本戦の展望を語る藤井聡太竜王(東京都千代田区で)=若杉和希撮影

藤井竜王への挑戦権は誰の手に…本戦、28日開幕 : 読売新聞オンライン

決勝T開幕局は6/28
5組優勝:佐々木大地七段 vs 6組優勝:伊藤匠五段



2022/06/23 05:00

将棋の第35期竜王戦は予選にあたるランキング戦が終了した。将棋界の最高位と賞金4400万円をかけて、藤井聡太竜王に挑戦する棋士は誰か。1~6組のランキング戦を振り返るとともに、竜王挑戦権をかけた本戦の行方を藤井竜王が展望した。(文化部 吉田祐也)

本命は永瀬王座、対抗は大橋六段ら3人…藤井竜王が本戦展望

本戦の展望を語る藤井聡太竜王(東京都千代田区で)=若杉和希撮影
本戦の展望を語る藤井聡太竜王(東京都千代田区で)=若杉和希撮影

――本戦出場者が出そろいました。

藤井  タイトル保持者の永瀬王座、名人経験者の佐藤九段といった実力者に目がとまります。本戦に渡辺明名人、豊島将之九段、羽生善治九段の名前がなく、1組の競争は厳しいと思いました。

――ベテラン、中堅、若手棋士と、バラエティーに富んだ顔ぶれです。

藤井  森内九段、丸山九段は百戦錬磨で実績も十分です。50代ですが、指し手には若々しさを感じます。山崎八段とは昨年の本戦で対戦しました。2年連続で本戦入りした山崎八段は、竜王戦に強いイメージがあります。同学年の伊藤五段は落ち着いた指し回しで6組を制しました。

――トーナメントで左の山をどう見ますか。

藤井  伊藤五段、佐々木七段、大橋六段の誰が勝ち上がるのか、実力が 拮抗きっこう していて読めないです。いわゆる「1組の壁」は、稲葉八段、山崎八段、永瀬王座が立ちはだかります。稲葉八段、山崎八段は自分の土俵に引きずり込むのがうまく、若手に強いです。永瀬王座は勝ち方を知っている棋士で、待ち受ける展開は好みだと思います。

――右の山では、丸山九段と広瀬八段という実力者が激突します。

藤井  広瀬八段は総合力が高く、丸山九段は独自の型を持っています。中盤から、じっくり時間を使って好勝負になるのでは。

――森内九段と高見七段は公式戦で初対戦です。

藤井  お二人とも実力者なので、何度か対局していると思っていました。(初対戦は)意外です。森内九段は手厚い指し手が特徴で、高見七段は鋭い指し回しが持ち味。棋風がぶつかる終盤戦に注目しています。勝ち上がると佐藤九段との対戦です。佐藤九段は攻防のバランスに優れ、将棋の内容が良いと感じています。

――ズバリ、挑戦権獲得の本命は。

藤井  1組で優勝した永瀬王座が本命です。トーナメントの好位置につけていることも大きい。佐藤九段も有力な存在です。

――「対抗」の予想は。

藤井  伊藤五段、佐々木七段、大橋六段の中で勝ち上がった棋士が、勢いに乗って挑戦者決定三番勝負に進出することもあると思っています。3人を「対抗」と予想します。

――竜王戦で勝ち上がりを待つ立場は今期が初めてです。どんな気持ちで観戦していますか。

藤井  ランキング戦は、普通に観戦者として棋譜中継を楽しんでいました。本戦になると、挑戦者が絞られてくるわけですが、最初のうちは気楽に観戦しようと思います。準決勝とか挑戦者決定三番勝負になったら、集中して棋譜を見ることになるでしょう。

藤井聡太竜王(19)  前期、竜王を初めて獲得して最年少四冠に。今年は王将を奪取して、現在は五冠を保持している。居飛車正統派で生粋の長考派。詰将棋で鍛えた終盤力は棋界No.1。「AI超え」の異名を取る。「チェス・プロブレム」(詰将棋のようなチェスのパズル問題)を解くことが趣味だ。

トーナメント表

主催=読売新聞社、日本将棋連盟
特別協賛=野村ホールディングス
協賛=東急グループ、UACJ、あんしん財団

開幕局は若手同士の激突 佐々木大地七段VS伊藤匠五段

竜王戦本戦は佐々木大地七段―伊藤匠五段戦が開幕局で、28日に東京・千駄ヶ谷の将棋会館で行われる。勢いのある関東の若手同士の対局で、藤井聡太竜王は「両者は序盤研究が深い」と認めている。本局の勝者と大橋貴洸六段の一戦は、7月6日に大阪市の関西将棋会館で行われる。

