へぇ・・・
2021.2.15 11:32
準決勝と決勝を奇跡的な大逆転で勝ち、3度目の朝日杯優勝を決めた藤井二冠。それは昭和の大山、平成の羽生に連なる圧倒的な実力を示す内容だった。AERA 2021年2月22日号から。
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その日、渡辺明は藤井聡太に2度負かされた。
2月11日、朝日杯準決勝。「現役最強」と呼ばれ、名人・棋王・王将の三冠を保持する渡辺は、異次元の天才・藤井を相手に、完璧に近い指し回しで勝勢を築いた。中継映像にはコンピューター将棋ソフトの評価値を基にした勝率が示されている。表示は、渡辺「99%」、藤井「1%」となっていた。
■「何それ?」渡辺の驚き
しかし様々な制限のもとに戦う、神ならぬ身の人間同士の勝負では、ときに信じられないようなドラマが起こる。
藤井の玉は絶体絶命かと思われるピンチに立たされた。しかし非勢の藤井は最善を尽くして難解な局面をキープする。強者は最後まで、決して相手に楽をさせない。
藤井玉を追い詰めていたはずの渡辺は、ついにたった一手、ミスをおかした。途端に渡辺の勝率表示は「3%」へと急落する。これが将棋というゲームの恐ろしいところだ。藤井は九死に一生を得た。そして間違えることなく、一気に渡辺玉を詰みに討ち取った。
「負けました」
渡辺は頭を下げ、投了を告げた。直後にあった対局後の検討の中で、藤井は遠慮がちにそっと、渡辺が見逃した藤井玉の詰み筋を示した。
「何それ?」
渡辺は思わずそう声をあげた。それは名人でさえも、すぐには意味が理解できないような妙手順だった。
「将棋は2度負かせ」
という言葉がある。そうなれば最高だ。勝負に勝ち、さらには局後の検討でも才能を示すことによって、将棋は2度勝てる。そのステップを経て、強い棋士はさらに信頼を得て、さらに勝てるようになる。
将棋はもちろん実力が第一だ。その上でメンタルのゲームでもある。対局中の心理が「絶対に負けられない」か「負けても仕方がない」かではずいぶん違う。もし悪手を指してしまっても、相手から「ひどい手だ、弱いな」となめられるか、相手が「この人が指したのなら好手かも」と疑心暗鬼に陥るかで、勝負の行方は違ってくる。
「後手を持っている人が藤井さん以外だったら、渡辺さん勝ってると思うんですよ、正直」
解説の広瀬章人はそう語った。トップ棋士でも、藤井の力を信用しない者はすでにいない。
■藤井さんなら仕方ない
「いやあ、勝ちを逃した。ひどいな……」
朝日杯決勝。三浦弘行は終局直後にそううめいた。九段の実力者、三浦もまた、藤井を相手に途中は勝勢。勝率「98%」という局面にまで持ち込んでいた。そこから藤井はまた超絶技巧を尽くして三浦の攻めをしのぎ、大逆転を呼び寄せた。
三浦が勝ちありと判断したのは正しかった。しかしその明快な順は、局後の検討でもなかなか発見されない。ましてや持ち時間を使い切り1手60秒未満で指さなければならない条件では、勝ちが見つからなくても無理からぬこと。ただしその状況を演出したのは、藤井の実力だ。
「藤井さんなんで、しょうがないですね」。三浦は敗戦の弁を、そうしめくくった。
棋士の真価は逆境でこそ示される。昭和の大名人・大山康晴や平成の覇者・羽生善治も、終盤で何度も奇跡のような逆転勝ちを収めてきた。藤井もまた、その王者の系譜を継ぐ。
藤井は全棋士が参加する朝日杯で、参加4回中、3回目の優勝を飾った。まだ高校生の18歳が同一棋戦で3度優勝したという例は過去にない。
そうした記録はもちろん、藤井の実力を端的に示す。しかしそれ以上に今回の準決勝、決勝の内容は、改めて藤井のけたはずれの強さを満天下に示したことになりそうだ。
藤井が名実ともに将棋界の頂点に立つことはもはや既定路線で、時間の問題にすぎない。それを疑う者は、ほとんどいないだろう。(文中敬称略)(将棋ライター・松本博文)
※AERA 2021年2月22日号
情報源:大山・羽生から藤井聡太に継承された「王者の系譜」 朝日杯「連続大逆転V」で見せつけた真の力〈AERA〉(AERA dot.) – Yahoo!ニュース(コメント)
情報源:大山・羽生から藤井聡太に継承された「王者の系譜」 朝日杯「連続大逆転V」で見せつけた真の力 (1/2) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)
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▲渡辺明名人 vs △藤井聡太王位・棋聖(棋譜DB)
逆転の場面
▲藤井聡太王位・棋聖 vs △三浦弘行九段(棋譜DB)
逆転の場面
- 朝日杯将棋オープン戦 |棋戦|日本将棋連盟
- 朝日杯将棋オープン中継サイト
- 第13回 朝日杯将棋オープン戦 名古屋対局|朝日新聞デジタル
- 第14回朝日杯将棋オープン戦中継|本戦トーナメント:朝日新聞デジタル
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