「あまり勝負へのこだわりがない」及川拓馬六段が勝ちまくる理由を妻はどう見たか

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へぇ・・・


及川拓馬六段、上田初美女流四段インタビュー #2

子育てをしながら「棋士」と「女流棋士」として活躍している及川拓馬六段と上田初美女流四段。この後編では、より将棋のことにフォーカスをして話を進めていこう。

昨年度は、及川六段が7割6分7厘と棋士全体でも5位の高勝率をあげ、順位戦C級2組を全勝で昇級したことでも大きな注目を集めた。今期も目下5連勝中、順位戦で4勝1敗と好成績を挙げている。

また、上田初美女流四段は、男性棋士のA級リーグに相当する「女流名人リーグ」に在籍し、昨年度は7勝2敗の好成績をあげるとともに、渡部愛女流王位(当時)との対局では「名局賞特別賞」も受賞したことでも話題となった。

及川さんの好成績の理由

棋界の話題になるほどの好調ぶりだが、妻である上田さんは、及川さんの好成績の理由をSNSに2つ書いていた。その2つとは何か。妻のSNSは読まないという及川さん自身にはわかるだろうか。

及川 うーん。2つですか。ひとつは、二人目の子供が生まれてモチベーションが高くなったことですね。

上田 そう。

及川 もうひとつはなんだろう……。金が必要になったとか?

上田 わはは(笑)。

――上田さんは、今、流行している将棋と、及川さんの指したい将棋がマッチしているのではないかと書かれていました。

及川 なるほど。

――これは具体的にどういうことですか?

上田 すごく簡単にいえば、振り飛車が勝ちやすい時代とか、居飛車が勝ちやすい時代というのがあるんですよね。そのときに勝ちやすい棋風というのがあって、今の将棋が、彼が指したい将棋と合っているのではないかなと思います。

及川 そうですねぇ。ひとつ目の子供がもうひとり生まれたというのは、たしかに大きいです。モチベーションって大事なんですよ。私の中で。

――気持ちの面が大切だと。

及川 私は、勝ちにこだわることがあまりできなくて、精神面であまり棋士に向いてないんです。負けだったらしょうがないなって思ってしまう。でも、それはすごくよくなくて……。棋力が同じ場合に勝敗を分けるのは、勝ちへのこだわりなんですよ。

対局があれば、堂々と家から出られる

――二人目のお子さんが生まれて、勝ちへのこだわりが出たと。

及川 というより、二人目の子供が生まれたことで、より自分の時間が少なくなり……。それで対局のときが、ちょっとした息抜きのような感じになって、頑張れるようになったんですよね。

――単純な責任感とはちょっと違う?

及川 勝つとまた対局がありますからね。対局がないと、家にいなくちゃいけないから……。

上田 ははは(笑)。

――勝って対局があれば、堂々と家から出られると(笑)。

上田 対局には、文句はつけられませんからね。

及川 結婚したときと、一人目、二人目が生まれたときが、私の成績が一番いいらしいんですよ。節目のとき、いろいろとモチベーションが高いほうがいい結果を残せるようですね。

旦那さんの将棋は見ますか?

――上田さんは、旦那さんの将棋は見ますか?

上田 中継されていれば見ますよ。

――どんな心境ですか?

上田 間違えないで欲しい(笑)。

及川 うん(苦笑)。

上田 やっぱり普通の観る将の人より先が見えちゃうので、いろいろ考えてしまうんですよ。ずっと見ていると精神的に大変なので、終盤だけ見ます。上の子が寝てから「どんなもんかな?」という感じです。そのとき接戦だと、嫌ですね。

――接戦だと、間違えないかドキドキすると。

上田 いかにも間違いそうな局面だと、1手進むごとにそれが正解だったのか読んでしまうから大変なんですよ。結果だけ知るほうが楽ですね。

――それで勝って帰ったら、すごく喜んでくれているというわけでも?

及川 ないですね。

――ははは(笑)。

及川 まあ、機嫌はいいですかね。負ければ、機嫌悪いかな。

上田 将棋の内容にもよりますね。

――帰ってから一緒に将棋の検討をしたりとかは?

及川 しないです。

上田 でも自慢はされますよ。

及川 自慢はしますね。

上田 今日の将棋、よかったでしょって(笑)。

人より将棋のコツを掴むのが上手い

及川さんと上田さんは、口を揃えて「一緒にめっちゃ指した」という間柄。

お互いの将棋について、そうとう深く知り合っているお二人に、それぞれの将棋について語ってもらった。

――及川さんから見ると、上田さんの将棋は、どういった将棋ですか?

及川 そうですねぇ……(長考に沈む)。

上田 ふふふ(笑)。

及川 才能はあると思いますよ。あんまり将棋の勉強をしていないのに、将棋が強い。だからセンスはあるんだろうなと思います。たぶん、人より将棋のポイントというかコツを掴むのが上手い。

――コツ?

及川 ここを押さえておけば負けにくいポイントが、将棋にはあるんですよね。それを見抜く力があると思います。

タイトルをどうしても取りたいとは思わない

――及川さんは、自身で勝負に淡白なところがあると話しておられましたが、上田さんはどうですか?

