永瀬拓矢王座が知る藤井聡太四冠の素顔とは

藤井聡太四冠 永瀬拓矢王座が語る「とんでもなく負けず嫌い」な実像|NEWSポストセブン

負けず嫌いとはよく言われてる気がする。


2022.01.17 19:00

永瀬拓矢王座が知る藤井聡太四冠の素顔とは
永瀬拓矢王座が知る藤井聡太四冠の素顔とは

史上初となる10代での四冠獲得を達成した藤井聡太(19)。最年少五冠獲得も視野に入る天才棋士の強さの理由は一体なんなのか。「才能」という言葉では語り切れない「強さの根源」について、将棋観戦記者の大川慎太郎氏が、同じくタイトル保持者である永瀬拓矢王座(29)に聞いた。(前後編の前編)

圧がない。だが強い

2021年は、将棋界の勢力争いの構図が大きく変化した年だった。それまで「4強」と言われる時代が続き、藤井聡太、渡辺明、豊島将之、永瀬拓矢の4人がタイトルホルダーとして激しくしのぎを削っていた。

だが藤井が大躍進し、豊島から叡王と竜王を奪取。現在、8つのタイトルは3人が分け合っている。藤井が竜王、王位、叡王、棋聖の四冠。渡辺が名人、棋王、王将の三冠。残る王座が永瀬だ。

藤井はさらなる侵攻を目指している。年明けから始まった王将戦七番勝負で渡辺に挑戦しており、1月9、10日に行われた開幕戦は大熱戦の末に、藤井が制した。五冠に向けて好発進だ。そして2月から始まる棋王戦五番勝負は、二冠を目論む永瀬が渡辺に挑戦する。

名人を中心に、冠位者たちが年頭から激しく火花を散らす。彼らに対局以外の交流などはなさそうだが、永瀬と藤井は長年、研究パートナーという間柄である。そんな永瀬にしかわからない藤井の姿があるはずだ。現在の将棋界で藤井はどういう存在に映るのか。その中で永瀬自身は何を目指していくのか。聞きたいことは山ほどあった。

29歳の永瀬は、2009年に17歳ジャストでプロ入りした。通算タイトルは叡王1期、王座3期で計4期を誇る。永瀬は「将棋の鬼」だ。棋士は皆そうだが、飛び抜けている。大晦日も元旦も他の棋士と練習将棋に明け暮れ、昨年の年初には「正月という概念をなくして将棋を指した」という名言(?)を吐いた。公式戦を深夜まで戦っても、翌日は朝から元気よく練習将棋をこなす。

対局の遠征で大阪や地方に行っても、「寄り道をしたことは一度もありません」。観光にもグルメにも関心はない。真っすぐ帰宅し、次の対局の準備をする。酒や博打など論外だ。過剰と極端という単語がよく似合う好漢の息抜きは、『週刊少年ジャンプ』を読むことである。そんな将棋の鬼に昨年、異変が起こった。

「モチベーションが上がらなくなってしまったんです。そんな経験は将棋を覚えてから初めてでした。棋聖戦の挑戦者決定戦(4月)に負けたことが原因のような気がしますが……」

2019年竜王戦第4局の控室にて、談笑するふたり
2019年竜王戦第4局の控室にて、談笑するふたり

藤井とのタイトル戦を熱望していた永瀬にとって、その敗北はあまりに痛すぎた。「7、8月くらいは泥沼でしたね」。

9月から王座戦の防衛戦が始まったが、状態は上向かない。第1局は優勢だったが、挑戦者の木村一基九段に痛恨の逆転負け。私は盤側で観戦していたが、終盤戦で永瀬の顔は青ざめており、感想戦の発話量も普段より明らかに少なかった。

「気合は持続しないので頼ったらダメなんですけど、この時はそれくらい追い込まれていた」と言うように、第2局から根性だけで3連勝し、なんとか防衛を果たした。

転機はやはり藤井だった。11月24日、永瀬は王将リーグ最終局で藤井と対戦。藤井はすでに挑戦権を獲得し、永瀬も残留を決めていた。消化試合と見てもおかしくはないが、「藤井さんに消化試合という概念はない。こちらを全力で倒しに来ているのはわかっていた」と永瀬は言う。この将棋で藤井に競り勝ち、「大きな自信になって、モチベーションが回復した」。それだけ永瀬にとって藤井は大きな存在なのだ。

