羽生善治九段 20023年新春インタビュー

聞き手:鈴木環菜女流三段



羽生九段偉業に挑む

将棋の羽生善治九段(52)は全七冠同時制覇など数々の金字塔を打ち立て、長く第一人者としてリードしてきた。50歳を過ぎ、例話の時代になってもその存在感は色あせない。8日に始まる王将戦で20歳の藤井聡太五冠と対戦。あと一つに迫っている夢のタイトル通算100期に挑む。

夢のタイトル通算100期懸け 8日から王将戦

羽生九段が将棋を始めたきっかけや過去の好勝負、これからのことについて語って。聞き手はテレビ棋戦の司会でおなじみの鈴木環菜女流三段(35)。

―将棋との出会いを教えてください

6歳の時、友達の家に遊びに行って野球やトランプなどで遊んでいた。その中に将棋もあってルールを教わったのがきっかけです。すぐにこつがわからないのが面白かった。やれば分かるところもあって、その加減がちょうど良かった。

-中学生で棋士になり、19歳で初タイトルの竜王を獲得しました。

初めてのことばかりだったのが、思い出に残っています。7番勝負のタイトル戦は長いし、ハードだなと実感した。

-数々の名勝負を繰り広げた谷川浩司十七世名人(60)を王将戦で破り、1996年に全七冠同時制覇(現在は八冠)を果たしました。

普段とは違う雰囲気だったのが印象にあって、終局が近くなり初めて「もしたしたら」という感情を持った。最後まで気を抜かずにやろうと思いました。谷川17世名人に指された名手は、いっぱいある。角をわざと捨てる手とか、印象に残っています。

ミス少ない藤井五冠 対策進める

-昨年は通算1500勝を達成。一方、名人戦順位戦は最上位のA級から降級しました

大きな節目の記録だったので、長く続けてきた結果として非常に良かった。降級については内容的に良くない状況が続いていたので致し方ない。ただ、順位戦は続いていくので気持ちを切り替えて次に挑む姿勢も大事だと思う。

-前人未到のタイトル100期まであと1期。50代で新たな五挑戦です。

記録としても非常に大きなものと考えている。自分自身の実力を上げることを優先して、その積み重ねとして到達できればうれしい。50代になっても故大山15世名人は活躍された。今まで積み上げたものをいかに実力に反映させるか。年齢は意識せず向き合っていきたい。

棋力高め 到達できればうれしい

-8日に始まる王将戦7番勝負で、藤井5冠とタイトル戦初対決です。

藤井5冠は若いが、大舞台に慣れている。そして、非常にミスが少ないですね。出来不出来の差が小さい棋士といえます。今回、何とか実現できてよかった。しっかり準備と対策を煮詰めていきたい。

-人工知能(AI)をどのように活用していますか。プロの将棋への影響は。

自分のアイデアの幅を広げるために使っています。判断が難しい局面ではAIを参考に考えている。広く局面がみられるようになれば、発想が10何ンになると思う。AIは恐怖心がないが、人間同士だとそれに打ち勝っていい手を指していくことに大きな価値がある。

-現役の最高齢記録は加藤一二三九段(83)の77歳です。

それはだいぶ先の話なので、今は目の前の一年を頑張りたい(笑)。

-今年の目標は。

自分の棋力を上げるため、向上心と好奇心を持ち続けたい。その気持ちを大切に新しい一年を過ごしたいですね。

劣勢から逆転「羽生マジック」 七冠独占や19連覇も・・・

将棋界には本流の系譜がある。昭和の時代、巨人と言われた故大山15世名人や棋界の太陽と呼ばれた中原誠16世名人(75)が活躍。「光速流」の谷川17世名人に続き、羽生九段がさっそうと登場、一時代を築いた..
羽生将棋の最大の特徴は卓越した読みと、だれもが気付かない意表の一手指す柔軟な発想力だ。戦法も居飛車以外に、振り飛車も指しこなすオールラウンダーでもある。終盤の巧みな勝負術は「羽生マジック」と呼ばれ、劣勢から多くの逆転劇を生んだ。
羽生九段は史上3人目の中学生でプロ入りすると、19歳で初タイトルの竜王を獲得。次々とタイトルを奪取し、1994年に初の六冠を達成。96年には全七冠同時制覇の偉業を成し遂げた。
その後、通算タイトル99期や王座戦19連覇など、今後破ることが困難であろう、数々の大記録を樹立した。その強さは他の棋士を圧倒し、2017年に初の永世七冠を獲得。18年には国民栄誉賞を受賞した。
近年、AIが急速に強くなり、プロの将棋が劇的に変わったといわれる。以前、羽生九段は「これまでの経験や知識が生かしにくい状況になった」と語ったほどだった。18年末には27年ぶりの無冠に転落。その後、タイトル獲得はないが、昨年は王将リーグを6戦全勝で優勝して挑戦権を獲得し、復調ぶりを示した。
50歳を過ぎても、AIでの研究を取り入れ、努力を怠らない。あくなき探求心が原動力になっている。

はぶ・よしはる

1970年埼玉県生まれ。82年にプロ騎士を養成する奨励会に入会。85年、15歳でプロ入りし史上3人目の中学生棋士に。89年に19歳で初タイトルの竜王を奪取。2012年、故大山康晴十五世名人を抜き、歴代1位の通算タイトル81期を達成。タイトル獲得は竜王7、名人9、王位18、王座24、棋王13、王将12、棋聖16の通算99期。


  

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