慶応大休学し将棋専念 西山朋佳女王が語る「プロ棋士への“壁”と里見さんのこと」

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へぇ・・・


西山朋佳女王インタビュー #3

現役奨励会三段で唯一の女性奨励会員、西山朋佳女王。インタビュー3回目は三段リーグでの戦い方、里見香奈女流六冠とのタイトル戦について聞いた。(全4回の3回目/#1、#2、#4も公開中)

西山朋佳女王
西山朋佳女王

◆ ◆ ◆

トップ棋士には「あらゆる将棋で負ける」

――関東に来てから、研究会(実際に集まって練習将棋を指す)を始めたと聞きました。

西山 関西は地方からくる人が多いからか、ネット将棋ばっかりの人がたくさんいました。でも関東だと少数派で、ほとんどの人が研究会をやっているイメージです。だから、いまギャップに困るんですよね。自分は『将棋倶楽部24』(ネット将棋の対戦サイト)ばっかりやっていましたけど、いまは棋士の棋譜を見て、棋風を知っておかないといけないですから。

研究会は段級の近い奨励会員同士で始めて、そのうち色々なところにお呼びいただいて、棋士の先生にも教わりました。

――ネット将棋と研究会、何が違うんでしょうか。

西山 ネット将棋より、研究会のほうが実際の対局に近いですね。相手の息遣いや雰囲気で、色々と考えるんですよ。例えば、ネット対局だと自分の意見しかわからないから、自分が「優勢」だと思ったら「優勢」でいいんです。でも、盤で向かい合うと、自分がいいなと思っても、相手の表情や様子で向こうも自信ありそうなのがわかるんですよ。そのときにどう気を強く持つかは難しい。その技術は教えてもらうというよりも、相手から吸収する、盗む感じですね。

――奨励会員同士の研究会と棋士に教わるのは、どう違いますか。

西山 棋士の先生には、2年前ぐらいから定期的に教わるようになりました。力が違い過ぎるので、ひたすらボコボコにされるときもしょっちゅうあるんです。そのあとに三段と指すと、自分たちはまだまだ伸びしろがあるんだなと思います。

――そんなに違うんですか。

西山 教わる相手がトップ棋士だと、あらゆる将棋を負けるんですよ。序盤の勉強量が違うので、駒組みのスキを突かれてボコボコにされますし、こちらの序盤がうまくいっても勝負術がたくさんとんできて逆転負けします。これが歴戦の一手だなと感じることが多いです。

――『24』だと、基本的にレーティングの近いユーザー同士で指すから、圧倒的に棋力が上の人に教わることができるのも、研究会ならではといえそうですね。

西山 そうですね。

――研究会を重ねるにつれて、実際の対局でも時間を使うようになったと聞きました。

西山 まだまだ考えていない手が大量にあったんだと気づいたんですよね。いま思えば、早指しだったのは、読めていなかったんですよ。相手にやられたら嫌な手が見えないとだめなんです。

――一方で、それが見えたら、将棋を指すのが怖くなりそうです。

西山 この手が嫌だなと思っていると、実際に指されることも多いんですよ。そのときに精神にきますよね。

――そうやって戦い方を変えると、心身の疲れが違ってきそうです。

西山 熱戦だったなと思うことが増えましたね。考えることが増えたからでしょうか。

ほかの三段と違って対策を立てられやすいのでは?

――棋戦に出場する西山さんの将棋は中継されるので、ほかの三段と違って情報を集められやすいです。対策を立てられやすいことは気にしますか。

西山 私は力将棋にするようにしていますし、たくさんレパートリーを作るようにしているので、あまり心配していないです。それに、ある形で快勝したりすると、相手が怖がって避けてくるときも多いんですよ。その辺りは一長一短かなという感じです。

――逆に、まったく交流がない三段の情報はどうやって集めますか。

西山 奨励会員には必ず師匠がいて、その同門の人がいるので、その人に聞いたりします。「王道タイプで筋のよい手を指してくるけど、筋の悪い手を指さないのが欠点だよ」とか、参考になりますね。

――それを知っていると、プラスとマイナスの両方がありそうですね。相手の癖が分かると戦いやすいけど、逆にその人らしい一手が出ると持ち味が発揮されたように感じて、必要以上に大きく見えてしまうときもあるんじゃないですか。

西山 いやー、そうなんですよ。駆け引きというか、情報を取り入れすぎるのもだめなんです。

最近は感想戦でも「ソフト」という単語さえ聞かない

――将棋ソフトは使っていますか。

西山 普通の人より少ないです。どうしても分からなくなったら調べますけど。

――「三段リーグは流行のサイクルが速い」と聞いたことがあるので、ソフトを使っている人は多そうですけどね。

西山 真っ二つに分かれる気がしますけど、バリバリに使っている人はいないんじゃないでしょうか。仮によく使っていても、どこかで壁を感じてやめるひとが多いと思います。最近は感想戦でも「ソフト」という単語さえ聞かない気がしますよ。三段リーグはそういうのじゃないというか、点数がプレッシャーになってくるんですよ。事前の研究通りに進んで300点よしと知っていても、思考が緩んじゃいますし。あとで調べたら、プラス1000からすぐにマイナス2000とか、一瞬で点数はひっくり返るんで、あてにしちゃいけないと思います。

