ふむ・・・・
2019年6月6日14時33分
杉本昌隆八段の「棋道愛楽」
棋士が1年間かけて戦う名人戦順位戦のリーグ戦が今期も6月に始まります。例年、4月の後半に発表される対戦表。日本将棋連盟から「重要」の判を押されて郵便で届きます。これを見ると「今期も順位戦が始まるなぁ」と身が引き締まります。
A級とB級1組は総当たりで、当たる順番と先手後手に注目するぐらい。今期は誰と当たるのかという緊張感はありません。しかし、B級2組以下は対戦相手10人が抽選で決められます。
封筒を開封した瞬間からが順位戦。真っ白な星取表ですが、これから始まる昇級や残留争い、勝負の光と影が凝縮されています。1年間の戦いを考えるだけで、表を何時間も見続けてしまうほど。その重圧から、封筒をなかなか開封できずにもんもんとしたこともありました。
対戦相手に強敵が多いとちょっと憂鬱(ゆううつ)にもなりますが、そもそも棋士に強敵ではない相手などいません。星読みはファンの方に任せて、自分たちは一局一局を集中するだけです。
火花が飛び散るかのような順位戦。大勢の一斉対局で斜め前に次戦の対局相手がいた場合、ここでも静かに火花が飛び散っています。直接の対戦がなくても、勝ち星が並んでいる相手を見ると「あなたより先に負けませんよ」と燃えるものがあるのです。
なお、前期のC級1組で私と藤井聡太七段は星の上ではライバルそのものでしたが、ともに昇級がかかった最終局の3日前には一緒にご飯を食べたぐらいなので、火花は飛び散っていなかったと思います……多分。
普段は仲の良い研究会仲間も、順位戦の対戦が組まれると一緒に研究はしづらいもの。前期、私は10回戦で研究会仲間の船江恒平六段と対局しましたが、やはり対戦を意識して半年以上前から研究会を長期休会していました。今期も違う研究会仲間との対戦が組まれていますが、「順位戦が終わったら再開しましょう」と約束しています。
対戦相手のことを徹底的に研究して対策を立てる棋士がいます。あまり相手は意識せず、自分の技術を高めることを重視する棋士もいます。藤井七段は後者でしょう。いわゆる王道の考え方です。
本当に失礼ですが、私が20代のころは自分の親世代や、もっと上のベテラン棋士との対戦が組まれたとき、「体力戦に持ち込めば勝ちやすいのでは」などというよこしまな考えが浮かんだこともありました。それが打ち砕かれて負かされたとき、ベテラン棋士の強さや順位戦の恐ろしさを知ったものです。
今、自分と対戦する若手棋士が「このベテランくみしやすし」と、当時の自分と同じようなことを考えているのだろうなぁと思うと感慨深い……。いや、ちょっと複雑な思いです。
トーナメントは一番勝負の厳しさがあり、順位戦は負けた回数分の痛みを1年間受け止める精神力が要ります。今期の藤井七段のC級1組はどんな結果になるのでしょうか。私は一つ上のB級2組で戦う立場になりましたが、自身も全力で戦います。
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すぎもと・まさたか 1968年、名古屋市生まれ。90年に四段に昇段し、2019年2月に八段。第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。藤井聡太七段の師匠でもある。
情報源:対戦相手の研究重視か 自分の技術重視か 藤井七段は…:朝日新聞デジタル
村)杉本昌隆八段のコラム、今回は今月開幕する順位戦の話題です→「日本将棋連盟から『重要』の判を押されて郵便で届きます。これを見ると『今期も順位戦が始まるなぁ』と身が引き締まります」
対戦相手の研究重視か 自分の技術重視か 藤井七段は…:朝日新聞デジタル https://t.co/yJcJ9bj6fp— 朝日新聞将棋取材班 (@asahi_shogi) June 6, 2019
ほぉ・・・