九段棋士が中学1年に敬語 藤井七段、ある夏の将棋合宿:朝日新聞デジタル

ほぉ・・・


指導対局をする杉本昌隆七段=2018年4月2日、名古屋市中区
指導対局をする杉本昌隆七段=2018年4月2日、名古屋市中区

杉本昌隆七段の「棋道愛楽」

世間は夏休みです。棋士に夏休みは関係ありませんが、年齢や立場によっても変わります。

藤井聡太七段が中学1年のころ、夏休みに群馬県の三浦弘行九段の自宅で一緒に「合宿」をしたことがありました。

三枚堂達也六段も加わり、大人3人と子ども1人でしたが、私以外の2人が時に敬語を交えて当時二段の藤井七段に接していたのが印象的でした。強さは年齢や立場を超えるのです。

観光などは一切せず、ひたすら将棋の2日間。最終日は夜のファミレスで将棋盤を取り出して4人で研究。深夜バスで一緒に名古屋に戻り、早朝のファミレスで、やはり将棋の研究。最後は始発の電車で別れました。

規則正しい生活とは程遠く、引率する大人としては間違っているかもしれません。しかし、弟子を強くしたい師匠としては最善のはず。今でも夏が来るたびに思い出します。

名人戦で大盤解説をする杉本昌隆七段=2018年4月20日、石川県小松市、小川智撮影
名人戦で大盤解説をする杉本昌隆七段=2018年4月20日、石川県小松市、小川智撮影

プロの棋士は公式戦の対局が仕事ですが、それ以外は基本的に自由。完全に対局のみに専念する棋士もいれば、普及活動を積極的に行う棋士もいます。アマの方への指導や対局の解説、執筆活動なども棋士の仕事。最近の棋士は、これにイベントやテレビ出演も加わりました。

対局だけなら、棋士の仕事は「週休6日」。対局は多い人でも週に1、2回です。棋戦のほとんどがトーナメント方式なので対局は勝てば勝つほど増え、初戦負けが続くとすぐになくなります。サラリーマンのように毎日会社に出勤しませんが、忙しくするのも暇にするのも、自分次第なのです。

対局も仕事もなく、1カ月のほとんどが休み……。実は私にも経験があります。自分の趣味や旅行などがし放題ですが、その間は、ほぼ無収入。こんな「超大型お盆休み」は全くうれしくありません。

藤井七段の対局をテレビ局が取り上げる日、出演依頼を受けることがあります。将棋を広くアピールできる機会ですし、大変うれしいこと。しかし、この出演依頼が重なるのです。

昼は東京、直後に名古屋と、出演のはしごをしたこともあります。こんなとき、新幹線に乗るスケジュールも分刻みになります。駅のホームを早足で駆け、スタッフの方と合流。名刺交換をする時間もありません。

車内で打ち合わせをし、そのままテレビ局に。移動の中継車から出演したこともありました。1分、1秒たりとも無駄にはできないテレビは、時間との勝負だといつも感じます。

将棋ブームのおかげで、この夏はイベントが多く、最近も名古屋市内のデパートでトークショーや指導対局を行いました。幼児や小学生のお子さんとも指しました。

指導対局は、将棋の厳しさではなく、楽しさを知ってもらうところです。正解を指せば、下手が勝てるように誘導します。それを発見した時のお子さんは本当にうれしそう。仕事ではありますが、こちらも楽しくなるのはこんなときです。

トークショーに参加した杉本昌隆七段(右から2人目)ら=2018年8月2日、名古屋市中区
トークショーに参加した杉本昌隆七段(右から2人目)ら=2018年8月2日、名古屋市中区

大阪の朝日カルチャーセンターで講義をしたこともあります。関係者が何人も来てくれたのは、私の話が聞きたいから……ではなく、人数合わせの助っ人なのでしょうね。この日以来、時々講演に呼ばれる機会もあり、これも将棋ブームゆえでしょう。

ちなみに講演では、企業の方に向けたもの、お父さんお母さん向け、お子さん向けと色々変えています。一言も発しない対局とは全く違う分野ですが、最善手がないところ、ときに相手の顔を見て無言の会話をするところは共通点を感じます。

執筆は将棋雑誌や新聞の将棋欄と決まっていましたが、最近は一般の方に向けたコラムも書かせてもらうことがあります。この欄がまさにそうです。いかに分かりやすく、将棋の世界を知ってもらうかを常に考えます。将棋同様、日夜研究しているのです。

1週間、毎日が昼間は仕事、夜は原稿書きのときもありました。もちろん、自分の将棋の研究時間は削れません。その気になれば週休6日にも、休みゼロにもなるのが棋士という職業なのです。

対局の本分を忘れてはいけませんが、将棋の技術と魅力を伝えるのも棋士の役割。やりがいのあるこの時代、棋士がみな生き生きとしています。

すぎもと・まさたか 1968年、名古屋市生まれ。90年に四段に昇段し、2006年に七段。01年、第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。藤井聡太七段の師匠でもある。

情報源:九段棋士が中学1年に敬語 藤井七段、ある夏の将棋合宿:朝日新聞デジタル



へぇ・・・