【王手報知特別版】スポーツ報知将棋観戦記者座談会3「対局前に笑顔で駒を並べている羽生竜王」 : スポーツ報知

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スポーツ報知主催棋戦女流名人戦の観戦記を担当している(左から)内田晶記者、松本哲平記者、大川慎太郎記者、相崎修司記者
スポーツ報知主催棋戦女流名人戦の観戦記を担当している(左から)内田晶記者、松本哲平記者、大川慎太郎記者、相崎修司記者

空前のブームが吹き荒れ、列島を揺るがした2017年度の将棋界も、16日の将棋大賞授賞式で棋士たちに各賞が贈られ、一区切りを迎えた。18年度を占う前に、もう一度考えたい。17年度とはどんな1年だったのか―。スポーツ報知が主催する岡田美術館杯女流名人戦を始め、各紙誌でそれぞれ健筆を振るう観戦記者の内田晶記者、大川慎太郎記者、相崎修司記者、松本哲平記者が座談会を開催。対局室で戦う棋士たちの目の前で歴史的瞬間を目撃した記者たちの視点とは―。(司会・北野 新太)

―羽生竜王についても伺います。昨年度は王位、王座を失冠しながら竜王位を奪取して永世七冠を達成、国民栄誉賞も受賞しました。将棋大賞では藤井六段を推す声もある中で2年ぶり22度目の最優秀棋士賞に輝きました。

松本「昨年度は特にベテランが苦戦を強いられた年でもありましたけど、そんな中でも若手に勝ち続けているのは脅威的です。研究面でついていっているというよりも、むしろ自分なりのアレンジを加え、そして勝っている」

内田「強さの理由はたくさんあると思います。特定の得意戦法を持たずに何でも指しこなすこと、最新型に精通していること、そして、探求心を持ち続けていることにあると思います。感想戦を見ているとそれが伝わってくるんですよね。ダメな手も、なぜダメなのかを徹底的に考える。例えば、私が明らかに異筋の手を示すと、普通の棋士は『プロは指さないですよ』とだけ返すところを、羽生竜王は必ず真摯にアマチュアの一手に向き合ってくれる。で、具体的な手を指し示し、何がいけないかと丁寧に教えていただけるのはとてもありがたいことです」

大川「何人かの棋士が言っていることですけど、朝、対局前に駒を並べている時に羽生竜王は笑顔を浮かべてるっていう証言があるんですよ。たぶん、これから将棋を指すということが今でもうれしいんでしょうね。現役生活30年を超える中、ものすごいことだと思います。あと、何を聞いてもネガティブなことは絶対に言わない。後ろ向きなことは言ってもしょうがないと思っているんでしょうね」

―佐藤天彦名人に挑んでいる名人戦7番勝負でも、まず第1局で先勝しました。

内田「奇跡的に挑戦権を得て、通算獲得タイトル100期に向けて名人戦に挑んでいる。最近の将棋界は、とにかく劇的な方向へ進む、リアル『3月のライオン』ですよね」

相崎「フィクションの筋書きなら、編集者からダメ出しを食らってしまうようなことが実際に起きているんですよね」

―加藤一二三九段の引退も話題になりました。

松本「伝記で読むような人です。観戦記者でも盤側に何時間もいると疲れるものですけど、あれだけの高齢(78歳)になっても持ち時間の長い将棋を闘志を前面に指していたのはものすごいことだと思います。棋聖戦で佐藤名人との一局を観戦させていただきましたが、お昼の注文で鰻重を頼んでいる姿を見た名人が笑いをこらえていました。ただ出前を注文するだけで、笑いを誘えるのは間違いなく才能だと思います(笑)」

相崎「バラエティー番組などで人気なのは喜ばしいことですけど、もっと棋士としての加藤先生について一般の視聴者の方々には知ってほしいという思いもありますよね、正直」

―叡王戦が34年ぶりの新タイトル戦になりました。いずれも初タイトルを目指すことになった金井恒太六段と高見泰地六段という顔合わせもフレッシュです。

大川「叡王戦本戦トーナメントでの金井六段はどの対局も強かったですよね。一方で昨期は叡王戦、竜王戦、順位戦以外は1勝もしていないというデータもあります」

内田「1棋戦に星が集まるというのはけっこうあることですけど、ここまでというのは珍しいですよね」

―他棋戦では菅井竜也王位が誕生し、久保利明王将が防衛。振り飛車党のタイトルホルダーが2人いるのは将棋の歴史でも実はかなり珍しいことです。

相崎「振り飛車党はここ10年くらい減少傾向にありますから、余計に価値がありますね」

内田「振り飛車はアマチュアの方に人気ですから、勇気を与えてくれる結果だったと思います」

相崎「ソフトは振り飛車を評価しておらず、飛車を振った瞬間に評価値が下がりますよね。今後、ソフトネイティブ世代が台頭した時、振り飛車党はどうなるのか、というのは注目です」

大川「居飛車党の棋士にとっては、振り飛車対策は研究会でのメインテーマにはならないらしいです。(革新的な振り飛車戦法『藤井システム』で時代を席巻した)藤井猛九段も『自分が今、若手だったら進路を振り飛車に決めてしまうのは怖すぎる』と話しています」

内田「振り飛車党から居飛車党に転向する例はけっこうありますが、逆はあまりないですよね」

―最近では北浜健介八段くらいでしょうか。

大川「あと、気になるのはどちらも羽生竜王から初タイトルを奪った菅井王位と中村太地王座がタイトル獲得後にあまり勝っていないことです。佐藤天彦名人についても言えることですが、少し前までものすごく勝っていた人がいきなり勝てなくなることが多い。将棋界全体の競争が激化していることを感じます」

松本「戦い方の変化も影響していると思います。序盤からリードを奪っていこうというスタイルが明らかに増え、堅い玉型を優先する一昔前の現代将棋が否定されつつあるのを感じます」

内田「羽生世代のタイトルホルダーや渡辺棋王は玉をしっかり囲って細い攻めを主体に戦う、というひとつの形がありましたけど、今は玉を囲う前に戦いが始まることが多い。持ち味を出しにくくなっているのかもしれないです。時代は変化しています」

―変化し続ける時代の中で2018年度はどのような1年になるのでしょうか。皆さんの最前線からの日々の報告を楽しみに読ませていただきます。

情報源:【王手報知特別版】スポーツ報知将棋観戦記者座談会3「対局前に笑顔で駒を並べている羽生竜王」(スポーツ報知) – Yahoo!ニュース

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