揮毫(きごう)
2022.5/28 15:00
棋士はよく色紙や扇子にサインを依頼されるから、各自好きな言葉や諺などを、いくつか持っている。
昔の棋士で有名なのは、升田幸三実力制第四代名人の『新手一生』だ。氏はその言葉通り、誰も思いつかない新手を一生求め続けた棋士で、その精神は将棋大賞の「升田幸三賞」として残っている。
また大山康晴15世名人の『忍』も、まさに頂点を極めた氏の将棋を表している。
次の世代になると、中原誠16世名人や米長邦雄永世棋聖がよく書いた『無心』が、よく知られている。
無の心境で将棋が指せるようになるのは容易ではないが、勝負にかかわる人としては、最高の心境であろう。
ただしこの言葉、若手棋士には書かないように注意している。お金の無心も、同じ字だからだ。
棋士もタイトルを取るか、人気棋士になると、将棋連盟から扇子作成の依頼が来る。現在、藤井聡太五冠の扇子は『大志』を始めとして3種類あるが、売れ過ぎて販売制限(1人1本などの)があると言う。
写真にあるのは、豊島将之九段の『結果自然成』と、斎藤慎太郎八段の『桜花爛漫』。豊島は自然体で臨む思いが伝わるし、斎藤は今、一番花が咲いていて、楽しく将棋が指せているという心境が出ている。
私が八段(A級)になった時に初めて作ったのが『凌雲之志』だった。中国の諺から持ってきたのだが、雲を超えるような大きな志で、ひと頃は将棋連盟でも販売していた。
次の『辿り来て未だ山麓』は升田九段や山田道美九段も書いていたせいか、大山15世の前で書いた時には、嫌な顔をされた覚えがある。
写真にある『曲則全』は『老有所為』と共に、私が京都の扇子店に直接依頼した最新の作。前者は中国の格言で、後者は中国象棋の大家に教わった、歳を取っても為すべきことはあるという中国の諺だ。
制作後、暫くして将棋連盟に行ったら、前者の扇子が売られているではないか。連盟に卸した覚えはないのにと思ってよく見ると、16世名人中原誠とある。こういうケースは初めてだった。
意味は真っ直ぐな木よりも曲がった木の方が丈夫で、寿命を全うすると同じく、直線で行かず、「曲」の大切さを知れ、という意味。簡単に言うと、急がば回れ、と私は理解している。
これを見たのか連盟の中継サイトに、曲がった木は建材に使えず、切られないから長生きする、とあったのには爆笑だった。
■青野照市(あおの・てるいち) 1953年1月31日、静岡県焼津市生まれ。68年に4級で故廣津久雄九段門下に入る。74年に四段に昇段し、プロ棋士となる。94年に九段。A級通算11期。これまでに勝率第一位賞や連勝賞、升田幸三賞を獲得。将棋の国際普及にも努め、2011年に外務大臣表彰を受けた。13年から17年2月まで、日本将棋連盟専務理事を務めた。
情報源:【勝負師たちの系譜】棋士の揮毫 「新手一生」「無心」…それぞれが持つ言葉の意図(1/2ページ) – zakzak:夕刊フジ公式サイト
【勝負師たちの系譜】棋士の揮毫 「新手一生」「無心」…それぞれが持つ言葉の意図 – zakzak:夕刊フジ公式サイトhttps://t.co/5UPW7r17XC
— あんかけ (@ankakekakna) May 28, 2022
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ほぉ・・・
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