――いくらよくなっても、勝ちきらないと意味ないですもんね。

西山 そうです、そうです。勝ちきる手が必要なんです。

トップ棋士の先生はまず体を鍛えている

――心のスタミナも関係あるんでしょうか。

西山 ええ、ちょっと形勢が悪いと思っているひとのほうが勝ったりするので。対局中に自信を持ち過ぎて、変に傲慢になってもいけないんでしょうけど。

――スタミナって、どうやってつけるんでしょうね。

西山 トップ棋士の先生は、まずみなさん体を鍛えている感じがしますね。めっちゃ体力をつけているんだなと気づくことが多いです。

――脳や思考力だと、スタミナの意味はまた違いそうですね。

西山 丸山(忠久九段)先生のおっしゃる「読みの筋肉」なんでしょうか。あの言葉、みんなしっくりきていますよ。普段からしっかり読んで読んで読んでという習慣をつけているから、土壇場になっても力を出せるということなんでしょうけど、いまの自分の力では実感できていないので、よくわからないです。

「洋服も困らないように10着ぐらい一気に買った」

――2018年、第11期マイナビ女子オープンで加藤桃子女王に挑戦します。2014年以来、2回目のタイトル戦です。前回とは臨み方は変わったのでしょうか。

西山 4年前の後悔を徹底的に思い出して、改善して挑みました。何もかも緩かったんですよね。前夜祭の服装も、前は日程が近くなってからアワアワしながら買いにいったんですけど、今回は10着ぐらい一気に買って、もう絶対に困らないようにしました。スピーチもちゃんと練習して、盤外のことで気が散らないようにしましたし。あと、相手の対策を立てようと思って、相手の棋譜を見るようにしました。

――え、前は見てなかったんですか?

西山 ええ、見てなかったです。奨励会と同様に、ネット将棋をやっているから、それでいけるだろうと思って。あとは暑がりなので、そこも対策して、どうしようと思うことがないように全部予習するようにしました。

――シリーズは第1局に負けて、その後に3連勝で奪取となりました。

西山 準備したおかげで、突然負けになる将棋は減ったかなと思います。1局目に負けてしまったのは勉強不足でしたが、2局目以降は指し慣れた将棋になり、伸び伸び指せました。

――タイトルを獲って、何が変わりましたか。

西山 中2の3月に奨励会に入会してから、いままで階級がひとつずつ上がるぐらいしか成果がなかったので、初めて大きな結果を出せて認めてもらったのかなと思いました。師匠は、私が高校生のときからタイトルを獲れるんじゃないかと評価してくださっていたから、遅くなってしまったんですけど。でも、たくさんお祝いしてくださいました。

――女流のタイトル保持者枠で、棋士の棋戦に出場するようになりました。

西山 注目してもらえると考えると、恥ずかしい将棋は指せないので、色々と用意して挑むようになりました。大きな成長の機会にさせてもらっています。

次の日の腰の痛さが……(笑)

――棋士の棋戦は持ち時間が長いものが多いです。例えば、竜王戦は持ち時間が5時間ですね。いままでの対局とは、何か違いますか。

西山 次の日の腰の痛さが……(笑)。体のメンテナンスをしないといけません。夕食休憩はとまどいますね。夜戦を迎えるというか、体力を問われる時間帯になっていると感じます。集中という概念が抜ける瞬間があって、途中からふわふわしちゃって、ぼーっとして読めなくなるんですよ。順位戦(持ち時間は6時間)でコンスタントに勝たれている先生のすごさを知りました。でも、まだ真の長時間をやった感じではないので(※10月27日時点で、いちばん遅い終局が18時57分)、これからです。

里見さんは「豊島将之先生に近い」

――2019年度から、里見香奈現女流六冠とのタイトル戦が続いています。まず、今年の春に開幕した第12期マイナビ女子オープンでは、里見香奈女流四冠(当時)が挑戦してきました。複数のタイトルを保持している里見女流四冠はほとんど挑戦を受ける側なので、挑戦者に迎える人はかなり少ない。西山さん自身はどういう気持ちでシリーズを戦ったのでしょうか。

西山 トーナメントを勝ち上がってくる過程から注目してみていたんですけど、礒谷(真帆現女流初段)アマ戦とか、「え、もしかしたら負けるのかな」と思ったところから、逆転勝ちされて。内容が充実されているので、苦戦するんだろうなと思っていました。3勝1敗で防衛できたのは、運の要素が強すぎたかなと感じています。

――かなり準備したんですか。

西山 そうですね。里見さんはソフトを使われているでしょうし、作戦を立てるタイプなので、転んじゃうと厳しい。全体的にスキのない方なので、ちゃんと準備しないとただ負けちゃうなと思いました。

――里見さんは同じ振り飛車党です。戦い方も参考になるんでしょうか。

西山 私が持つ戦型をほとんど指されている方なので、里見さんが棋士と指している将棋は、私が三段リーグで指している将棋と近いところもあって、参考になります。

――心構えはどうでしょうか。里見さんは勝っても負けても、結果より内容に関心があって、淡々としている印象です。

西山 ええ、豊島(将之名人)先生とかと近いのかなと思いますね。私はちょっと真似できないです。一喜一憂タイプだと思うので。

――話を聞いていて思いましたが、将棋ソフトでの研究が当たり前になり、研究会を減らす棋士もいる一方で、西山さんは将棋でメンタル面を重視するようになったんですね。

西山 メンタルは勝負の大事な要素だと思います。一部でも、メンタルゲームだといったりしますし。プロで上のほうにいくと違うと思うんですけど、三段はいろんな要素が出てくるので、強靭なメンタルの人が強いなと思います。

(全4回/#4へ続く)

にしやま・ともか/1995年6月27日生まれ、大阪府大阪狭山市出身。伊藤博文七段門下。2010年、6級で奨励会入会。2015年、三段。
女流棋戦のタイトル戦登場は5回。2018年、第11期マイナビ女子オープンで初タイトル「女王」を獲得。2019年、第12期マイナビ女子オープンで里見香奈女流四冠の挑戦を退け、防衛を果たした。
得意戦法は振り飛車で、豪快なさばきが持ち味。

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