藤井聡太がタイトルに挑戦する確率|日経BizGate

ふむ・・・


最年少棋士・藤井聡太7段(15)は竜王戦と王座戦の対局に相次いで敗れ、期待された年内のタイトル挑戦はなくなった。それでも、藤井が来年タイトル戦に登場する確率は20%くらいはありそうだ。2月に史上最年少での棋戦優勝を果たして以降も、トップ棋士との対戦を重ねる中でさらに将棋の内容が向上していることに加え、藤井自身になお自己変革しようという意思が感じられるからだ。

■研究パートナーは「他人」よりもAI

6月末の竜王戦で、藤井は増田康宏6段(20)と対戦した。この一戦に増田は普段あまり用いない「矢倉」の戦法で臨んだ。おそらく相手の意表を突く狙いもあっただろう。 増田は序盤の27手目、自ら矢倉囲いを放棄し一度上げた銀を下げる珍しい構想を見せ、主導権を握ることに成功した。

あまり見かけない一手に、私は対藤井戦に向けて綿密に研究してきたと感じた。その後も終始攻勢を取り続け、藤井に反撃の機会を与えなかった。序盤に限らず常に相手より多く持ち時間を残すようにするなど、指し手だけでなく戦い方の面でも周到さと巧妙さが際立っていた。

増田は16歳でプロデビューした、藤井の1代前の「最年少棋士」だ。師匠の森下卓9段が「羽生を超えうる素質」と認めた才能の持ち主で、14歳のときに3段に上り、藤井の前に史上5人目の中学生棋士になる可能性もあったほどだ。

増田も藤井と同じ人工知能(AI)世代の棋士である。あまり人間(他の棋士たち)の将棋は見ることがなく、主な研究パートナーはコンピュータソフトだと聞く。AI同士が指す将棋に精通し、プロ間ではあまり評価されていない作戦にも、いち早く目をつけて自身の将棋に取り入れている。

本局は「矢倉」というトッププロの間で古くから指されていた戦法を用いたが、内容的にはやはりAIの影響を色濃く感じさせた。実はつい最近まで増田は矢倉戦法を指さないと公言していたのだが、この変わり身の早さもAI世代ならではと感じる。加藤一二三9段が現役時代、半世紀以上もずっと「棒銀」戦法を使い続けたのとは実に対照的だ。

6日に王座戦の準決勝で藤井と対戦した斎藤慎太郎7段(25)も14歳で3段に到達した。18歳でプロデビューした後は各棋戦で実績を積み重ね将棋界のエリートコースを歩んでいる。昨年はタイトル戦の舞台で羽生棋聖に挑んだ。藤井との公式戦初対戦に、斎藤も増田と同様に綿密な準備で臨み、藤井に一度もリードを許さなかった

藤井7段(左)は6日の王座戦で斎藤慎太郎7段に敗れた。中村太地王座との5番勝負までまと2勝だったが、タイトル挑戦は持ち越しとなった(大阪市)
藤井7段(左)は6日の王座戦で斎藤慎太郎7段に敗れた。中村太地王座との5番勝負までまと2勝だったが、タイトル挑戦は持ち越しとなった(大阪市)

藤井はタイトル獲得経験のあるトップクラスの棋士だけでなく、生涯のライバルになりそうな若手とも競わなければならない。対戦相手のクラスが上がってきたため、今後はさすがに29連勝のような記録は生まれないだろう。ただし内容面での完成度は当時よりさらに増している。連勝中に見せたような大きな逆転勝ちはなく、最近の勝ち星はほとんどが完勝に近い内容ばかりだからだ。逆に敗れた将棋に拙戦の類はない。そこにタイトル挑戦の可能性を感じている。

■「中盤重視」にみる藤井の自己変革

最近の藤井の将棋を細かく見ていくと、将棋を序盤・中盤・終盤に分けたとき「中盤」に重心を置いている様子がうかがえる。特に持ち時間が長い(5時間以上)対局では、自分の持ち時間の大半を中盤戦に投入している。これは戦型の選択と駒組みを進める序盤や、明確に正解が存在する終盤よりも、選択肢が広い上に指し手ごとの比較が難しい「中盤」における大局観を重視しているからだろう。

