安田洋祐さん(左)と対談する藤井聡太四段=東京・千駄ケ谷の将棋会館、嶋田達也撮影

藤井聡太四段、経済学者と対談 ツェルメロの定理議論:朝日新聞デジタル

へぇ・・・


将棋の中学生棋士、藤井聡太四段(15)と大阪大の安田洋祐准教授(37)が対談に臨んだ。昨年、驚異的な連勝記録を打ち立てた将棋界の若きプレーヤーと、駆け引きを伴うゲームをモデルに社会の事象を解き明かす経済学者が、人工知能(AI)と将棋の関わりや棋士の未来について語り合った。

安田洋祐さん(左)と対談する藤井聡太四段=東京・千駄ケ谷の将棋会館、嶋田達也撮影
安田洋祐さん(左)と対談する藤井聡太四段=東京・千駄ケ谷の将棋会館、嶋田達也撮影

安田 知人の経済学者が小学生の時、将棋大会の決勝戦でコテンパンに負けたことをよく覚えているそうです。その相手が(十八世名人の資格を持つ)森内俊之九段。森内さんに藤井さんが(NHK杯テレビ将棋トーナメントで)勝ったので、衝撃を受けました。藤井さんは何歳の時に将棋を始めましたか。

藤井 5歳です。

安田 どんな点が面白かったのでしょうか。

藤井 祖母も初心者だったので、一緒にルールを覚えました。その後は、年上の祖父母に勝てるのが楽しかったです。

安田 おじいさんが強くて勝てなかったら、違ったかもしれないですね。

藤井 そうですね。将棋は年齢に関係なく楽しめるのがいいところです。

安田 勝負事や白黒つけるゲームが好きなんでしょうか。

藤井 そうです。1対1で戦うのが好きですね。

安田 私が専門としているゲーム理論では、1対1のゲームにヒントを得ながら社会の問題を考えます。例えば、「スマートフォンの分野で競争するグーグルとアップルが、互いにどんな戦略を立てるか」といったことも対象です。

藤井 現実のことは、全てゲーム理論に基づいて定式化できるのですか。

安田 人間の行動には説明がつかないこともあるので、全てというわけにはいきません。ただ、安定して観察される現象については、筋のいい見方ができるのではないかと思います。ではここで、1対1で数字を数え上げるゲームをしてみましょう。「1から順番に数字を数え上げる」「一度に三つまで数えることができる」「ある数字を数えた方が負け」というルールです。今回は、「21を数えたら負け」という設定にします。まず、1。

藤井 2、3。

安田 4。

藤井 (5秒ほど考えてから)5。

安田 6、7、8。

藤井 あっ、そうか……。これは多分負けです。

安田 なぜ、気づいたのですか。

藤井 21が「4の倍数+1」になるからです。

安田 やっぱり、気づくのがとても速いですね。このゲーム、先手に必勝法があるのか、後手に必勝法があるのか、わかりますか。

藤井 後手必勝です。

安田 そうです。先手がどう数えても、後手は必ず4の倍数で、そして20で数え終えることができるからです。このように、有限の手数で終わりが来るゲームは、必ず先手必勝か後手必勝かが決まっています。これは、考えた学者の名前にちなんで「ツェルメロの定理」と言われています。将棋はとても複雑なゲームですが、同じようにどちらかが必勝になるはずです。

藤井 結論が出ることはわかっているということですね。

安田 そうです。ただ、先手必勝なのか、後手必勝なのかがわかりません。将棋の局面は10の220乗とも言われているので、必勝法はなかなか出ません。素人考えだと、先手がいいのかなと思いますが、どうですか。

藤井 うーん、そうですね……。

安田 では、先手と後手、どちらを選びたいですか。

藤井 先手ですね。先手の勝率が52%ぐらいなので、データとしては先手が勝ちやすい。ただ、手の組み合わせは膨大にあるので、「どちらが必勝か」ということは、また別の問題になります。実際には、局面の読みを切り上げて、形勢判断をしなければなりませんし、真理に近づくのは難しいと思います。

安田 先手と後手で持ち時間にハンディをつけるというルールを考えてみると面白いかもしれません。先手側が持ち時間が少ないとしたら、どうですか。

藤井 コンピューターの場合、読む時間が半分になると(強さの指標となる)レーティングがかなり下がります。持ち時間の差に比べると、先手と後手の差はそこまで大きくないかなと思います。

