藤井聡太二冠は運がない…3師匠が明かす「わが弟子」

藤井聡太二冠は運がない…3師匠が明かす「わが弟子」 | Smart FLASH

文庫版に収録


2021.02.14 06:00

藤井聡太二冠は運がない…3師匠が明かす「わが弟子」
藤井聡太二冠は運がない…3師匠が明かす「わが弟子」

最年少記録を次々と更新し、2020年はついにタイトルを獲得した藤井聡太二冠。現在18歳の若さで、棋聖と王位の2つのタイトルを保持している。

最年少記録を次々と更新していく藤井聡太二冠の活躍は華々しいが、若い世代の棋士たちも台頭してきている。

新人王戦を2回優勝している増田康宏六段(23)は、早くから才能を高く評価され、さらなる覚醒が期待される。また、佐々木大地五段(25)は、第45期の棋王戦挑戦者決定戦に進出するなど、毎年好成績を挙げている。

今回は、彼らの師匠に、弟子たちの素顔と将来性を語ってもらった。藤井二冠の師匠である杉本昌隆八段、増田六段の師匠・森下卓九段、佐々木五段の師匠・深浦康市九段の3氏による特別鼎談をお届けする。

左から、杉本昌隆八段、森下卓九段、深浦康市九段
左から、杉本昌隆八段、森下卓九段、深浦康市九段
――藤井二冠は最年少でタイトルを獲得しましたが、先生方から見て、これは早かったでしょうか? 遅かったでしょうか?

森下「私は時間がかかったと思います。まず、2016年3月に藤井君が三段に上がったときに、『君は本来ならもう四段に上がっていなければいけない』と言いました。三段への昇段がわずかに遅れたことで、三段リーグの開幕(4月、10月)に間に合わず、次の期を半年、待つことになった」

杉本「ギリギリで間に合わなかったんです」

森下「そうなんです、そこで間に合っていれば運と勢いで、中学1年で四段昇段ということがあり得たと思ったんです。そこで順位戦への参加が1年遅れている。さらに、2018年度のC級1組順位戦で9勝1敗ながら、次点で上がれなかった。彼は本来なら今はA級でやっていなければダメだったんです」

杉本「うーん、私は藤井は運と勢いはないタイプだと思います」

一同「(騒然)そうなんですか!?」

杉本「運がいいタイプではあまり……。運がよかったら三段リーグに間に合っていますよね。順位戦も“頭ハネ”(同成績で並んだ場合に、順位下位の棋士が昇級を逃すこと)はなかったんじゃないかな? これから出るかもしれませんけど、現時点ではあまりないと思いますよ」

森下「なるほど……。それでこの結果ならば、すごいですよねえ」

杉本「彼はすごい逆転勝ちって、あまりないですよね。序盤が上手いというのもあるのですけど、理詰めで勝っていくのが多い。個性の強い若手がベテランに理解できない作戦で勝ち上がっていくというのはあるのですけど、藤井二冠の将棋はむしろ理解しやすいんです。だから、対戦相手の一番いいものを引き出していく。それで勝ち上がっていくのは、相当に大変なことだと思います」

深浦「確かに藤井さんに負けたときは納得する負け方ですよね。これはもうしょうがないと。そういう意味では、運や勢いというのは藤井二冠には一番かけ離れた言葉かもしれません」

杉本「読み合いで正面からぶつかってきて、負けた相手が『向こうのほうが上手だった』という気持ちになる」

森下「確かに」

杉本「子供のころは、もうちょっとアクロバティックな将棋を指していました。あんな将棋を意識的にやっていれば、タイトルに挑戦するのがもう少し早かったかもしれない。今のオーソドックスな王道のスタイルでは、勢いをつけるのは大変だと思うので。

深浦「何か転機があったのですか? 奨励会に入って棋士らしい将棋になってきたのは」

杉本「そうですね、だんだん渋くなってきたというか。奨励会に入ったときは、かなり受けもしっかりしていた気がしますので。やっぱり何か思ったんじゃないですかね」

深浦「それでも私が予想していたよりも、早くタイトルを獲った印象です。20歳か21歳ごろかと思っていました。というのは、29連勝したときのライバルたち、佐々木勇気君(七段)や増田康宏君、近藤誠也君(七段)らが立ちはだかると思っていたんです。でも彼らが食い止める前に、藤井君のステージは一気に上がってしまいました」

■安定感が増した増田六段、勝率が高い佐々木五段

――森下先生のお弟子の増田康宏六段、深浦先生のお弟子の佐々木大地五段についてもお聞きしたいと思います。

森下「増田は、はっきり言ってこの1年半くらいでかなり強くなった気がします。もともと桁違いに強かったのですが、まだ頑張れる将棋を『どうしてここで投げるんだ?』というのが結構ありました。でも、最近は安定感がグッと増しました。若手の層が渋滞しているといわれますが、その中からいよいよ抜け出ようという感じになってきたんじゃないかと。ちょっと、私のひいき目かもしれませんが」

増田康宏六段
増田康宏六段
――中継の解説などを聞いていても、雰囲気が大人になられた印象です。

森下「そうなんです。以前は『どうして余計なことを言うんだ』と思っていました」

一同(笑)

