将棋の藤井聡太七段(左)と作家の小川洋子さん=大阪市北区、滝沢美穂子撮影

藤井聡太×小川洋子対談「作るというより浮かんでくる」:朝日新聞デジタル

ほぉ・・・


2020年1月3日14時00分

将棋の藤井聡太七段(17)と作家の小川洋子さん(57)が対談した。目覚ましい活躍を続ける高校生棋士と、数学やチェスを題材にした小説も手がけてきた小川さんが、考えることやアイデアの源泉などについて語った。

将棋の藤井聡太七段(左)と作家の小川洋子さん=大阪市北区、滝沢美穂子撮影
将棋の藤井聡太七段(左)と作家の小川洋子さん=大阪市北区、滝沢美穂子撮影

小川 将棋盤、予想していたよりも小さいですね。

藤井 碁盤よりも小さいです。

小川 改めて見ると、マス目が9×9というのは頭ではわかっていましたが、実際に目の前に置かれてみると、ここで死闘が繰り広げられるとは思えません。最初に将棋を指した時のことは覚えていますか。

藤井 5歳の頃に、祖母からルールを教わって始めました。

小川 すぐおばあちゃんにも勝てるようになったと。

藤井 結果的には、それが続けるきっかけになりました。

小川 子どもの将棋大会で負けて2位になった時の、体をくの字に曲げて泣いている映像が印象的でした。覚えていらっしゃいますか。

藤井 舞台の上で羽織はかまを着て決勝戦を戦った時、普段なら考えられないようなミスをして負けてしまいました。すごく悔しい気持ちと、恥ずかしい気持ちがあったのかなと思います。

小川 プロになって、今は17歳。負けて泣くことはできませんね。悔しさはどう発散しているんですか。

藤井 負けて感情が激しく動くことは、以前ほどはありません。将棋は、自分の指し手の結果が全て返ってきます。悔しい気持ちはありますが、間違えたところを反省して次に生かすことが大事かな、と思っています。

小川 (英文学者で詰将棋作家の)若島正先生は、「将棋は偶然勝つことがない競技だ」とおっしゃっていました。負けを、自分以外のせいにはできないのでしょうね。

藤井 他の要因が絡まないので、受け入れやすいかなと。

小川 小さい頃のエピソードでかわいいなと思ったのは、「考えすぎて頭が割れそうだ」とおっしゃったという話です。そんな子どもはあまりいないと思います。将棋だと頭が割れるほど考えられるのでしょうか。

藤井 そうですね。将棋はどこまで考えても終わりがないので。

小川 私は将棋を指さないのでわからないのですが、勝つための一手と最善の一手がイコールでない時はあるのですか。

藤井 うーん。もし相手が「絶対に間違えない」という神のような存在だったら、イコールになりますが、実際の対局だと相手も間違えることがありますので。局面としての最善手と勝つための最善手が、完全に一致するとは限らないですね。ただ、自分は、相手が間違えるという前提に立って考えることはあまりないですね。

小川 やはり局面の最善を考えるんですね。では、美しい一手は勝つための一手とイコールですか。

藤井 いい手を「美しい」と感じることが多いと思いますが、必ず当てはまるとは限りません。今まで経験したこともないような局面で、普通ならあり得ないような手が最善ということもあります。

