王位戦第7局を制し、対局を振り返る木村一基王位=9月26日、東京都千代田区

46歳で初タイトル 木村一基王位が挑戦前に語ったこと:朝日新聞デジタル

ほぉ・・・


2019年10月31日13時00分

王位戦第7局を制し、対局を振り返る木村一基王位=9月26日、東京都千代田区
王位戦第7局を制し、対局を振り返る木村一基王位=9月26日、東京都千代田区

将棋界の覇権争いが群雄割拠の様相を呈している。羽生善治九段(49)が無冠となり、20代と30代がタイトル戦で活躍する中、10代の藤井聡太七段(17)のタイトル初挑戦が現実味を帯びてきた。一方、ベテランの木村一基王位(46)が、歴代最年長で初タイトル獲得という快挙を果たした。今後、「時計の針」は進むのか、それとも戻るのか――。

10月21日。渡辺明王将(35)=棋王、棋聖とあわせ三冠=への挑戦権を争う第69期王将戦の挑戦者決定リーグ戦(通称・王将リーグ)で、羽生と藤井が対戦した。ここまで羽生は2勝、藤井は2勝1敗。注目の対決は藤井が82手で制した。公式戦で両者の顔が合うのは、昨年の第11回朝日杯将棋オープン戦の準決勝以来、1年8カ月ぶりだった。

王将戦挑戦者決定リーグ戦で対戦し、一局を振り返る羽生善治九段(右)と藤井聡太七段=21日、東京都渋谷区
王将戦挑戦者決定リーグ戦で対戦し、一局を振り返る羽生善治九段(右)と藤井聡太七段=21日、東京都渋谷区

藤井はこの勝利で3勝1敗となり、リーグの暫定トップに立った。「いいペースなので、残り2局、全力を尽くして挑戦を目指したい」。タイトル獲得100期の大台到達まで「あと一つ」に迫っている羽生は「まだリーグは続いていくので、残りの対局も全力を尽くしていきたい」と話した。

将棋界は近年、世代交代が進みつつある。羽生は昨年末、27年ぶりに無冠となり、再起を図る立場となった。今年2月には、渡辺が久保利明九段(44)から王将を奪取。八つのタイトルの保持者は渡辺や豊島将之名人(29)など、全員20代と30代になった。進行中の第32期竜王戦七番勝負も、広瀬章人竜王(32)と豊島が争っている。

棋聖就位式で就位状を手にする渡辺明三冠。棋王、王将も保持する=9月4日、東京都港区
棋聖就位式で就位状を手にする渡辺明三冠。棋王、王将も保持する=9月4日、東京都港区

こうした流れにあらがったのが木村だ。6月に第60期王位戦の挑戦者に名乗りを上げ、豊島から4勝3敗でタイトルを奪取した。46歳3カ月での初タイトル獲得は、従来の記録を9歳も更新する快記録だ。

木村は今回が7回目のタイトル挑戦。獲得まで「あと1勝」に度々迫りながら、逃してきた。9月26日に決着した第7局の後の囲み取材で、「今回なぜ勝てたのか」と問われると、「わからないですね。たまたまだと思います」。その一方で、最近は将棋に取り組む時間を増やしてきたことを明かした。移動中などにも、将棋の作戦のことを考えるように努めたという。

棋士は40代半ばを過ぎると、成績が下降線をたどることが多い。年齢についての質問には、「いいイメージのものは一つもない。3年ぶりの2日制だったが、やはり疲れる。戸惑いながらやっていた」「40代の半ばになって、現実的にはどんどんきつくなっていると感じる。自分なりに研究の時間を増やして頑張るしかない」。慎重な言葉が続いたが、気を緩めないこうした姿勢も大願成就に結びついたと言えるだろう。

木村王位は豊島二冠(当時)との対戦前、「まず『ストレート負けしないように』と考えるんですよ。それでは情けないなと、自分でも思うんですけど」と語っていた。「上昇志向ではなくて、現状維持思考」。王位戦開幕前のインタビューから、木村王位の本音を探った。

王位挑戦を決め、七番勝負開幕前に抱負を語る木村一基九段(当時)=6月18日、東京都渋谷区
王位挑戦を決め、七番勝負開幕前に抱負を語る木村一基九段(当時)=6月18日、東京都渋谷区

