杉本昌隆八段

杉本八段VS藤井七段の師弟対決は“まっすぐ”な名勝負になるー 背景にある名古屋・板谷一門“真面目”の系譜[記者の目]:中日スポーツ・東京中日スポーツ

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2020年6月18日 13時31分

杉本昌隆八段
杉本昌隆八段

棋道にひたすら実直な一門ゆえ、この晴れ舞台はきっと語り継がれる名勝負にー。そんな期待が膨らむ第33期竜王戦3組ランキング戦決勝・杉本昌隆八段(51)VS藤井聡太七段(17)の師弟対決。いよいよ20日に指される。

50歳を過ぎてなお衰えることのない将棋へのまっすぐな情熱。杉本八段が体現するのは、一門の美風でもある。昨年の順位戦B級2組復帰、さらに今期竜王戦の快進撃が、そのたまものであるのは言うまでもない。天才少年の入門以来、見せ続けてきた背中。この師にしてこの弟子あり―。藤井七段にとって最大の幸運は、杉本八段に出会えたことだろう。

公式戦での師弟対決は2度目。だが、今回はタイトル挑戦者に駆け上がった弟子と竜王トーナメント入りを争う願ってもない大一番。師は持てるすべてを出し尽くす覚悟で、一世一代の戦いに臨むはずだ。

背景には一門の伝統がある。一門とは名古屋の板谷一門だ。木村義雄十四世名人から板谷四郎九段、板谷進九段父子、杉本八段へと続く系譜だ。とにかく芸に対して真面目、手を抜かない門下として知られる。

「野武士」の風格を備え、観戦記者の山本亨介氏(ペンネーム・天狗太郎)から「野(や)に遺賢あり」と称された板谷四郎九段には、有名なエピソードがある。1980年代「××(ちょめちょめ)八段」としてテレビの人気者にもなっていた芹沢博文九段の晩年、酒におぼれ、将棋に身が入らなくなっていたのを面と向かっていさめたという話だ。

時は86年、岐阜で行われた十段戦七番勝負第2局の打ち上げの席で「芹沢、お前の最近の態度は何だ。ほかでチャラチャラ稼ぐから将棋がおろそかになるのだ」と一喝したと伝えられる(山田史生著「将棋名勝負の全秘話全実話」)。当時の芹沢九段にこのように直言したのは結局、将棋界で四郎九段ただ1人だったという。

四郎九段の弟子で詰め将棋の大家・中田章道七段(68)はこう回想する。「あの当時、大先生(四郎九段)はよく『芹沢はタワケだ』と言いながら芹沢九段のことを心配していました。実直な先生でしたから、将棋に対するああいう態度を見て黙っていられなかったのでしょう」

四郎九段の次男・進九段は「東海の若大将」とのニックネームで知られた。親分肌で人望の厚い先生だったが、47歳で急逝。原因は「仕事のしすぎ」(中田七段)だった。名古屋に将棋会館を建てるという大目標を掲げて日夜、普及に奔走。たとえ体調が悪くても、決して手を抜くことはしなかったという。

そんな四郎・進両九段も空から見守ってくれるに違いない師弟対決。それは一門の誇りを示す戦いでもある。試合開始の瞬間が待ち遠しい。(海老原秀夫)

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杉本昌隆八段 vs 藤井聡太七段

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