感想戦をする木村一基王位(左)と広瀬章人八段。この後、木村王位の降級が決まった=27日夜、静岡市葵区、村瀬信也撮影

残留争いは大混戦 「将棋界の一番長い日」ふりかえり:朝日新聞デジタル

木村王位、残念でした。


2020年2月28日 13時07分

「将棋界の一番長い日」として知られる第78期将棋名人戦・A級順位戦(朝日新聞社、毎日新聞社主催)の最終9回戦一斉対局が27日、静岡市の料亭「浮月楼(ふげつろう)」で行われた。降級の可能性がある棋士が相次いで勝利し、残留を巡る争いは大混戦に。トップ棋士たちの死力を尽くした戦いが深夜まで続いた。

8回戦を終えた時点で、渡辺明三冠(35)の豊島将之名人(29)=竜王=への挑戦と、久保利明九段(44)の降級が決定。降級枠は残り一つで、いずれも3勝5敗の佐藤天彦九段(32)、糸谷哲郎八段(31)、木村一基王位(46)の3人に降級の可能性があった。

自力で残留を決めた佐藤天彦九段
自力で残留を決めた佐藤天彦九段

午後7時41分。午前9時に始まった5局のうち早くも1局が終わった。渡辺三冠が三浦弘行九段(46)に勝って、9戦全勝での優勝を決めた。「今まで取れなかった星。2年前に降級した時には想像していなかった」。順位戦は前期B級1組でも12戦全勝しており、通算21連勝。4月から、初めての名人戦の舞台に臨む。

残留を目指す3人のうち、前期成績に基づく「順位」が10位の木村王位は、敗れると降級が決まる。後がない状況だが、午後10時31分に広瀬章人八段(33)を破った。

午後10時45分、佐藤天九段が稲葉陽八段(31)に勝って4勝目を挙げ、残留を決めた。前名人がA級から即陥落となれば初めてだったが、踏みとどまった。「自分の力を出すしかないと思って臨んだ」と振り返った。

この結果、残留争いの行方は糸谷―久保戦に委ねられることに。糸谷八段が勝てば木村王位の降級、敗れれば糸谷八段の降級だ。

第78期将棋名人戦・A級順位戦の最終9回戦で糸谷哲郎八段に敗れた久保利明九段=2020年2月28日午前0時02分、静岡市葵区の浮月楼、佐藤圭司撮影
第78期将棋名人戦・A級順位戦の最終9回戦で糸谷哲郎八段に敗れた久保利明九段=2020年2月28日午前0時02分、静岡市葵区の浮月楼、佐藤圭司撮影

その糸谷―久保戦は進行が速く、解説の棋士らは「5局のうち最初に終わるかも」と見ていた。当初は糸谷八段が大きくリードしたと見られていたが、8回戦の後、「最終戦も全力で行きます」と話していた久保九段は徹底的に粘り、形勢は急接近した。

検討室が「オーッ」と沸いたのは、糸谷八段が101手目▲6二歩と歩を打った場面。検討室の棋士たちが「この手以外では逆転するかも」とされた有力手だ。「ここで踏みとどまれるのはスゴイ」と、対局を終えて観戦していた渡辺三冠も感嘆。午後11時51分、糸谷八段が勝ち、自力で残留を決めた。木村王位の勝利を知らされた糸谷八段は「負けたら落ち(降級)だったんですね」と苦笑し、「幸運でした」と語った。

糸谷八段の勝利によって6人が4勝5敗で並ぶことが確定。順位が最も下位の木村王位は無念の降級となった。

第78期将棋名人戦・A級順位戦の最終9回戦で久保利明九段に勝ち、自力で残留を決め、笑顔を見せた糸谷哲郎八段=2020年2月27日深夜、静岡市葵区の浮月楼、佐藤圭司撮影
第78期将棋名人戦・A級順位戦の最終9回戦で久保利明九段に勝ち、自力で残留を決め、笑顔を見せた糸谷哲郎八段=2020年2月27日深夜、静岡市葵区の浮月楼、佐藤圭司撮影

ホテルの自室に戻って結果を待っていた木村王位は記者の電話取材に対し、「精いっぱいやったので仕方ない。つらいけど、来期また頑張りたい」。その声に暗さは感じられなかった。

対局直後、インタビューに答える木村一基王位。この後、降級が決まった=27日夜、静岡市葵区、村瀬信也撮影
対局直後、インタビューに答える木村一基王位。この後、降級が決まった=27日夜、静岡市葵区、村瀬信也撮影

挑戦者と降級者が決まる一方、日付をまたぐ戦いが続いていた。佐藤康光九段―羽生善治九段戦だ。共に名人獲得の経験があり、既に残留を決めているが、勝つか負けるかで来期の順位が大きく変わる。終わりの見えない死闘になった。

最後に逆転負けを喫した羽生善治九段
最後に逆転負けを喫した羽生善治九段

終盤、戦況は「羽生優勢」で進み、佐藤康九段は「はっきり負けだと思った」。しかし両者、持ち時間を使い果たし、1手60秒の秒読みで1時間近く指し続けたところで、羽生九段にミスが出る。最後に逆転で制したのは佐藤康九段だった。終局は28日午前1時13分。「終盤は勝ちがあったと思うが、決めきれなかった」と羽生九段。激闘の余韻が残り、佐藤康九段は記者の質問にしばらく声が出なかったが、「運がよかった」と語った。

対局を振り返る「感想戦」は午前2時52分に終了。約18時間に及ぶ「長い日」が幕を閉じた。(村瀬信也、村上耕司、佐藤圭司)

感想戦をする木村一基王位(左)と広瀬章人八段。この後、木村王位の降級が決まった=27日夜、静岡市葵区、村瀬信也撮影
感想戦をする木村一基王位(左)と広瀬章人八段。この後、木村王位の降級が決まった=27日夜、静岡市葵区、村瀬信也撮影

A級順位戦最終9回戦の結果と終局時刻

渡辺 明三冠○―●三浦弘行九段 19時41分

木村一基王位○―●広瀬章人八段 22時31分

佐藤天彦九段○―●稲葉 陽八段 22時45分

糸谷哲郎八段○―●久保利明九段 23時51分

佐藤康光九段○―●羽生善治九段 翌1時13分

最終結果と最終順位

渡辺 明三冠(9) 9勝0敗 1位挑戦

広瀬章人八段(3) 5勝4敗 2位

佐藤康光九段(5) 5勝4敗 3位

佐藤天彦九段(1) 4勝5敗 4位

羽生善治九段(2) 4勝5敗 5位

糸谷哲郎八段(4) 4勝5敗 6位

三浦弘行九段(7) 4勝5敗 7位

稲葉 陽八段(8) 4勝5敗 8位

木村一基王位(10) 4勝5敗 9位降級

久保利明九段(6) 2勝7敗 10位降級

(かっこ内数字は開始時の順位)

情報源:残留争いは大混戦 「将棋界の一番長い日」ふりかえり:朝日新聞デジタル




来期はどうなるかな・・・