その結果として終盤で残り時間が少なくなることが増えてきた。最近の対局では終盤に差し掛かった時点で残り時間が30分を切っていることも多い。昨年までの藤井は、もっと持ち時間を残して戦うことが多かった。 実はプロ棋士とAIの差がもっとも如実に現れるのがこの中盤戦だといわれている。AIは人間の理解の及ばないところでこそ真価を発揮するからだ。

ただし真価を発揮するといっても、あくまで評価値(+100とか-300といった風に)を示してくれるというだけで、なぜそのような評価になるのかの理由までは教えてくれない。 次に指すべき手の選択も瞬時に回答してくれる。しかしなぜそれが良い手なのかの説明はない。その理由を知りたければ、人間が独自に考えるしかない。だからこそ、藤井はそこに答えを探そうとしているように見える。

ほんの数年前まで将棋の中盤は「答えのない分野」であり、学習を通じて能力を鍛えることが難しいとされてきた。いわばPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルのC(check/評価)が欠けている状態のようなものだ。構想を立てて実戦の場で試すことはできても、それが正しい戦略であったかどうかを確かめるノウハウがなかった。もちろん評価できなければ改善も存在しないことになる。

特に長年温めていた構想や、対局中にふと思いついて自分なりに考察を深めた一手には思い入れが深いもので、どうしても甘い評価をしてしまいがちだ。結果としてその対局に勝つと、良い手を指した結果であると判断してしまう。

例外は羽生善治竜王くらいだろう。このサイクルを30年以上、独力で回し続けてきた。一時の勝ち負けや自身の調子に左右されることなく、常に客観的に局面を見続けていたからこその永世七冠達成であったと思う。最近のタイトル戦でも序盤の早い段階で7筋に飛車を回すなど(初心者かと思ってしまうような手だ)いまも未知の手を実験し続けている。

■将棋界におけるPDCAサイクル

現在はPDCAサイクルを回すために、AIという優れた研究パートナーが存在している。AIの評価は100%正しいわけではないが、極めて有能かつブレが少ない存在であることも間違いない。AIの出す見解は極めて客観的で、しかも融通の利かないものである。またある一手や局面への思い入れが全くないところが長所でもある。

ただAIの示す指し手を正しいと信じてひたすら覚え込めば、まったく同じ局面では同じ手が指せるかもしれないが、それだけでは未知の局面に対応できない。現在の藤井が公式戦で中盤戦に持ち時間を大量に投入しているのは、そうすることが一局の勝ちにつながるばかりでなく、自分の能力を高めると信じているからだろう。対局中に深く読み続け、その内容を後日AIの読みと見比べることで、さらに強くなろうとしているわけだ。

もちろん未知への対応を重視すればそのトレードオフで既存定跡への対応が甘くなることは避けられない。増田も斎藤も、そこを突いてリードを守り切っての勝利だった。

「タイトル挑戦の確率20%」は、もっと大きい数字を言う棋士もいるかもしれない。ただしタイトル戦のように同じ相手と続けて対戦することが増えるならば、これまでのような「2手目を変えない」スタイルなどは確実に狙いうちにされるだろう。そのとき藤井がどう戦略を変えるのか、同じ棋士として一番関心を持っているポイントだ。

片上 大輔(かたがみ・だいすけ)

将棋プロ棋士6段。
1981年広島県出身、36歳。森信雄7段門下。東京大学法学部在籍中の2004年に4段昇段、プロ棋士としてデビュー。09年6段。13年から日本将棋連盟の理事・常務理事(17年まで)を務め、プロ棋士とコンピュータソフトとの対局「電王戦」などを担当した。また将棋界で34年ぶりの新タイトル戦「叡王戦」の創設にも携わった。14年から首都大学東京で非常勤講師を務めている。

情報源:藤井聡太がタイトルに挑戦する確率|日経BizGate


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