へぇ・・・
「公式戦29連勝」の新記録が打ち立てられ、将棋界を取り巻く熱気は頂点に達した。藤井聡太四段(15)の連勝はさらに伸びるのか。全国から視線が注がれる中、1週間も経たないうちに次の大勝負の日がやってきた。
2017年7月2日。東京都渋谷区の将棋会館は、この日も将棋ファンと報道陣でごった返した。竜王戦の挑戦権を争うトーナメント。勝つと、挑戦者決定三番勝負まであと3勝となる。
カメラの放列のなか、青いリュックサックを手にした藤井四段に続いて、対戦相手がストライプのスーツ姿で対局室に現れた。高校1年でプロ入りした佐々木勇気六段(23)=対局当時は五段。ここ数年、活躍が目立つ20代前半の棋士の一人だ。
佐々木六段は6日前、29連勝を達成した藤井四段の姿を対局室で見つめていた。「多くの取材陣に取り囲まれる環境に慣れておきたい」と考えたという。その対局後、「周りの雰囲気にのまれずに連勝を止める気で臨みます」とコメントしていた。
そして当日。気合の入りようは、誰の目にも明らかだった。盤面を凝視しながら駒を並べる手つきは、祈りを込めるかのよう。対局開始を待つ間、扇子であおぎながら藤井四段に鋭い視線を飛ばした。一方の藤井四段は、普段と変わらず落ち着いた様子だった。
午前10時、対局が始まった。佐々木六段の作戦は、序盤から積極的に主導権を狙う相懸かり。互いの飛車が派手に行き交う目まぐるしい戦いになった。昼食休憩後、午後の戦いで佐々木六段がうまく立ち回り、優位を築いた。
「ついに連勝ストップか」。記者室や控室は慌ただしくなった。だが、佐々木六段は慌てない。49手目、駒を得することができる局面で、自分の玉将をじっと安全地帯に移した。みなぎる気合とは裏腹に、盤上の指し手は冷静だった。
「私たちの世代の意地を見せたい」。並々ならぬ決意で藤井戦に臨んだ佐々木六段が、あの戦いを簡単には語れない理由とは。ログイン前の続き午後6時から40分間の夕食休憩。この後は決着まで休憩はない。佐々木六段はミニとんかつ定食、藤井四段は若鳥唐揚(からあげ)定食を注文して、夜戦に備えた。
その後、相手にポイントを許した藤井四段が反撃に転じた。佐々木六段の玉将に迫るが、あと一歩が届かない。デビュー以来、窮地に立たされた時に度々飛び出した「逆転の一手」が、この日は出ない。午後9時31分、約11時間半の熱闘は佐々木六段の勝利で幕を閉じた。藤井四段にとって、プロになって公式戦で初めての黒星だった。
藤井四段はうつむいていた。連勝が止まったからではなく、内容の悪さに納得がいかなかったからだ。インタビューに対し、「連勝はいつかは止まるものなので仕方ない。完敗でした」と振り返った。
大仕事を成し遂げた佐々木六段は「藤井四段の対策をかなりしてきたので、努力が実ったのは良かった。プレッシャーは感じたが、私たちの世代の意地を見せたいなと思っていた。壁になれて良かった」。マイクを手に、そう語った。
「無敵」の相手を破った佐々木六段は、「時の人」になった。テレビ局などから複数の取材依頼が殺到した。しかし、そのほとんどを断ったという。
記者も昨秋、ある会で居合わせた佐々木六段に取材を申し込んだ。すると、「藤井戦のことは、簡単には語れないんです」と顔を曇らせた。後日、「ご協力できず大変申し訳ありません」と、丁寧な断りのメールが届いた。
佐々木六段と子どもの頃から競い合ってきた三枚堂達也六段(24)は「佐々木君は、藤井四段との対戦がまだ決まっていない段階から気合が入っていた。あれだけ根を詰められるのはすごい」と感嘆する。本人が取材を受けないことについて、「自分の言葉でないと、自分の意思が曲解されてしまうように恐れているからでは」と推し量る。
永瀬拓矢七段(25)も、佐々木六段と数え切れないほど将棋を指した間柄だ。佐々木六段について、「対局の際にマイお盆やマイグラスを持って来るように、こだわりがあるタイプ。普段はひょうきんなのですが」と語る。
藤井四段についても聞いてみた。永瀬七段は、インターネットテレビ局「AbemaTV」が企画した「藤井聡太四段 炎の七番勝負」(非公式戦)で、藤井四段に唯一の黒星をつけている。返ってきたのは、賛辞ばかりだった。「自分が勝ったのは金星だと思う。15歳であれだけ強い人は、この世にいなかったのでは。大天才でしょう」
2月に始まる棋王戦で初タイトルを狙う有望株が、手放しでたたえることに記者は驚いた。「29連勝」が与えた衝撃は、棋士にとってもそれほど大きかった。
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次回からは、15歳にして将棋界の主役の1人となった藤井四段の幼少からこれまでの歩みをたどる。(村瀬信也)
情報源:藤井戦「簡単には語れない」 佐々木六段が口閉ざす理由:朝日新聞デジタル
ほぉ・・・