て、なんか言ってきます。勝ったら、『よかったやん』って(笑い)」
最も将棋を指したのは兄。では、最も仲の良い棋士は。「石本さんです」。同じく卯年ながら、1学年上の石本さくら女流二段の名前をあげる。石本のインタビューでも武富の名前が出た。立命館大心理学部で、大学も学部も同じ2人は両思いだが、性格は異なる。「石本さんは、それこそまっすぐで、ここに居ると決めたらきっと10年くらいそこから動かないですよ。すごくストイックで、将棋以外のことあんまり興味ない。趣味の音楽は別として、『食べるのも作業』とか言い出すから(笑い)でも、私はいろんな所に興味が沸いちゃって、時々変なところに行ったり、手を出しすぎて迷子になってしまったりするんですよね」
だけど、今年は、将棋に尽くす一年にする。「自分としてももう、ここでって思っている年」と言い切った。「年女っていうのも後押しになって、今までにないくらいの大きな棋力向上と、あと、やっぱり結果残したいですね。タイトル獲得っていうのは軽々しく言えないですけど、でも目標は高く掲げていたいので、1年のなかのどこかで、タイトル戦で見えるように勝ち上がりたいなって思います」
将棋の話をするときは、アップルジンジャーの甘さも忘れるほどの鋭い瞳をする武富だが、盤外の話のときは、常に笑顔だった。「息抜きに料理をするんですよ。母が栄養士で料理が好きで、教えてくれるんです。昨日も母とビデオ通話しながら、『はい、肉切って』『今、いまそのタイミングで揚げて!』とかひとつひとつ手順を教えてもらいながら作ってました(笑い)チキンカツだったんですけど。楽しかったです」
人なつっこい顔と勝負師の顔。両方を合わせ持つ23歳は、ママゾンに支えられながら、まっすぐに将棋の道を歩いて行く。(瀬戸 花音)
情報源:女流棋士・武富礼衣女流初段 アマゾンならぬママゾンに支えられて東京移籍「最後のチャンスじゃないかなって」 : スポーツ報知
ほぉ・・・
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