昨年3月のC級2組順位戦最終戦で、今泉健司四段に敗れた瀬川晶司五段(現六段)。感想戦時も袖をまくっているところに、熱戦の余韻が感じられた。(村瀬信也撮影)

夢をあきらめない――異例の脱サラ棋士・瀬川晶司六段の次の夢|朝日新聞記者の将棋の日々

ほぉ・・・


昨年3月のC級2組順位戦最終戦で、今泉健司四段に敗れた瀬川晶司五段(現六段)。感想戦時も袖をまくっているところに、熱戦の余韻が感じられた。(村瀬信也撮影)
昨年3月のC級2組順位戦最終戦で、今泉健司四段に敗れた瀬川晶司五段(現六段)。感想戦時も袖をまくっているところに、熱戦の余韻が感じられた。(村瀬信也撮影)

五つのクラスから成り、将棋界の最高峰「名人位」へとつながる順位戦。前途洋々な若手と経験豊富なベテランが棋士人生を懸けて戦う対局室には、希望と不安が入り交じった独特の空気が漂う。昇級と降級を巡る戦いに多くの人の視線が注がれる一方、思わずカメラのレンズを向けたくなる勝負に立ち会う時がある。

2018年3月15日に指された瀬川晶司五段(現六段)と今泉健司四段の対局も、その一つだった。第76期C級2組順位戦の最終10回戦。4勝5敗の瀬川も7勝2敗の今泉も、アマチュアとして活躍した後に編入試験を経てプロ入りした共通点がある。異色の経歴を持つ2人の初顔合わせが順位戦の最終戦で実現したのは、何かの縁だったのかもしれない。

今泉が得意とする中飛車に対して瀬川は三間飛車を採用し、熱戦になった。終盤、瀬川が今泉の玉を追い詰めたが、今泉は粘って決め手を与えない。熾烈な攻防を制したのは今泉だった。

この日は、10戦全勝での昇級を果たした藤井聡太六段(現七段)の取材に多くの報道陣が集まった。午後11時16分に終わった瀬川と今泉の戦いは、既に昇級にも降級にも関係がなくなっており、記者はほとんどいなかったと記憶している。しかし、ワイシャツの袖をまくって将棋盤に向かう2人の姿は、真剣勝負の迫力を十二分に物語っていた。

棋士になるには、養成機関「奨励会」の過酷な競争を勝ち抜く必要がある。その座を勝ち取れるのは原則として年間4人だけだが、2005年に「編入試験」という新たな道が切り開かれた。重い扉をたたいたのが、瀬川だった。

瀬川は奨励会で三段にまでなったものの、年齢制限により26歳で退会を余儀なくされた。だが、その後はアマ大会、そしてプロの公式戦で大活躍する。2000年に銀河戦で7連勝すると、04年には同じ銀河戦でA級棋士の久保利明八段(現九段)に勝ち、ベスト8入りする快挙を果たした。「これほど強い人がプロになれないのはおかしい」という声に後押しされ、編入試験の実施が決定。瀬川は、この千載一遇のチャンスを見事にものにした。35歳のサラリーマンによるドラマは、将棋界の枠を越えて大きな話題となった。

あれから14年。親子ほどの年の差がある若手の加入で年々競争が激しくなる中、来年50歳になる瀬川は奮闘を続けている。

「プロ編入ということだけで終わりたくない。まだ頑張れると思っています」
10月。ある取材の際、瀬川は今後に向けて、そう意欲を語った。

今年10月に朝日新聞の取材を受けた瀬川六段。(村瀬信也撮影)
今年10月に朝日新聞の取材を受けた瀬川六段。(村瀬信也撮影)

プロ入り後の通算成績は233勝209敗。「王位リーグ入り」「竜王戦5組昇級」といった実績は残しているが、夢をかなえた時に思い描いていたような成績ではない。順位戦は、最も下位のC級2組のままだ。

「何かで一番になりたい。今までの最高成績は銀河戦のベスト8なので、それは抜きたい。まだアマチュア時代の自分に勝てていないのが情けない」

苦笑しながら語ったその言葉は、偽らざる心境だろう。

将棋界の前例を覆して行われた編入試験は、その後、正式に制度化された。その関門を2014年に突破したのが、元奨励会三段の今泉だ。そして今年。やはり元三段の折田翔吾がプロ入りを目指して、編入試験に臨んでいる。

「色々な棋士がいてもいいと思うんです。試験が自分だけの特例として終わらず、制度化されたのは良かった。自分は何もしていないのですが」
控えめにそう喜ぶ一方、こんなことも口にする。

「去年、仕事で青森に行った時、年配の方に『この前、藤井君に勝ったね』と言われたんですよ。これは、『(NHK杯で藤井七段に勝った)今泉君と間違えられているな』と。2人とも編入試験に合格してプロ入りしたので、間違えられたんでしょうね。頑張らなきゃな、と思いました」
そんな話を冗談にできるところに、瀬川のおおらかさとサービス精神を垣間見る。

12月8日。瀬川は先輩の豊川孝弘七段と共にトークショーに出演した。自身をモデルにした映画『泣き虫しょったんの奇跡』のDVDの発売開始に合わせ、東京・四谷の「ねこまど将棋教室」がイベントを企画。約20人のファンが2人の話に耳を傾けた。

今月8日、豊川七段と一緒に「ねこまど」のトークイベントに出演し、ファンを沸かせた。(村瀬信也撮影)
今月8日、豊川七段と一緒に「ねこまど」のトークイベントに出演し、ファンを沸かせた。(村瀬信也撮影)

瀬川と豊川は奨励会時代、同じ研究会でしのぎを削った。気心の知れた間柄とあって、笑いを誘うエピソードが次々と飛び出す。豊川はいつも通り、得意のオヤジギャグを連発して場を沸かせていたが、瀬川の人柄について語る際は「笑いなし」だった。

「彼のすごいところは、人にかわいがられるところなんですよ。本当に人を悪く言わないんですよね」

14年前、編入試験の話が持ち上がった際には、特例を認めることに対する根強い反対意見もあった。結果的に賛成意見が上回ったのは、単に「将棋界にとってプラスになる」というだけでなく、「瀬川にチャンスを与えてやりたい」という考えも広がったからだろう。瀬川が「将棋が強いだけの人ではない」ことは、多くの棋士が知っていた。

話題は、2人が弟子をとっていることにも及んだ。瀬川にはいま、4人の弟子がいる。

「一番上が2級です。みんな奨励会に入ったのが中3とかなんで、苦労しているというか。月1回、研究会を開いています」
棋士を目指す少年たちは、指導をする相手であり、時に刺激を受ける存在でもある。

トークショーの合間には、サイン会も開かれた。ファンが持参した「しょったん」のDVDに、瀬川はこう書き込んだ。

「夢をあきらめない」

瀬川は次の夢の実現に向けて、走り続けている。

情報源:夢をあきらめない――異例の脱サラ棋士・瀬川晶司六段の次の夢|朝日新聞記者の将棋の日々(幻冬舎plus) – Yahoo!ニュースコメント

情報源:夢をあきらめない――異例の脱サラ棋士・瀬川晶司六段の次の夢|朝日新聞記者の将棋の日々|村瀬信也(朝日新聞 将棋担当記者) – 幻冬舎plus



今泉健司四段 vs △瀬川晶司五段(棋譜を見る

第76期 順位戦 C級1組 10回戦

初手は、▲今泉四段 5六歩 vs △瀬川晶段 3四歩
131手 6三同馬まで、▲今泉四段の勝ち




へぇ・・・