安田 コンピューターの話が出ましたが、藤井さんは強くなる上でコンピューターに助けられたという思いはありますか。

藤井 はい。強い将棋ソフトを「教師」としているところはあります。ソフトは、形勢判断を数値化できる点が革新的です。ただ、ソフトの形勢判断と自分のそれをどう同化させるのかは難しい。数値はあくまで暫定的なものなので。

安田 結論が出るなら、数値は「1」(勝ち)か「0」(負け)になりますからね。

安田洋祐さん(左)と対談する藤井聡太四段=東京・千駄ケ谷の将棋会館、嶋田達也撮影
安田洋祐さん(左)と対談する藤井聡太四段=東京・千駄ケ谷の将棋会館、嶋田達也撮影

――藤井さんより年下の人たちは、藤井さん以上にソフトの影響を受けるのではないでしょうか。

藤井 自分が将棋を覚えた2007年は、ちょうど渡辺明竜王(当時)が将棋ソフト「ボナンザ」と対戦した年でした。その時はソフトはそこまで強くありませんでしたが、いずれ「人間と指したことがない」というプレーヤーが出てきてもおかしくありません。

安田 「棋士がソフトに勝てなくなると将棋の人気が下がるのでは」と考える人もいましたが、私は杞憂(きゆう)だと思っていました。車の方が速くても、陸上のウサイン・ボルトのような人が活躍するのを楽しみにする人がいるわけですから。

藤井 陸上は人間の肉体の限界に挑戦していますが、ボードゲームにおいてはそういう印象を抱いている人は少ないかもしれません。その点をどう考えるかは、将棋の課題の一つだと思います。将棋においては、人間はまだ限界に近づいていないと思います。

安田洋祐さん(左)と対談する藤井聡太四段=東京・千駄ケ谷の将棋会館、嶋田達也撮影
安田洋祐さん(左)と対談する藤井聡太四段=東京・千駄ケ谷の将棋会館、嶋田達也撮影

――将棋ソフトも含まれますが、最近はAIの進歩も話題です。

安田 今後、定式化した仕事がAIに置き換わることが予想されています。ホワイトカラーが書類を書くだけでなく、記者が記事を、学者が論文を書くこともそうなるかもしれません。

藤井 AIによる仕事の代替は進むのでしょうが、産業革命の頃からそうした代替は行われてきたので、そんなに心配はしていません。

安田 定式化したことを機械に任せれば、人としての豊かさをさらに追求できるのではないかと思っています。

藤井 よりクリエーティブな仕事が、人間の仕事になるということですね。

安田洋祐さん(左)と対談する藤井聡太四段=東京・千駄ケ谷の将棋会館、嶋田達也撮影
安田洋祐さん(左)と対談する藤井聡太四段=東京・千駄ケ谷の将棋会館、嶋田達也撮影

――そういう時代に、棋士に求められるのは何でしょうか。

藤井 AIの強さが絶対的になっても、「なぜその手を選んだのか」という過程は説明できません。それを言語化することも、棋士の役割の一つになると思います。

安田 話は変わりますが、藤井さんが「相対的にではなく、絶対的に強くなりたい」と話しているのを記事で読みました。どういう意味でしょうか。

藤井 そうですね。相手との勝敗で決まる勝率も大切ですが、一つ一つの局面で最善に近づくことを求めていきたいです。

安田 将棋界ほど、一つのゲームを突き詰めている世界はないと思います。将棋のような豊かなゲームは、今後さらに注目されるようになるのではないでしょうか。(司会・構成 村瀬信也)

〈注〉ゲームは後手が4の倍数を常に数え上げることで必勝となる。先手の安田さんが「1」と数えた後、後手の藤井四段は「4」まで数える必要があった。実際は「3」までで止めたため、次の安田さんが先に「4」を数えた。その後も「4の倍数」を数え上げられるようになり、先手が勝ちに。

〈ふじい・そうた〉 2002年、愛知県生まれ。16年、史上最年少で四段プロデビュー。17年6月、公式戦29連勝の新記録を達成。名古屋大教育学部付属中(名古屋市)の3年。今春から付属高に進学予定。

〈やすだ・ようすけ〉 1980年、東京都生まれ。2002年、東京大経済学部卒業。政策研究大学院大学助教授を経て、14年から現職。専門はゲーム理論。テレビ番組のコメンテーターも務める。

情報源:藤井聡太四段、経済学者と対談 ツェルメロの定理議論:朝日新聞デジタル


ほぉ・・・


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