将棋の藤井聡太七段=大阪市北区、滝沢美穂子撮影
将棋の藤井聡太七段=大阪市北区、滝沢美穂子撮影

小川 今はAI(人工知能)が出てきて、将棋が一段と深まっている時代だと聞いています。機械を使うことに抵抗はないですか。

藤井 強くなるために有効であれば、採り入れるのが自然かなと思っています。

小川 AIが示す手は奇想天外なものなのですか。

藤井 人間では思いつかないような手を示すこともあります。でも、それを拒絶するのではなくて、その手の意味を考えることが必要かなと思います。

小川 AIも理由があって、その手を選んでいるんでしょうね。

藤井 ただ、それを教えてくれるわけではないので、解釈を自分で加える必要があります。

小川 詰将棋がお得意だと伺いました。素人からすると将棋と詰将棋は同じではないかと思うのですが、全然違うものなんですね。

藤井 詰将棋は、実戦ではなかなか現れないようなロジックで成り立っているものが多いので、そうしたことを理解するのが速く解くことにつながるかなと。

小川 詰将棋は解くだけでなく、作る分野もあるんですね。それもお好きなんですか。

藤井 そうですね、自分も作ることがあります。

小川 作る時は、どういうイメージから入るんですか。

藤井 いや、それが難しくて。詰将棋は作ろうと思って最初からとりかかることはほとんどなくて、ふとした時に思いつくことが多い気がします。

小川 作ろうとして作るというよりは、イメージが浮かんでくる。

藤井 浮かんだアイデアを形にしていく感じです。

藤井 小説を書かれる時は、どのようなところから着想を得るんですか。

小川 藤井さんが詰将棋を作ることについて聞かれた時と同じで、私もその質問に答えるのは難しいですね。小説も、本当にどこからともなく浮かんでくるんです。チェスを題材とした小説「猫を抱いて象と泳ぐ」を書いたのは、(2004年に)羽生(善治)さんが、不法滞在で拘束されていた天才チェスプレーヤー、ボビー・フィッシャー(08年に死去)に「日本国籍を与えて欲しい」と訴えるメールを首相宛てに出したと知ったことがきっかけでした。「フィッシャーはチェスの世界のモーツァルトのような存在」という内容で、「チェスの中にも美しいと思えるものがあるんだな」と感じて小説に書きたい、と思いました。私立麻布中学・高校(東京都港区)のチェス部に取材に行くと、ちょうど藤井さんぐらいの少年がチェスを真剣にやっていました。一つのことを一生懸命考えている横顔は本当に美しくて。2人の人間が、言葉を発しないけれどコミュニケーションをとれるというのは、なかなかできない体験ですよね。

藤井 「猫を抱いて象と泳ぐ」は読ませていただきました。

小川 ありがとうございます!

藤井 チェスを通してコミュニケーションをしているのが印象的でした。

小川 盤を挟んで人格や人生観をぶつけあって、言葉がない状態でも2人の人間が密接に関わりを持つ世界ですね。将棋を指していても、相手がどんな人間なのかわかるんじゃないですか。

藤井 確かに公式戦でも、普段はお話ししたことがない方と指すことがありますが、対局を通して相手のことを知れたような気持ちになることがあります。

作家の小川洋子さん=大阪市北区、滝沢美穂子撮影
作家の小川洋子さん=大阪市北区、滝沢美穂子撮影

小川 (2017年に)公式戦29連勝の新記録を作ってから、だいぶ時間が経ったんですね。「29」という数字が良かったですね。(従来の記録の)28にプラス1だったというのが、作家の立場からするとうまい具合で(笑)。30も40もいかないで、29だったということが意義深い気がします。

藤井 自分の実力以上の結果が出たのかな、と思います。30戦目は、強い若手の佐々木勇気七段と当たって。全力を尽くしましたが、相手に上回られてしまいました。

――小川さんが書かれた「博士の愛した数式」には、「28は完全数」というエピソードが出てきます。

小川 前の連勝記録を持っていた神谷広志八段が「28は完全数だから、大事にしている」とおっしゃっていました。「完全を超えた」ということですね。

――藤井七段を主人公にした小説は書けそうですか。

小川 なかなか軽々しく書けるとは思えないです。天才と呼ばれることは、ご本人は気が重いのかもしれないですけど、我々凡人には宝物のような存在です。私の年からすると、こういう息子がうちにいたらうれしいだろうな、おいしいご飯を作ってあげたいな、と思えるような青年ですね。藤井さんのお母さんがうらやましいです。

藤井 (苦笑しながら)ありがとうございます。

小川 2020年になりましたが、どんな未来を描いていますか。

藤井 19年はトップ棋士の方と対戦できる機会が多くありましたが、自分の足りないところ、課題が明確になったかなと思います。これからそれを克服して、タイトルに近づけるようにしたいです。(構成・村瀬信也)

〈ふじい・そうた〉 2002年、愛知県生まれ。16年、史上最年少でプロ入り。19年、朝日杯将棋オープン戦で2連覇を達成。名古屋大教育学部付属高校の2年生。

〈おがわ・ようこ〉 1962年生まれ。91年、『妊娠カレンダー』で芥川賞。2004年、『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞。昨年10月、最新刊の『小箱』を発表。

〈完全数〉 自然数Aの、A自身を除いた全ての約数の和とAが等しい場合、Aを完全数と呼ぶ。6(1+2+3=6)、28(1+2+4+7+14=28)などがある。

◇この特集は村瀬信也、佐藤圭司、撮影・滝沢美穂子が担当しました。

情報源:藤井聡太×小川洋子対談「作るというより浮かんでくる」:朝日新聞デジタル



ふむ・・・