右の山では、竜王や名人の獲得経験があるトップ棋士・森内俊之九段と、叡王獲得経験のある高見泰地七段が7月8日に対戦する。


本戦出場者の顔ぶれ

粘り強い棋風の「軍曹」…1組優勝 永瀬拓矢王座 29

「負けない将棋」と称される粘り強い棋風に加え、最近は攻めの切れ味が増している。将棋に対するストイックな姿勢から「軍曹」と呼ばれている。

「1組優勝という結果をうれしく思う。本戦はいい位置から始まるので挑戦権獲得を目指したい」

名人3期、華麗なる「貴族」…1組2位 佐藤天彦九段 34

居飛車本格派だが、近年は裏芸で振り飛車を指すこともある。名人3期の実力者で、あだ名は「貴族」。華麗なファッションも注目を集めている。

「1組の4局は内容が良かった。決勝は終盤で乱れたので、そこを微修正して本戦に臨みたい」

手堅い勝ち方の「激辛流」…1組3位 丸山忠久九段 51

一手損角換わりが 十八番おはこ で独自路線を追求する。手堅い勝ち方は「激辛流」と評される。あだ名は「丸ちゃん」で、笑顔を絶やさない。筋トレが日課。

「本戦初戦の広瀬八段は手ごわい相手で、気の緩みは許されない。とにかくベストを尽くしたい」

創造性あふれる将棋…1組4位 山崎隆之八段 41

薄い玉型を腕力でまとめあげ、創造性あふれる将棋を指す。あだ名は「山ちゃん」。「運で勝った」など、自虐トークで笑いを取るのも持ち味だ。

「竜王戦で本戦入りできて活力になっている。観戦している方を楽しませる将棋を指したい」

持ち時間、堅実に配分…1組5位 稲葉陽八段 33

居飛車党で攻防のバランスが取れた棋風。持ち時間の配分にたけ、手数が長くなっても、堅実に勝つ順を選ぶ。アマチュア強豪の稲葉聡さんは兄。

「ランキング戦は初戦で負けて長い道のりだった。本戦は相手が決まったら、対策を練りたい」

鋭い寄せ、性格は鷹揚…2組優勝 広瀬章人八段 35

竜王経験者で、切れ味鋭い寄せは他の棋士から恐れられている。性格はほのぼのしていて「 鷹揚おうよう 流」だ。趣味のマージャンは、プロ並みの腕前。

「対戦相手の丸山九段は腰が重い棋風なので、根負けしないように気持ちを込めて指したい」

タイトル12期の「鉄板流」…2組2位 森内俊之九段 51

居飛車党で受けが強く、「鉄板流」の異名を取る。タイトル通算12期の大棋士ながら、あだ名は「ウティ」とかわいらしい。実直な人柄で知られる。

「本戦は勢いのある高見七段と当たるので、中盤を丁寧に指し、終盤はしっかり読みを入れたい」

たかみん、終盤に「妖術」…3組優勝 高見泰地七段 28

居飛車党の攻め将棋。終盤の逆転術に秀でており、「妖術」と称される。あだ名は「たかみん」。周囲に気を配る性格で、解説会での話術は巧みだ。

「森内九段には練習将棋でたくさん教えていただいた。挑戦者の気持ちで、ぶつかりたい」

藤井戦4連勝中の「キラー」…4組優勝 大橋貴洸六段 29

鋭い攻めが持ち味で、藤井竜王に公式戦で4連勝中ゆえ「藤井キラー」の異名を取る。赤や紫など派手な色のスーツで対局に臨み、衣装も注目される。

「本戦初戦は研究が深い関東の若手棋士と戦うことになるので、序盤作戦をしっかり準備したい」

師匠譲りの「根性将棋」…5組優勝 佐々木大地七段 27

序盤研究が深く、タイムマネジメントに優れる。師匠の深浦康市九段譲りの粘り強さで「根性将棋」の一面も。料理が得意で、カレーやコロッケを作る。

「初のランキング戦優勝で気持ちが高まった。伊藤五段は 緻密ちみつ な将棋なので、丁寧に指したい」

棋界随一の序盤研究…6組優勝 伊藤匠五段 19

居飛車党で、序盤研究の深さは棋界随一。終盤力も高く、若くして完成度が高い将棋を指す。ファンから「イトタク」「たっくん」と呼ばれている。

「本戦はどこまで行っても強い相手ばかり。食らいついて1局でも多く指せるようにしたい」


