竜王戦

第３５期竜王戦七番勝負開幕特集

1～4

広瀬八段「シリーズ後半まで長引かせ、藤井竜王の新しい一面を見せたい」

2022/10/05 11:30

将棋界最高位の竜王経験者である広瀬章人八段が七番勝負の舞台に帰ってきた。第３５期竜王戦七番勝負で藤井聡太竜王に挑む広瀬八段は「 鷹揚おうよう 流」と称される穏やかな性格だが、秘めたる闘志は頼もしさを感じさせる。素顔に迫るインタビューでは、大好きなサッカーチームの監督に？と思わせる愉快なトークを披露するなど、大勝負を前に自然体だった。（聞き手：吉田祐也、写真：若杉和希）

ノーマーク？で挑戦権…「ははは。それは、そうじゃないですか」

――以前、読売新聞に載った藤井聡太竜王の本戦展望で、広瀬八段の名前が挙がっていなかったですが。
広瀬 　ははは。まあ、それは、そうじゃないですか。それぐらい、最近はパッとしていなかったので。ノーマークだったと思います。

――本戦で勝っていくなかで調子をつかんでいったのでしょうか。
広瀬 　竜王戦も他の棋戦の対局も増えてきて、ちょっとずつ実戦の勘というのが良くなってきたのかなと。

――広瀬八段の帰還を待っていたかのような、今期の竜王戦七番勝負開催地の印象は。
広瀬 　偶然ですが、１回やったことのある場所（京都府福知山市の福知山城、福岡県福津市の宮地嶽神社など）が多いです。運命的なものを感じます。

――楽しみにしている対局場は。
広瀬 　初めて誘致された静岡県富士宮市の「たちばな」さん。すごく良いところだと関係者からうかがっていまして。富士山を望むことができる景色や、 割烹かっぽう 旅館ということで、食事も楽しみです。

藤井竜王、わずかなリード守り切る必勝パターン身につけた
――七番勝負で対戦する藤井聡太竜王の将棋を、どう感じていますか。
広瀬 　最近はタイトル戦という舞台にも慣れ、よりパフォーマンスが上がっている印象で、タイトル戦の方が強いという認識になっています。２日制のように持ち時間が長い将棋で、わずかなリードを守り切るという必勝パターンを身につけたというふうに思っています。

――七番勝負に向けて、対策は。
広瀬 　他の棋士と同じようにするのか、全然違うことをするのか。始まる前に考えなければいけないテーマです。（藤井竜王の）直近のタイトル戦や公式戦をみて、少しでも参考になることを研究していきたいです。

子どもの誕生、引っ越しで生活は様変わり…コラムきっかけに妻と将棋の話も
――以前（２０１８年、１９年）の竜王戦七番勝負の時と違い、広瀬八段にはお子さんも誕生し、勉強環境は変わりましたか。
広瀬 　３年前と今では、色々変わっていることは多くて、大きなところでは子供が生まれて。それと、引っ越しもしまして、生活環境は様変わりしました。

――昔（１８年）の竜王戦七番勝負第１局で、セルリアンタワー能楽堂（東京都渋谷区）の客席に奥様がいらしていましたよね。
広瀬 　ははは。そうでした。（もじもじしながら）一応、対局中ですから視界に入ってしまうと、緊張するというのか。あるいは、笑ってしまうのか。なるべく客席を見ないようにしていた記憶はあります。

――読売新聞オンラインで広瀬八段について描いたコラムなどが掲載されていますが、お読みになっていますか。
広瀬 　最近、アベマさんで対局解説（王位戦第５局・藤井聡太－豊島将之戦）をした際に、その時の言葉をまとめた記事（観る将が行く。記事は こちら ）でしたか。妻と将棋の話をするきっかけになりました。読んでみたら、自分の数々の失言とまでいかないですけど、コメントをうまく拾いながら、まとめてくださっていて、なかなか面白い記事だったので印象に残りました。

――コロナ禍となって、タイトル戦の夜はどう過ごしますか。
広瀬 　自分はけっこう、始まる前の日や、初日の夜もそうですけど、割と関係者と談笑している方が好きなのですが。そういう機会はなくなっているという話も聞くので、一人の時間が長いと。経験してみないとわかりませんが、一人の時間がマイナスになりそうならば、対策を練りたいです。