―― タイトル挑戦に向けての心境は。

いまだ戸惑っているところがあります。タイトル戦が久しぶりという戸惑いと、自分がそんなに調子が良くないかなという思いと。自分が挑戦者でいいのかなと思います。

―― 調子が良いという実感はないのですか。

ないです。ただ、ここ2、3年の中で一番将棋に取り組んでいるので、それが結果に出ているのかなという感じがします。

―― どう取り組んでいるのでしょうか。

ゆっくり棋譜を並べたり、将棋に時間を取ったりするようになりました。どこかに出かける時も、10分でも20分でも(頭の中で考える)題材を用意していくようにしています。

―― そのように取り組むようになった理由は。

やらないと、ついていけなくなったからですね。ただ、年を取ったせいか、飲み過ぎのせいか、記憶力が落ちてきて、前にやったことを忘れてしまうこともある。けっこう自己嫌悪に陥ることはあります。

―― 研究の際に将棋ソフトは使いますか。

使ってます。行き詰まった時にアイデアを出してくれる。1人でやるよりは、はかどります。

―― 王位戦で対戦する豊島将之名人の印象は。

最先端を行っている人ですね。羽生さん(善治九段)とかは、人間味で勝負というところが多かった気がする。豊島さんは、よりAI(人工知能)化している感じ。豊島さんはゆっくり指さないので、戸惑うかもしれないなという不安はあります。あとは謎の人ですね。あまりよくわかりません。

―― タイトル戦は7回目の挑戦になります。

前半はストレート負けすることが多かった。何回か勝つようになって、いい勝負ができるようになった実感はありますが、最後に実力差が出た気がします。6局目、7局目になると、第一人者はとっておきの変化球が出てくる。やっぱり持っているものが違うんだなあと。

―― 一番印象に残っているタイトル戦は。

3年前の王位戦第6局の対局後、戦いを振り返る木村一基八段(右)と羽生善治王位。木村は第6局、第7局に敗れ、タイトル獲得を逃した(肩書は当時)=2016年9月、神奈川県秦野市
3年前の王位戦第6局の対局後、戦いを振り返る木村一基八段(右)と羽生善治王位。木村は第6局、第7局に敗れ、タイトル獲得を逃した(肩書は当時)=2016年9月、神奈川県秦野市

やっぱり直近ですかね。3年前、(羽生九段に)王位戦で負けてダメだった時。(2日制の)タイトル戦の時、封じ手の後の1日目の晩に眠れなくて、ずーっと苦労してたんですよ。3年前は、5局目まではちゃんと眠れていたのに、あと1勝となった6局目で急に眠れなくなった。克服したつもりだったのに。心も弱いんだなと感じました。寝不足のせいもあって大ポカがあって、急にだめにしちゃいました。7局目も、やっぱり寝られない状況が続いた。眠れるかどうか、いろんな人に聞きました。羽生さんにも聞いたし、(佐藤)康光さん(九段)にも聞きました。

―― どういう答えでしたか。

「寝られるようにしてます」って。質問に答えてないんですよ。

―― 封じ手の後はお酒は飲みますか。

結構飲みます。ビール程度なら。3年前は尿路結石になったので、2局目までは飲みませんでした。何も変わらなかったですよ。勝つときは勝つ、負けるときは負ける。「なーんだ」と思って、(その後は)結局飲んじゃった。

―― 46歳の今、活躍しています。

自分でもわかりません。わからないということは、落ちる時もわからないうちに落ちていくんですよ。そういうことを警戒します。年齢ばかり気にしていると悲観的になります。実際、自分でも読む量が減ったとか、疲れが多いとか実感します。なので、今回挑戦できたのが不思議でならない。王位リーグのメンツを見ても、私が挑戦すると思った人はいないですよ。しちゃったけど。

―― タイトルを取ると有吉道夫九段の記録(37歳6カ月)を抜いて、最年長初タイトル獲得になります。

そうなるようにしたい。3年前にも「最高齢」という話をされたんですよね。ただ、うーん。取れなかったですからね。

―― タイトルへの思いは。

うーん。取ったことがないので、よくわからないですよね。うん。あまり想像したことがない。

―― 10年前は手の届くところにあったのでは。

頑張れば取れると考えていたのかもしれないですけど。今は淡々としているんですよ。

―― 3年前はどうでしたか。

「あと一つ」になっても、(タイトルを取れると)感じませんでしたので。でも、寝られなかったので、錯綜(さくそう)したところもあるんですけど。勝つためにやってますけど、勝ったらどうと考えずに指すようになりました。

―― そうなると、将棋に対するモチベーションは何でしょうか。

そう思いますよね。何が楽しくて生きてるかわからないんですよ。具体的に考えるのは作戦のことばかりで。何が楽しいのかな。

―― 目の前のことを一生懸命やることを繰り返している感じですか。

ああ、そうですね。……夏も一家でトルコに旅行に行く計画を立てていたんですけど、(挑戦が決まったので)私以外で行っておいでと。こっちは将棋を堪能できるんでいいんです。

―― 過去6回のタイトル戦のうち、4回は羽生九段が相手でした。羽生九段に阻まれたという気持ちは?

