あの手この手で情報公開を妨害する製薬企業 医師との癒着を知られたくないためか、世界では考えられない行動に(1/6) | JBpress(日本ビジネスプレス)

ふむ・・・


フランス南部にある、がんの研究施設(2014年10月10日撮影、資料写真)。(c)AFP/PASCAL PAVANI〔AFPBB News〕
フランス南部にある、がんの研究施設(2014年10月10日撮影、資料写真)。(c)AFP/PASCAL PAVANI〔AFPBB News

製薬企業と医師の関係が社会の関心を集めている。この問題を考えるうえで、興味深い経験をした。

それは8月25日、早稲田大学で開催された緊急シンポジウム、「カネの流れは何を明らかにするのか:調査報道『製薬マネーと医師』」でのことだ。

主催はワセダクロニクルと、私が主催する医療ガバナンス研究所だ。我々は共同で、製薬企業から医師に支払われる金を調べてきた。

製薬企業と医師の関係を透明に

具体的には製薬企業の業界団体である「日本製薬工業協会(製薬協)」に加盟する71社が、2016年度に医師個人に支払った講師謝金、コンサルタント料、原稿料を調べた。

結果は衝撃的だった。詳細は、尾崎章彦医師がJBpressで報告している(http://jbpress.ismedia.jp/search/author/%E5%B0%BE%E5%B4%8E%20%E7%AB%A0%E5%BD%A6)。

当時、基調講演は当研究所の谷本哲也医師が行い、ワセダクロニクルと我々の共同調査の結果を紹介した。その後、私を含む4人での討論となった。

合意したのは「製薬企業と医師の関係については情報公開を進めなければならない」ということだ。

参加者からは「製薬企業から医師にお金が渡ることが悪いのではなく、それを隠すことが問題であることが分かった」というご意見をいただいた。

このシンポジウムでは無断でビラをばらまいた人物がいた。製薬企業で働く医師を知るうえで示唆に富むのでご紹介したい。

その人物は武田薬品に勤める井上雅博医師だ。

1993年に島根医大を卒業した循環器内科医である。医薬品開発を中心とした医療政策に関心があり、日経メディカルでも連載している。

製薬医学会の名を使いビラ配布

私は井上氏と旧知だ。当日、井上氏が会場入り口で立っているのを見つけ、会釈した。その後、会場に入って、谷本医師から「入り口の男性が怪文書を配布していましたよ」と教えられ、井上氏が小冊子を配布していたことを知った。

このビラを見て驚いた。

表紙には「奨学寄付金がなくなるこれから、日本の臨床研究を考えませんか?」と書かれ、その下には「世界製薬医学会(IFAPP)と日本製薬医学会(JAPhMed)は2018年9月27-29日に国際学会ICPM2018を東京大学で開催します」と記されていた。

さらに裏表紙には、そのプログラムが紹介されている。誰もが、日本製薬医学会の資料だと考えるだろう。

内容は大きく二分される。前半は「日本の医学研究は産学連携の形で奨学寄付金によって支援されてきた」という主張が展開されている。

奨学寄附というと、もっぱら研究に使われると思う方が多いだろうが、実態は違う。製薬企業にとっては販促活動の経費だ。飲食に使っても構わない使い勝手のいいカネだ。

海外には奨学寄付金に相当する概念が存在しない。このため、外資系企業は奨学寄付金という制度をあまり使わない。

知人の製薬企業社員は「本社の理解が得られません」と言う。ブリストル・マイヤーズスクイブのように一切支払っていない企業も存在する。

奨学寄附金は研究の一部にしか充当されない

もちろん、外資系企業が寄附金を支払わないわけではない。彼らが寄附をするときは、基金やNPOを使う。第三者組織を使えば、製薬企業と医師の関係はマスクできるからだ。

スイスのロシュ社の子会社である中外製薬が、乳がんの研究グループの研究支援をしたケースなど、その典型だ(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50987)。

研究者たちは、中外製薬の抗がん剤の有効性を主張しているのに、「利益相反はなし」と報告した。

話を戻そう。私は井上氏の主張に賛同できない。

臨床研究は疫学研究から症例報告まで幅広い。「産学連携の形で奨学寄付金」でカバーされる新薬の臨床試験は、臨床研究のごく一部だ。彼らの臨床研究に対する考え方を示唆しており興味深い。

