んー?
サングラスをかけている人を、なんとなく警戒してしまう。悪ぶったり威嚇したりするためにサングラスをかける……。サングラスはなぜ人の心を不安にさせるのでしょうか?
心理学を専門とする山口真美・中央大学教授は、人の表情を読み取る際に、日本人と欧米人には文化差があり、そのことが関係していると話します。山口氏が自著『損する顔 得する顔』(朝日新聞出版)でも明かしている、人の表情を決定づけるパーツについて紹介します。
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欧米のほうがサングラス人口が多い理由としてよくいわれるのが、色素の薄い欧米人の青い目や緑色の目は、黒い目と比べると、紫外線に弱くてまぶしいからということ。でも、日本人にサングラス人口が少ないのは、黒い目でまぶしくないから、というだけではありません。
日本人の平べったい顔にサングラスはしっくりこないという理由も大きいですが、それ以上に日本人は、目を隠すことに忌避感があるようです。サングラスを外さずに人と応対するのは相手に失礼だという礼儀への意識がありますが、それだけではなく、サングラスをかけている人をなんとなくうさんくさく感じることもあります。
そんな日本人にとっては衝撃的な映像を、2018年の平昌オリンピックの記者会見で目にしました。先にも話した、前人未到の二刀流金メダルに輝いた、チェコのエステル・レデツカ選手。予想外の金メダルを獲得した後のノーメイクの記者会見を、ゴーグルをしたまま決行し、それは日本人にとっては失礼にも見える映像でした。これが日本人女子だったら、ノーメイクを隠すためにマスクを使うのではないでしょうか。
日本人はサングラスなどで目を隠すことを、意識下で嫌っている可能性があるのだと思います。その理由は日本人が目で表情を読むことにあるのだと思うのです。ここで、表情の研究の歴史をたどってみましょう。古くは進化論を唱えたダーウィンが研究しています。
彼の視点からすると、表情は動物から進化したものであり、人類全般に共通であるというのです。その証拠として、異文化をまったく知らない未開の国の住民であっても、初めて見た異国の人々の表情を読み取れることが、多くの研究者たちから報告されてきたのです。ところが最近、こうした考えに反証があがっています。
もちろん私たちはあらゆる国の人の表情を読み取ることができています。ですが、それぞれの表情を詳しく分析すると、小さな違いがあることがわかりました。
欧米人と東アジア人の表情の平均顔を見ると、欧米人は口元から、東アジア人では目元から、より強く表情を表出することがわかったのです。
欧米では、街角ですれ違って挨拶するときはばっちりの笑顔で、「何を考えているか、わからない」と言われないよう、表情をしっかり作らねばなりません。その際に強調すべき重要なポイントが、口元にあるのです。表情を作り上げるうえで、口をしっかりと横に伸ばして笑顔を作ることが必須なのです。
欧米人が作る歯をにっかりと見せる笑顔は、日本人にとってはどことなく不自然に感じられることもあります。一方でアジア人の表情は欧米人にとって、わかりにくいといわれるのです。日本人は目元を主とした控えめな表情になることが多く、このわずかな目元の表情を読み取るのが日本人のコミュニケーションの特徴なのです。
2010年代に入って、眼球運動を測定する装置を使い、表情を見る実験が行われました。すると、欧米人は相手の口元や顔全体を見るのに対し、東アジア人は相手の目元に注目することがわかったのです。
さらに私たちの実験室で赤ちゃんを対象に同じ実験をしたところ、生後7カ月から日本人の赤ちゃんは東アジア人らしく目元を見る一方で、イギリスの実験室でのイギリス人の赤ちゃんは欧米人らしく口元をよく見ることがわかりました。大人と同じ、自身が属する文化に即した顔の見方は、なんと生後7カ月ですでに獲得されていることが証明されたのです。
まだ言葉も発せない1歳未満の小さい赤ちゃんでも、毎日目にしている母親の表情を学習しているのでしょうか。
この実験でも証明されたように、日本人は表情を読み解くときに目を見るのです。そのため目を隠すサングラスは、日本人には表情を隠されたように思えて、拒否感を持つのでしょう。
サングラスで目を隠すのが嫌いな一方で、日本には「顔隠し」の文化があると主張する研究者がいます。平安時代の日本女性は、扇子で顔を隠していたこともありました。
扇子で隠すのは、主に口元です。口元を隠すことは今も続き、日本女性は笑うときに口元を隠すことがあります。当たり前のようにも思えますが、欧米ではない仕草で、違和感を抱かれることもあるようです。
そしてこの顔隠し文化は、意外なところで継承されているようです。
それは、マスク姿です。日本ではそこらじゅうでよく見かけるマスク姿ですが、女性の使い方に特徴があるようです。
最近の女子大生は、朝化粧をする時間がなかったからと、マスクで顔を隠して授業に出ることもあるそうです。台湾でも普段の生活にマスクがよく使われるため、カラフルなファッションアイテムのようなマスクもあるそうです。
しかし、マスク姿は欧米人には忌避されます。欧米では、そもそも相当重病でないと、マスク姿で病院の外を歩く習慣がないそうです。
ではなぜ、欧米人はマスクはNGでもサングラスを許容するのでしょうか。不思議に感じませんか? まさしくそれが、文化差による「すれ違い」なのです。
つまり前述の研究から示されたように、口元で表情を伝える欧米人は、肝心な口元を隠されたマスク姿を嫌っているのかもしれません。いずれも眼球運動を調べて初めてわかったことですから、顔の特定の部分への注目は、実験場面でも日常場面でも無意識に行われるのです。ですので、本人にも、嫌な理由は気づかないのです。研究によって初めてその仕組みがわかったのです。
ところで、サングラスを忌避して口元を隠す日本ですが、意外にも遠く感じられるイスラムと、顔隠しの共通性がみられそうです。東と西に離れていても、同じアジア文化ということでしょうか。厳格なベール(ニカーブ)でも目だけを見せたり、古くはアラビアンナイトでは目元を出して口元を隠したりしています。とりあえず目だけは見せるということです。
マスク姿の女子大生もきっと心のどこかで、「目だけ見せればいいじゃん!」という線引きがあるのかもしれません。その線引きは私たちアジア人に共通した感覚で、だからこそ「風邪でもないのにマスク姿ですか」と笑いながらも許すところがあるのでしょう。
逆に目を見せないサングラスは授業を受けるのにはNGです。なにを考えているかわからないし、教師の側からすれば馬鹿にされている気がする、そういった共通認識が日本人にはあるように思えます。
情報源:なぜ、日本人はサングラスの人に警戒心を持つのか?〈週刊朝日〉(AERA dot.) – Yahoo!ニュース
情報源:なぜ、日本人はサングラスの人に警戒心を持つのか? (1/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)
https://twitter.com/mnishi41/status/1023443014088179712
へぇ・・・