この世代だから伸びてきたということもあるので、それはあまり思わないですね。勝てなかったという感覚はあるけど、阻まれたという感覚はない。

―― 今後、50歳、60歳になります。

うーん。勝ったら残るし、負けたら落ちていくということしかないんですよ。ただ、そこまではしがみついていこうという目標はあります。上昇志向ではなくて、現状維持思考なんですよね。そういうところでは本当に挑戦者らしくないと思います。普通は「タイトルを取ります」とか言うんですよ。でも、まず「ストレート負けしないように」と考えるんですよ。それでは情けないなと、自分でも思うんですけど。

―― 現状維持思考は昔からですか。

3年前の王位戦ぐらいからかもしれないですね。その時は「最後のタイトル戦かもしれない」と思ってやってましたから。うれしいことに最後ではなかったですけど。(2009年の王位戦で)3連勝4連敗した時も、ここが最後かなと思ったし。

―― 色紙に「百折不撓(ふとう)」(失敗しても志を曲げないこと)と書いてます。自分の心情でしょうか。

四段の時に選びました。昔、将棋連盟でマラソン大会をやっていたんですよ。賞品の四字熟語辞典から選びました。そういう言葉がいいんじゃないかと思って。

―― 今回の挑戦に、ぴったりの言葉になりました。

ああ、たまたまそうなりましたね。今となってみると、いい言葉を選んだのかもしれません。

―― 「千駄ケ谷の受け師」と呼ばれています。

ニックネームがつくのは名誉なことなんじゃないでしょうか。ただ、攻めている方が好きです。人の見る目は違うな、と思います。相手の玉じゃなくて、気がついたら相手の攻め駒を攻めている。

―― そういう棋風になった理由は。

気がついたら、こう育っていました。攻めるのは好きなんですけど、下手なんですよ。だから横歩取りとか玉の囲いが弱い戦法は、向いているんです。(囲いが堅い)矢倉とかはだめなんですよ。ややこしくて。

―― (羽生九段と対戦した)王位戦の挑戦者決定戦は、受け続けて勝ちました。

受けざるを得なかったんです。ただ、長手数をいとわないことが、いい結果につながったのかなと思います。

―― 勝ちを急がないんですね。

そうですね。あと悪くなっても、あまりあきらめなくなりましたね。「長くやっていればチャンスが来るかもな」と。

―― 対局の時、お弁当を持参するそうですね。

娘が弁当なので、「持って行け」と言われて。ただ、昼の休憩がもったいなくて考えたい時はあるんですよ。そういう時は夜に食べます。

―― 小食ですよね。

なるべく食べるようにしてます。あっさりめのものを。この前はちらしずしの並でした。「下」はないのか、と言ったらないと言われて。

―― 体力作りはどうしていますか。

順位戦のA級昇級が決まってから、ずいぶん酒を飲むようになりました。それを減らすべく走っています。おちょこで日本酒を飲んでると、どれぐらい飲んだかわからなくなっちゃう。次の日、布団の中で虫みたいになってるんですよ。これじゃダメだと思って、控えるようにしてます。実際、太りましたんで。また走るようにしてます。

―― どれぐらい走るんですか。

6、7キロですかね。40分ぐらいかけて。公園を走ります。週2ぐらいですね。

―― 体重はどれぐらいですか。

66キロぐらいですかね。15歳の時、65でしたから、30年ぐらい変わってないですね。

―― 日頃の楽しみは。

あんまりないです。ただ、朝起きて必ず数独をやるんですよ。1題。それが10分ぐらい。たまたまやったら癖になっちゃって。6時に起きて、6時10分にやってます。対局当日はやらない。解けないとむちゃくちゃ不愉快ですけど。いつも、「将棋の作戦を考えないといけないな」というのと、「もう少しで解けそうなのにな」というのをずっとやってます。(構成・村瀬信也)

情報源:46歳で初タイトル 木村一基王位が挑戦前に語ったこと:朝日新聞デジタル



へぇ・・・