ランキング戦回顧

今期竜王戦のランキング戦1~6組の戦いをどうみたか。藤井竜王に振り返ってもらった。

佐藤九段は「順当」、丸山九段の終盤力健在

――1組は実力者が勝ち上がりました。

藤井  永瀬王座と佐藤九段は危なげない指し回しで決勝に勝ち進んで、本戦入りは順当でした。1組決勝は終盤の攻防が複雑で、大熱戦でした。3位に入った丸山九段は竜王戦で多く勝っていて、私も以前、本戦で負かされました。終盤力も健在だと感じています。4位の山崎八段、5位の稲葉八段は力強い将棋で本戦入りを果たしました。お二人は関西の実力者で、竜王戦で活躍している印象があります。

――2組優勝者は竜王経験者の広瀬八段でした。

藤井  広瀬八段は鋭い終盤が持ち味で、決勝の対局でも鮮やかな寄せを決めていました。竜王戦七番勝負という舞台を知っていらっしゃいますし、2組在籍というのが不思議です。

――2組でもう1枚の本戦切符を得た森内九段は。

藤井  「羽生世代」のトップ棋士で、受けが強くて攻めも鋭い。長い持ち時間を得意にされていて、竜王戦と相性がいい印象です。

――3組は、決勝でタイトル経験者が本戦入りを争いました。

藤井  高見七段は攻めが鋭く、終盤は追い込み型。独自の持ち味をいかして、競り合いをものにしていました。菅井八段との決勝は千日手指し直しとなり、見応えがありました。

大橋六段、一瞬の隙を逃さない強さ

――4組は大橋六段が優勝しました。

藤井  決勝戦は中村九段が相手でしたね。ベテランの中村九段が若手棋士を破って決勝まで勝ち上がり、熟練の指し回しが素晴らしかったです。大橋六段は関西の実力者で、一瞬の隙を逃さない強さがあります。決勝は終盤戦で一気に抜け出しました。

――5組は関東の若手実力者である佐々木七段が優勝しました。

藤井  佐々木七段は研究が深く、終盤も強いです。順当な勝ち上がりだったと思います。竜王戦で初の本戦入りというのは、意外な気もします。

――6組決勝は「藤井世代」の19歳対決でした。

藤井  決勝の対局は注目して見ていました。高田四段の力強いさばきを封じた伊藤五段の鮮やかな寄せが目を引きました。どの組も熱戦が多かったです。

1組決勝、171手の熱戦
△8三香までの局面
△8三香までの局面
永瀬王座(右)と佐藤九段の1組決勝は白熱の好勝負になった
永瀬王座(右)と佐藤九段の1組決勝は白熱の好勝負になった

今期の1組決勝・永瀬拓矢王座―佐藤天彦九段戦は171手の熱戦になった。永瀬王座が逆転勝ちし、2年連続の1組優勝を果たした対局を振り返る。

終盤戦に突入した=図=は佐藤九段が△8三香と厳しく攻めたところ。先手玉は薄く、佐藤九段が優勢な局面だが、▲8五歩△同香▲9九桂として、香車をつり上げておいたのが永瀬王座の巧妙な粘り方だった。以下△8六飛▲9八金△7八角成▲8七歩とした際、後手の飛車を引けなくしている。佐藤九段は飛車を切って攻めたものの、ここからは混戦になった。

本局を観戦した高野秀行六段は「最終盤はどちらが勝つかわからない、ギリギリの好勝負になった」と話した。残り時間が切迫する中、両者の読みがぶつかり合い、最後は永瀬王座が競り勝った。

局後、佐藤九段は「決めにいったが、具体的な手順が見えなかった。攻めすぎてしまった」と反省した。永瀬王座は「中盤で形勢を損ねてしまい、厳しいと思いながら指していた。最後の方は際どくなっていると感じていた」と振り返った。両者の優れた大局観が発揮された一局だった。


ランキング戦1~6組の結果

トーナメント表の数字は賞金、単位は万円。4、5、6組はベスト16から。

情報源:藤井竜王への挑戦権は誰の手に…本戦、28日開幕 : 読売新聞オンライン




決勝トーナメント進出


  

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