深浦「『師弟 棋士たち魂の伝承』を読み返したんですけど、増田君は際立っておもしろいですね」

――佐々木大地五段についてもお願いします。

深浦「藤井さんと増田さんの後で、佐々木について話すのはちょっと恥ずかしいんですけど。佐々木は勝率は高いんですが、なかなか順位戦で昇級できないですし、棋戦でも結果(優勝や挑戦)を出せていない。最近、会う機会を作って、ちょっと発破をかけました。『現状に少しでも満足していたら、ますます他の人に追いつかれる』ということを伝えました。やはり、師匠にしか言えないことですから」

佐々木大地五段
佐々木大地五段

■20年後に50代の棋士は、ほとんどいない

棋聖のタイトルを獲得し、関西将棋会館を出る藤井聡太二冠
棋聖のタイトルを獲得し、関西将棋会館を出る藤井聡太二冠
――AIでの勉強は記憶力に頼るので、終盤戦は経験を積んできた棋士の方が強いという意見も聞かれます。

森下「藤井君の終盤は桁違いに強いと思いますが、先日、佐藤康光会長が『いま一番終盤が強い棋士は、豊島(将之)竜王(叡王)じゃないか』と仰っていたんです。詰将棋や次の一手を解く能力は藤井君が一番ですが、実戦における終盤力は豊島竜王が一番じゃないかと。深く読む力、なおかつ心理戦といった駆け引きなど総合的に見た力ですね」

杉本 「うん……そうですね。終盤の強さはなかなか比較しづらいものがありますけど、今の若手は全体的にとにかく上手い。終盤も勝ちやすい形に持っていったり、読みというより形で判断している気がします」

深浦「私もAIで勉強するようになったのですが、そもそもAIで終盤が強くなるかは疑問ですね。記憶はしていきますが、読んだことになっているのかどうか。やはりアナログ的ではありますが、詰将棋をやった方が終盤は強くなるんじゃないでしょうか」

――将棋界の流れが、この数年、特に早くなっているといわれています。

森下「私が棋士になったころ(昭和58年)に比べて、年配の棋士が少なくなりました。今後、現役棋士の低年齢化はさらに進んで、今後5年くらいでそれが顕著になると思います。将棋の変化が激しくなってきているのが、一番の要因ですね。棋士寿命が短くなるというのは、はっきりしています。20年後と仮定しましたら、おそらく50代の棋士はほとんどいないのではないでしょうか」

杉本「活躍する棋士は、いつの時代も20代の若手が多かったのですが、今はその層が圧倒的に厚くなってきています。昔は得意戦法を持っていれば、ベテランでもそれなりに勝てたのですが、今はそれだけでは通用しない。最新の定跡をかなりの部分まで知っていないと、若手相手に互角に戦えない印象です」

深浦「そうですね。若手たちも優秀な同世代が増えて渋滞がかなり激しくなってきています。その中で淘汰されていくわけですけど、一つの棋戦で輝きを見せた若手が、なかなか他の棋戦では勝てなかったりとか。自分の弟子の佐々木が下のクラスを抜け出せないのを見ても、厳しい時代になっていると感じます」

――早指しは若手が有利といわれますが、深浦先生は前期のNHK杯(早指しのテレビ棋戦)で優勝されています。若手と対戦されて、どんな実感をお持ちですか?

深浦「今の流行の勉強法は、早指し戦においてそれほど有効とは思えません。逆に必要なのは反射的なものではないでしょうか。AIでの勉強は深く掘り下げていくので、暗記に頼る部分が大きいわけです。それを短時間のテレビ棋戦とかですべて発揮することはできない。経験値が武器になるので、早指しはベテラン陣にとって有利かと思います。今期のNHK杯でも、木村一基九段(47)が藤井さんに勝っていますしね」

■99期の羽生さんに藤井さんが迫れるか

――今後将棋界で、大山康晴十五世名人(故人)や羽生善治九段のように、長くタイトルを保持する棋士が出現するのは難しいことでしょうか?

森下「藤井君がどうなるかですよね。こればかりは時間が過ぎてみないとわからないのですが、私は藤井君は羽生さんのように長期にわたってトップの座を占める気がしています」

深浦「羽生さんの(タイトル獲得)99期というのは途方もない数字で、藤井さんがどこまで迫れるかは正直わかりません。現役で活躍できる期間というのは短くなってきている実感がありますので、藤井さんがどうなるかは興味がありますね」

杉本「そうですね、弟子のことですけど、確かに藤井は長期にわたってタイトルを複数持つ棋士になると思います。ただ、大山名人のように生涯現役を貫いたり、60代でタイトルに挑戦されたりするような、そこまで息長く続けることがこれからの時代に可能かはわかりません。20年後には優秀な若手がどんどん出てくるでしょうから。……あれ? そのとき藤井はまだ38歳か! これはなんともいえないな。やっぱり18歳って若いですね(笑)」

写真と文・野澤亘伸

師弟 (棋士たち 魂の伝承)
師弟 (棋士たち 魂の伝承)

野澤亘伸著『師弟 棋士たち 魂の伝承』が文庫化。今回の鼎談の完全版も収録されて、光文社文庫より2月9日(火)に発売(定価:748円)。また、続編となる『絆―棋士たち 師弟の物語』が、マイナビ出版より3月11日(木)に発売(定価:1991円)。

(週刊FLASH 2021年2月23日号)

情報源:藤井聡太二冠は運がない…3師匠が明かす「わが弟子」(SmartFLASH) – Yahoo!ニュースコメント

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