昔のアーセナルは「王道の矢倉」、今は「臨機応変でバランス重視の将棋」
――広瀬八段はサッカー・イングランドのプレミアリーグ観戦がお好きですけど、今もかなりご覧になっていますか。
広瀬 　最近は、ひいきのチームの試合を中心に見ています。

――アーセナルのファンですよね。今期は調子が良さそうですが。
広瀬 　マニアックな話になりますが、戦力補強がうまくいきました。チームが若くて、伸びしろがあると思うので、今後楽しみにしています。

――冨安（健洋）選手はレギュラーではないのでしょうか。
広瀬 　そうですね。最近は途中から出ることが多いですけど。そろそろスタメンになるのではないかと、期待しています。

――まるで監督みたいですね。
広瀬 　ははははは。私が監督なら、とっくにスタメンです。日本人びいきで。

――アルテタ監督の戦術が複雑と言われることも多いアーセナルのサッカー。将棋に例えると、どんな戦法でしょうか。
広瀬 　うーん、昔のアーセナルはパスサッカーでしたから、王道の「矢倉」という感じでしたでしょうけど、今は選手によってフォーメーションが変わり、サイドバックの選手が中に入ってきて、他の選手がスペースを埋めることもあって。それは今の臨機応変な「バランス重視の将棋」。例えるなら、そんな感じでしょうか。今は囲いというより、王様がどの位置にいてもバランスを保たないといけない時代なので。

――サッカーとデータ活用の親和性については、どう考えていますか。
広瀬 　将棋もサッカーも最後は人間がやるので、どうしてもミスが生じることがあります。例えば、サッカーならトラップミスをするとか、滑ったりすることもあるでしょうから。サッカーの方が、考えても考えても、最後は選手の能力しだい。そこが、将棋との違いではないでしょうか。

――将棋は頑張りしだいでミスを減らせると。
広瀬 　そうですね。駒の性能自体は変わりませんから。人間がちゃんと最善を尽くせば、勝てると思います。

――昔、インタビューした際に、アーセナルの優れたミッドフィールダー、エジル選手が好きとうかがいましたが。
広瀬 　いやあ、懐かしいですねえ。

――現在の好きな選手は。
広瀬 　スミス・ロウという選手なんですけど。トップ下ですけど、ゴール前に顔を出してという選手は好きですね。期待しています。

妻や両親から「頑張れ」と言われるので…

――竜王を獲得した時（１８年）と比べ、広瀬八段の棋風に変化はありますか。
広瀬 　棋風は変わっていないと思います。最新の将棋に精通し、取り入れようとはしています。ただ、それは簡単なことではないので、研究段階から試行錯誤しています。将棋ＡＩを活用した研究が中心です。

――ＣＰＵは「Ｒｙｚｅｎ」を使っていらっしゃいますよね。
広瀬 　はい。藤井竜王と同様、「Ｒｙｚｅｎ」にお世話になっています。

――性能の良さを実感していますか。
広瀬 　竜王を取る前の時のものと比べると、感じますね。前のものは頼りないところもあったので。スペックは大事だなと思いました。

――研究時間は短期集中という感じなのでしょうか。
広瀬 　子供が家にいるときには、あまり研究はしていません。気になるというか、なるべくパソコンに触らないようにしています。

――家族の存在というのは、対局の支えになっていますか。
広瀬 　子供が小さいと、妻や両親から「頑張れ」と言われるので、頑張らざるを得ないというのはあります。

――ファンは第５局、第６局、第７局と長いシリーズを期待していますが。
広瀬 　藤井竜王は（七番勝負で）第６局を指したことがない。シリーズの後半まで長引かせて、彼の新しい一面をお見せできるように頑張りたいと思います。

情報源：広瀬八段「シリーズ後半まで長引かせ、藤井竜王の新しい一面を見せたい」 : 読売新聞オンライン

藤井竜王「広瀬八段、充実した印象」、七番勝負は「挑戦者だった時と同じ気持ちで」

2022/10/06 11:30

２０歳にして五冠を保持し、将棋界の最高位に君臨する藤井聡太竜王にとって、第３５期竜王戦七番勝負は防衛戦となる。挑戦者は竜王経験者の広瀬章人八段。切れ味鋭い終盤力を武器に、長く厳しいトーナメントを勝ち抜いてきた挑戦者を、藤井竜王はどのように迎え撃つのか。注目の七番勝負を前に、藤井竜王を直撃取材した。（聞き手：吉田祐也、写真：若杉和希）

