指導対局 プロの「強さ」より「楽しさ」意識 杉本七段:朝日新聞デジタル

へぇ・・・


子どもと指導対局をする杉本昌隆七段=2018年4月2日、名古屋市中区
子どもと指導対局をする杉本昌隆七段=2018年4月2日、名古屋市中区

杉本昌隆七段の「棋道愛楽」

棋士は「頭の中に将棋盤が入っている」と言われますが、イベントで多数のアマを相手に指導対局をすることがよくあります。私は最高で約50人と同時に指したことがあります。

テーブルを「口」の字に並べ、取り囲むようにアマの方が外側に座ります。内側で棋士がぐるぐる回りながら一手ずつ指す光景は、回転ずしで例えればアマが食べる人で、棋士がすしネタでしょうか。

私たちは将棋盤を見ていなくても、どちらの手番かほぼ覚えています。丸暗記しているのではなく、指し手の流れを覚えているのです。なので、手ごわいのは有段者ではなく、ルールを覚えたてのお子さん。

例えば戦いが始まった重要な局面で、全く関係ない場所の歩を一つ動かされると非常に覚えにくい。「あれ? まだ指してないよね」「ううん、これ」。こんな会話は、このケースです。

多面指しは通常の指導対局より時間が掛かるので、上手は長考せず、あまり長期戦には持ち込まないことが鉄則。プロの強さを見せるより、将棋を楽しんでもらうことを意識します。立ちっぱなしなので足や腰が痛くなることはよくありますが、頭は疲れません。むしろ反射神経を鍛える訓練や、自分の調子を測るバロメーターにもなります。実はこちらも勉強になっているのです。

10月のイベントで、藤井聡太七段が子ども9人を相手に多面指しをしました。「駒落ちでも思わず考えてしまうので……(得意ではありません)」と言っていただけあり、時間切れ引き分けが大半だったようです。

フッフッフ……。まだ若いですね。同じく横で指していた私は半分以上が終了。もっともほとんど負かされたので何の自慢にもなりませんが、指導に関しては私の方が格上?のようです。

特別な指導対局は一対一で指します。目の前の盤面に集中できるので私たちの指し方もガラッと変わり、ハンディをつける駒落ち戦では公式戦並みの真剣勝負です。

将棋のタイトル戦に使われた貴賓室「観月」。ここで杉本昌隆七段と対局できる=銀波荘提供
将棋のタイトル戦に使われた貴賓室「観月」。ここで杉本昌隆七段と対局できる=銀波荘提供

ハンディなしの平手戦では相手の心理を徹底的に読みます。といっても、相手の読み筋を外すのではなく、逆にそれに乗るのです。下手の大技をあえて正面から受け、そこから互角に持ち込む。将棋の楽しさとプロの技を同時に知ってもらうためで、かなり難しいですが、上手の力量が問われます。色々考えることができる一対一の指導はこちらも楽しいのです。

とはいえ、勝つのがはばかられる勝負もあります。例えば、下手のミスで大逆転勝ちしそうなときがそう。普段お世話になっている方との記念対局もそうです。

過去に一番神経をつかった指導対局は、今から十数年前。結婚前に義父と指した6枚落ちです。何しろ、将来のお義父さんが相手。うっかり、こちらが勝ったらどうなるか……。「気が変わった。やはり結婚は破談にしよう」。こんなことを言われたら大変です。

「えっ? ちょっと待ってください、お義父さん」「君にお義父さんと言われる筋合いはない」。対局中に最悪の展開が頭をよぎります。

いっそのこと、一方的に負けようか? 「こんな頼りない男にうちの娘はやれん」「えっ? ちょっと待ってください、お義父さん」「君にお義父さんと……」。それも危険です。

結局、将棋は一手違いに持ち込み、私が負け。ことなき?を得ました。もっとも、義父は温厚で純粋な将棋好き。そんな心配など無用でしたが、これほど下手の心理を読もうとしたことは初めてです。

さて、愛知県蒲郡市の将棋の宿「銀波荘」で、現役棋士や女流棋士と一対一で対局できる企画があり、11月10、11の両日、私も和服で対局します。タイトル戦も指される貴賓室での対局で、棋譜も残り、記念写真や揮毫(きごう)のサービスもあります。温泉や料理も楽しめるので、ご家族での旅行にもぴったり。まだ受け付けていますので、興味のある方は、ぜひご参加ください。

すぎもと・まさたか 1968年、名古屋市生まれ。90年に四段に昇段し、2006年に七段。01年、第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。藤井聡太七段の師匠でもある。

情報源:指導対局 プロの「強さ」より「楽しさ」意識 杉本七段:朝日新聞デジタル



ほぉ・・・