後半は筆者に対する誹謗中傷だ。

「K特任教授の発言の裏側」などと銘打って、「上先生には、ノバルティスからも資金が渡っていました。当時の社長が同じ灘高校でしたので。最初の頃はディオバンの件では批判がましいことは一切言わなかったですから」という製薬企業社員のコメントを引用していた。

国立がんセンター中央病院から東京大学医科学研究所に移籍し、現在のような活動を始めた2005年以降、ノバルティスファーマから講師依頼を受けたのは、2008年に1回だけだ。講師謝礼として11万1111円を受け取っている。

実名で週刊誌の取材に応える

東大医科研時代、ベイラー大学で糖尿病に対する膵島移植を研究している松本慎一教授から依頼され、短期間だが、そのスタッフを研究員として受け入れていた。

ノバルティスファーマから「松本先生の研究を支援するため、奨学寄付金を入れたいが、研究員では支払えない。先生のところに入れたい」と言われ、受け入れたことがある。

私は、このカネには一切手をつけていない。ノバルティスファーマは、経緯を知っているはずだ。いずれを問題視しているのだろうか。

また、筆者が三谷宏幸社長(当時)を批判しなかったのは、彼が真摯に社会に説明していたからだ。実名で写真週刊誌「フライデー」のインタビューにも答えている。

そのコメントは写真入りで掲載された。逃げまわった教授やほかの製薬企業の連中とは違った。

ちなみに、このビラの中に井上氏の名前はどこにも出てこない。せっかくの機会だから、シンポジウムで私と議論すればいいものを、ビラを配っただけで帰ってしまった。

私は製薬企業と医師の癒着を追及してきた。透明性の向上が必要だと考えている。

井上氏をはじめ、日本製薬医学会の方々は、癒着の温床と批判された奨学寄付金の有用性を声高に叫び、その存在を批判する私のことが気にくわないようだ。

それなら、堂々と言えばいいものを、武田薬品の社員という肩書きを隠し、日本製薬医学会の総意という体裁でビラを撒いた。

日本製薬医学会からお詫びのメール

私は、このことをフェイスブックでシェアした。事態を把握した日本製薬医学会は、週明けに井上氏を除名し、私にお詫びのメールを送ってきた。

さらに、武田薬品の幹部が2人、私どもの研究室にやって来た。彼らは「会社としては一切関与しておらず、すべて井上が勝手にやったこと。井上は社内の規則に照らし合わせ、厳格に処分します」と説明して帰った。

果たして、彼らが言うように、この件は井上氏1人の暴走なのだろうか。

井上氏は日本製薬医学会の活動にウェイトを置いてきた。武田薬品は、日本製薬医学会を支えている。

例えば、2017年度に開催された第8回年次総会、会長を務めたのは、日本製薬医学会の理事で、武田薬品の岩崎幸司氏だ。井上氏は岩崎氏のもと、広報委員長を務めている。

今回のケースでも、井上氏は、あらかじめ日本製薬医学会にビラを配布することを報告している。日本製薬医学会は、井上氏の申し出に対し「許可しなかった」という。

果たして、サラリーマンである井上氏に、所属する会社や学会の幹部の反対を押し切ってまで、ビラを撒くような度胸があるのだろうか、私は疑問だ。

井上氏が日本製薬医学会の除名措置を、素直に受け入れた対応と対照的だ。

もし、製薬企業が組織ぐるみで身分を隠し、今回のような行動をとったのであれば由々しき問題だ。情報公開や透明性確保の精神と真逆の行動を取ったことになるからだ。

いまこそ、井上氏をはじめ関係者は正直に経緯を社会に説明してほしいと思う。

情報源:あの手この手で情報公開を妨害する製薬企業(JBpress) – Yahoo!ニュース

情報源:あの手この手で情報公開を妨害する製薬企業 医師との癒着を知られたくないためか、世界では考えられない行動に(1/6) | JBpress(日本ビジネスプレス)


ほぉ・・・