広瀬八段、中盤から終盤できれいに抜け出して勝っている

――決勝トーナメント開幕を前に、読売新聞に掲載された藤井竜王の挑戦者予想。永瀬拓矢王座を本命にあげられていましたが、広瀬八段が挑戦者になりました。
藤井 　自分の予想は外れましたが、広瀬八段は竜王戦でも実績のある実力者なので、意外ということはありません。

――竜王戦本戦や挑戦者決定三番勝負で広瀬八段の将棋を見て、どのように感じましたか。
藤井 　広瀬八段の竜王戦の対局を見ていると、タイムマネージメントが非常に巧みで、中盤から終盤にかけて、きれいに抜け出して勝っていることが多く、充実している印象を受けました。

――広瀬八段とは何度か対局されていますが、昔（２０１８年、１９年あたり）と印象は変わっていますか。
藤井 　広瀬八段とは１年近く対局がなくて、竜王戦七番勝負が久しぶりの対局になりますが、最近の広瀬八段の将棋を見ていると、終盤の切れ味はもちろんですが、序盤においても以前より作戦のクオリティーが上がっている印象を持っています。

――広瀬八段の中盤の形勢判断について、どのように見ていますか。
藤井 　広瀬八段は終盤力の印象が強いですが、中盤の指し方もすごく巧みで、中盤から自玉と相手玉との距離感を見極めて指している印象があります。それが終盤の切れ味につながっていると思っています。

富士宮、福知山城、宮地嶽神社…初めて行く場所での対局が楽しみ

――今期の竜王戦七番勝負開催地で、楽しみな場所はありますか。
藤井 　第１局のセルリアンタワー能楽堂、第２局の仁和寺は前期も経験のある対局場ですが、第３局（静岡県富士宮市の 割烹かっぽう 旅館たちばな）、第４局（京都府福知山市の福知山城）、第５局（福岡県福津市の 宮地嶽みやじだけ 神社）の対局場はいずれも初めてうかがう所で、今から楽しみにしています。

――歴史とか、お好きですか。
藤井 　歴史は、あまり詳しくはないのですけど（笑）。

――福知山城とか、どうかなと。
藤井 　うかがう前に、歴史も調べていきたいと思います。

――世界史の方がお好きでしたか。
藤井 　いやあ、お城はまだ知らなくて。事前に予習しておかなくてはと思っています。

――第３局が行われる静岡県富士宮市は竜王戦初開催。何か富士宮についてイメージはありますか。
藤井 　えーと、そうですね。富士宮は富士山のふもとの街で、電車で身延線に乗った時に通ったくらいなんですけど、車窓からの富士山の景色は迫力があった印象です。また、富士宮やきそばなどのグルメもありますので、楽しみにしたいと思います。

――富士宮はおやつコンテストを開催していますが、自治体の歓迎の様子についてどう感じていますか。
藤井 　まち全体で対局を盛り上げていただけるのはうれしく思っていますし、コンテストということで、おやつに何が選ばれるのか、注目しています。

――竜王戦以外でもタイトル戦でたくさん対局するなかで、全国の色々な料理を食べるうちに、好き嫌いはなくなっていますか。
藤井 　ははは。そうですね、タイトル戦で各地の食べ物をいただく機会が増えましたが、どれもおいしくて。普段の対局ですと、カレーとかが多かったりして、毎回変えるということはないですけど、タイトル戦ですと、せっかくの機会なので、色々なものをいただいてみようかなと思っています。

――食事を残さない印象がありますが、タイトル戦だと（苦手な）キノコ料理も食べているのでしょうか。
藤井 　タイトル戦の対局の時に、キノコに出会ったことはないので、もしかしたら開催地の方から配慮していただいているのかと思います。

ラジオ体操は今も継続…最近はフィットネスマット使った運動も

――竜王戦では昨年、第３局で福島県いわき市の観光などもありましたが、対局前に散歩するといった経験はいかがでしたか。
藤井 　自分がタイトル戦に出始めたのは２０２０年で、コロナ禍ということもあり、なかなか周りを見に行くことはできなかったので、前期のいわき対局など、そういう機会をいただいて、楽しかったですし、リフレッシュできました。