2人が練習将棋を指すようになったのは、藤井がプロになった翌年の2017年4月から。ちょうど藤井がデビューからの連勝記録を伸ばしていた頃だ。東京で練習したこともあるが、藤井が住む愛知県を永瀬が訪れることが多かった。雑談もせずに駒を並べ、すぐに対局を始める。3局指した後は藤井の師匠の杉本昌隆八段と3人で夕食に行く。そして永瀬は深夜に東京に戻るのだ。

「始めた頃、藤井さんは低段でしたけど、将棋を見ればすごいってわかるじゃないですか。なんでほかの若手棋士は藤井さんと将棋を指しに愛知に行かないのか不思議でした。自分にとっては価値がありすぎるというか、本当にかけがえのない時間ですから」

コロナ禍になってからは対面で練習将棋を指すことを避ける棋士が多く、藤井との研究会もオンラインに切り替わった。仕方がないことだが、永瀬は残念そうに言う。

「特に藤井さんとは直に向き合いたい。すごいですよ。藤井さんはとにかく圧がない。歴代の強豪棋士で圧がなくて強い人って見たことがありません。オーラみたいなものを発していないのに、あれだけ強いんですから」

長所がいくつもある

これぞ激賞、である。ではデビュー直後からそばで見てきて、藤井のどこが強いと思うのか。

「終盤力。それからとんでもなく負けず嫌いなところですね」と永瀬は笑顔で言う。藤井の終盤力の高さはあまりにも有名だが、負けず嫌いは珍しい意見だ。

「藤井さんは温厚だからあまり表には出しませんが、付き合っていて確信があります。藤井さんは相手に負けることよりも、自分に負けることを許さない。だから自分のミスに厳しいんです」

藤井聡太四冠(写真/共同通信社)
藤井聡太四冠(写真/共同通信社)

競う相手なのに、永瀬はなぜだか嬉しそうだ。

「棋士全員の一番の長所を持てたら強いですよね。例えば渡辺名人だったら戦略性がトップです。そういう長所を藤井さんはいくつも手にしているんですよ。まるでドラゴンボールを集めるみたいに」

そういって永瀬は「ハハハ」と笑った。ちなみに永瀬の「一番の長所」は何だろう。「うーん、体力かな」と苦笑する。なるほど毎日朝から晩まで元気に練習将棋を指せるのは永瀬だけだろう。

「でも、その都度体力が完全に回復しているわけではない。回復したらすごいと思いますけどね。自分は精神を肉体から分離させて無になっているだけなので」

「無」という表現は難しいが、将棋以外は考えない没入の境地のようだ。

藤井がいくら強いと言っても、最初から練習将棋で10歳年上の永瀬に勝てたわけではない。

「最初の10局の勝率は自分がはっきりよかったです。ただ次第にいい勝負になって、いつの間にか分が悪くなっていました」

藤井の成長に永瀬が目を見張ったのは、2020年の4、5月。最初の緊急事態宣言が発出された頃だ。

「藤井さんは(公式戦が延期された)自粛期間をうまく使って、見違えるほど強くなりました。自分も現状維持ぐらいはできたんですけど、格段に強くなることはできませんでした」

緊急事態宣言が解除された直後に藤井は棋聖戦と王位戦の挑戦権を獲得し、二冠に輝いている。

「もしも同じことが起こったら、今度は自分もうまくやりたい。でも藤井さんは何事も一回目でうまくやってしまうんです。頭がいいんでしょうね」

(後編に続く)

【プロフィール】
大川慎太郎/将棋観戦記者。1976年生まれ。出版社勤務を経てフリーに。2006年より将棋界で観戦記者として活躍する。著書に『証言 羽生世代』(講談社現代新書)などがある。

※週刊ポスト2022年1月28日号

情報源:藤井聡太四冠 永瀬拓矢王座が語る「とんでもなく負けず嫌い」な実像|NEWSポストセブン



  

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