及川 私よりは負けたくないという気持ちが強いと思います。まあ、でもそれほど強いほうではないですかね。

上田 タイトルをどうしても取りたいとか、そういう感じはないですね。目の前の将棋に負けたくないというのはありますけど。

――勝つと機嫌は?

及川 そりゃ機嫌はいいですよね。

上田 ルンルンしています(笑)。でも、それは当然ですよ。

――負けたときの立ち直りは?

及川 私は遅いと思います。

上田 私は早いでしょ?

及川 早い、早い。

――何か立ち直る方法ってありますか?

及川 私は、対局の次の日に予定を入れるようにしています。原稿の仕事などを強制的に入れておくと、気が紛れますから。

上田 私は落ち込むことに意味を感じないんですよ。やらなきゃいけないこともたくさんあるので、彼がいつまでも落ち込んでいると、腹が立ってくるんですよ。負けて落ち込むなら、次に勝てばいいじゃんというタイプの人間ですね。

最近、泥臭さが加わった

――上田さんから見て、及川さんの将棋はどんな将棋ですか?

上田 さわやかです。

――それは……泥臭くない?

上田 そうですね。そこが問題でもあったんですが、最近、泥臭さが加わった感じですね。

及川 いやぁ、それほど変わってない……。

上田 多少は粘るようになったでしょ。

――終盤の粘りというのは、詰将棋の力とは違うものですか?

及川 詰将棋を解くのが早い人で終盤が泥臭い人はいませんね。私はそれほど早いほうではないですが、今、藤井聡太さんとか、泥臭くないですよね。斎藤慎太郎さんも棋風はさわやか。泥臭いっていうのは、実戦派の人なんですよ。詰将棋が好きな人は、さわやかな感じなんですよね。

理論的に説明できる将棋が好き

及川拓馬六段は、詰将棋作家としても知られた存在。『将棋世界』では「詰将棋サロン」の連載を持っている。それだけに、詰将棋解答選手権で5連覇するなど、同じく詰将棋を愛する藤井聡太七段は、とても気になる存在だという。

及川 今、対戦したい棋士といえば、藤井聡太七段です。

――それはなぜですか?

及川 藤井さんの将棋って、私から見るとしっくりくるんです。「どうしてこの手が指されたか」をすべて理論的に説明できる。私はそういう将棋が好きなんですよ。

――プロの将棋でも、そういう手ばかりじゃないと。

及川 そうです。将棋って、理論的な手ばかりじゃなくてもいいんです。理屈では説明できない実戦的な手というのもあります。でも、私は、理論的な将棋が好きなんですね。

――指していて楽しい将棋というのはありますか。

及川 ありますね。自分と価値観とか感覚が同じだと楽しい。だから、藤井聡太さんと指してみたい。緊張するんで、まあ、あまり大きくない舞台で。

――感性が似てられるんでしょうね。じゃあ一局指したあと、感想戦などでお話ししたら、仲良くなれそうですね。

及川 いや、それは恐れ多い……。

娘さんが将棋をやりたいと言ったら?

棋士と女流棋士の夫婦にとって、もっとも聞かれる質問のひとつが「娘さんも女流棋士にしますか?」だという。上田さんは「本人が望めば」というスタンスのようだが、及川さんはどう考えているのだろうか。

及川 私も将棋教室をやっていて、いろんな子を見ていますけど、女の子って将棋にハマらない子がほとんどなんですよ。だから本人から「やりたい!」ということは、ないんじゃないかなと思っています。

――上田さんから見ても、将棋というのはやはり男性向きだと思いますか?

上田 将棋って、コツコツと積み上げなければいけないところがありますよね。この点において、感情の起伏が少ない男性のほうが適していると思います。だから脳とかじゃなく、ホルモン的に男性に向いているんじゃないでしょうか。

才能を受け継いでいるのかは見てみたい

及川 たとえば競技人口が男女で同じになれば、突出して強い女性は出るでしょう。でも男女を平均してみて、同じ強さになるとは思えないですね。将棋って、ちょっと戦いというか争いごとなので、やっぱり男性に向いていると思います。でも、娘たちがどれだけ才能を受け継いでいるのかは見てみたいですね。どうせやるなら早いうちにやってもらって、どれくらい強くなるか興味があります。

上田 でもまだ3歳ですよ。ようやく駒を並べられるようになったくらいで、ルールもわかっていませんから、まだ少し気が早いですね。

以前、上田さんがなんとも微笑ましいパパと娘の様子をツイートしていた。

「最後まで聞いたらお菓子あげるよ」
「わかった」
~2手指す~
「もう終わった?」
「いやあと50回くらい」

この娘さんがいつか将棋に興味を持ち、どれくらい強くなるのか――。観る将としては、こんなところも楽しみだ。

及川六段は、現在、叡王戦において本戦トーナメントに駒を進めている。ネット中継もある叡王戦の本戦は、きっと上田さんも自宅で「間違えないで」と見守っていることだろう。そんなことも想像しながら、初戦となる久保利明九段戦を楽しみにしたい。

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