――以前（２２年６月）のインタビューで、家の中で「ラジオ体操」をしているとうかがいましたが、現在も続けていますか。
藤井 　そうですね。今もやっています。最近ですと、フィットネスマットを買って、少し運動をしています。

――筋トレもしていますか。
藤井 　筋トレではないですけど、少し運動をしています。１０分か１５分くらいなんですけど、細々と続けていけたらと思います。

――家の中以外での運動はしていますか。
藤井 　いや、えーと。それ以外はしていないので、たまに外出した際に、階段を使うとか、そういうことを意識しています。

――運動不足以外の課題としておっしゃっていたことで、生活力というのか、家事のこととか、そういう力は伸びているのでしょうか。
藤井 　そこは依然として課題で、なかなか難しいでしょうけど、なるべく簡単なところから始めて、少しずつできることを増やしていけたら。

お酒は「どうやら弱い方。普段は飲んでいません」

――二十歳になられて、タイトル戦の対局後にお酒をたしなむ機会があったように思いますが。
藤井 　何回か飲んでみましたが、どうやら（酒に）弱い方だということがわかったので、本当にたまにで、普段は飲んでいません。

――家で飲むことはないと。
藤井 　そうですね。

――師匠（杉本昌隆八段）は「いつか一緒にグラスを傾けてみたい」とおっしゃっていましたが、難しいですかね。
藤井 　ははは。どうでしょう。師匠はお酒が強いのかどうか……。

――杉本門下で棋士（斉藤裕也四段）が誕生しました。杉本門下の棋士が増えたことについて、どんなふうに感じていますか。
藤井 　斉藤四段と自分は奨励会の入会が近くて、研修会の頃から将棋を指すことも多かったので、自分としてもうれしく思っています。

――斉藤四段が２５歳で年上ですが、どちらが兄弟子なのでしょうか。
藤井 　斉藤四段の方が、奨励会入会が早いので、斉藤さんが兄弟子です。

――藤井竜王が弟弟子と。
藤井 　だと思います。

――現在、杉本一門で集まって将棋を指すのは、正月くらいでしょうか。
藤井 　私自身は、お正月に一門で集まってというくらいですが、以前は師匠が研究会を開いて、それに参加して、一門の奨励会員同士で対局するという機会がありました。

――東海地方の棋士が増えている状況はいかがでしょう。
藤井 　本当に、素直にうれしく思いますし、そのことで東海地方の将棋が盛り上がっていったらいいなと思っています。

ＡＭＤのＲｙｚｅｎ、将棋ソフトを使う上では良い選択
――最近、世界的半導体メーカーのＡＭＤさんと広告契約を結ばれて、そのことについてどうお考えですか。
藤井 　私はＡＭＤのＲｙｚｅｎのＣＰＵを愛用しているので、こういうお話をいただけたことをうれしく思っています。

――広瀬八段もＲｙｚｅｎを愛用していますが、将棋研究に向いたＣＰＵなのでしょうか。
藤井 　将棋ソフトを使う際にはマルチスレッド性能が最も要求されるものなので、Ｒｙｚｅｎは将棋ソフトを使う上では良い選択になると思います。

――出演されたＡＭＤさんのＣＭはご覧になりましたか。
藤井 　あっ、はい。

七番勝負ポスター撮影、去年と比べると落ち着いてできた

――今日は竜王戦のポスター撮影もありましたが、自身のポスターをまじまじ見ることはありませんよね。
藤井 　じっくり見ることはありません。

――撮影時に、ポーズや目線など臨機応変でしたが、撮影されることに慣れてきたのでしょうか。
藤井 　決して慣れているということはないのですけど、竜王戦の撮影に関しては、去年に１回経験させていただいたので、今年は去年と比べると落ち着いてできたのかと思います。

――最後に、竜王戦七番勝負への意気込みは。
藤井 　今期の竜王戦七番勝負は防衛戦という形で迎えることになりましたが、気持ちの上では前期、挑戦者だった時と同じように臨めればと思っていますし、持ち時間８時間と非常に長いので、それをいかして一手一手、じっくり考えていい将棋にしていければと思っています。

情報源：藤井竜王「広瀬八段、充実した印象」、七番勝負は「挑戦者だった時と同じ気持ちで」 : 読売新聞オンライン

七番勝負

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