ベテランの奮起に希望 「将棋の強いおじさん」王位奪取:朝日新聞デジタル

ふむ・・・


2019年10月12日15時00分

豊島将之名人を破った後、記者から家族への思いを聞かれ、涙を浮かべる木村一基王位=2019年9月26日午後8時37分、東京都千代田区、伊藤進之介撮影
豊島将之名人を破った後、記者から家族への思いを聞かれ、涙を浮かべる木村一基王位=2019年9月26日午後8時37分、東京都千代田区、伊藤進之介撮影

木村一基九段が第60期王位戦七番勝負で豊島将之王位を破り、4勝3敗で見事に初タイトルを手にしました。

木村王位は46歳で、初タイトル獲得の最年長記録です。初挑戦は14年前。毎年、高勝率を誇り、今までタイトルに縁がなかったのが不思議なほどの実力者ですが、長い生みの苦しみだったのかもしれません。終局後の記者会見で、目尻を押さえるシーンが印象的でした。今年の充実ぶりは素晴らしく、名人戦の挑戦者を争う順位戦A級復帰に、竜王戦の決勝三番勝負進出、そして王位奪取と、まさに「中年の星」です。

頭脳競技の将棋ですが、「棋士のピークは20代」ともいわれます。実際、今の将棋界で活躍するのは20代や30代の棋士が大半。世代の違う2人が対戦した場合、若い棋士が勝つことが圧倒的に多いのです。

一般論として、研究熱心な若手は年長者の将棋を分析済みですが、年長者は若手の将棋の特徴を把握し切れていない。また、今のAI(人工知能)を使った研究や最新の定跡は今までの経験が生きにくく、むしろ邪魔をしてしまうことすらあるからでしょうか。心理的な「追う強み」「追われる辛さ」もあるはずです。

そんな現代で、最新形の将棋で29歳の豊島名人を破った木村王位の心技体の充実ぶり。木村王位がよく色紙に書く「百折(ひゃくせつ)不撓(ふとう)」。何度失敗しても信念を曲げないという意味で、納得です。

木村王位の将棋は強靱(きょうじん)な受けが持ち味です。安全策の慎重な受けではなく、一番大事な玉を前線に繰り出し、相手の攻めをすべて吸収してしまうような力強い受けです。「(将棋会館のある)千駄ケ谷の受け師」の異名には親しみと敬意が込められています。

対局中の厳しい表情とは逆に、局後の明るい表情や、イベントでの軽妙な語り口も魅力。将棋ファンは敬愛を込めて「将棋の強いおじさん」と呼びます。私が立会人を務めた王位戦第1局の名古屋対局では、夜の食事会で「将棋の失敗も多いけど、お酒の失敗も数えきれない……」。場が一気に和みました。

また、昨年の朝日杯将棋オープン戦の名古屋対局では、控室に勉強に来ていた中学生の私の弟子の前にさりげなく座り、対局中の将棋を将棋盤に並べて1対1で検討してくれていました。検討の表情は厳しくも、その優しい気遣いは、プロを目指す少年には永遠の宝物になったはずです。

大勝負には必ず明暗があり、私たち棋士はそれから逃れられません。今回は惜しくも失冠の豊島名人ですが、すぐに竜王戦の七番勝負が始まります。今度は挑戦者の立場。ゆっくり休む時間もないのでしょうが、対局過多はトップ棋士の宿命。10月14日には地元の一宮市で激励会がありますが、ファンの声援で体力回復されることを願っています。

若手の台頭には夢がありますが、ベテランの奮起も周囲に希望を与えます。私は木村王位より少し上の世代ですが、「自分もやらねば」と大きな感銘を受けました。40代以上の棋士も、きっと同じ思いでしょう。将棋界はさらに盛り上がりそうです。

すぎもと・まさたか 1968年、名古屋市生まれ。90年に四段に昇段し、2019年2月に八段。第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。藤井聡太七段の師匠でもある。

情報源:ベテランの奮起に希望 「将棋の強いおじさん」王位奪取:朝日新聞デジタル



ほぉ・・・