2021/11/13
第80期順位戦A級5回戦 ▲斉藤慎太郎八段-△永瀬拓矢王座
2022年1月3日 13時00分
【観戦記】A級順位戦5回戦 先手▲斎藤慎太郎八段(4勝0敗) 後手△永瀬拓矢王座(2勝2敗)
自分は自分
11月13日に藤井聡太竜王が誕生して四冠となり、同19日には五冠挑戦も決まった。本局は、その19日に大阪の関西将棋会館で行われた一戦。B級1組在籍の藤井竜王とは今期の直接対決こそないものの、その足音はA級棋士には、当然みな聞こえているはず。「藤井さんはすごいし、その将棋も参考にする。ただ、自分は自分と思ってやるしかない」と斎藤は言っている。
名人連続挑戦を目指す斎藤にとっては勝ち越しのかかる重要局。2連勝後2連敗の永瀬にとっても、ここは負けられないところだ。
斎藤が先手で相懸かりを目指すのは久しぶり。「流行に興味を持つと同時に相手の予定を外す狙い」と斎藤。永瀬はその意図を知るはずもないが、指し手は早い。「どんな戦型でも準備はしていますよ」と、その手つきが言っているようだ。
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金1 △3二金 ▲3八銀 △7二銀 ▲9六歩=図(指し手の後の数字は消費時間〈分〉)9手目▲9六歩は藤井竜王の多用で再評価された手だ。解説の稲葉陽八段は「角の動きを楽にして、序盤の含みが増えた」と言う。
対する△3四歩が分岐点。△9四歩や△1四歩もよく指されているが、「△3四歩だったので、こちらは横歩取りを狙いながら駒組みを進めることになった」と斎藤。(青)
▲2四歩1 △同歩 ▲同飛 △8六歩 ▲同歩 △同飛 ▲8七歩 △8四飛 ▲2八飛1 △2三歩 ▲7六歩2 △4二玉持時間各6時間 消費▲5分 △1分
重要テーマ
過去の対戦成績は永瀬の6勝2敗。公式戦はその8局だが、奨励会三段リーグでも両者の対戦が2度あって1勝1敗。2009年の第45回三段リーグでは永瀬が四段昇段を決めた後の最終戦で斎藤と対戦して勝っている。
「昇段を決めても永瀬さんは気を緩めるどころではなく、その将棋も千日手指し直しの末、長手数でねじ伏せられた。とにかく勝負にからい。その印象はずっと変わりません」と斎藤は当時を振り返って言う。
出だしは先手が横歩を狙っていたが、途中から様子が変わった。本譜△8六歩の合わせが機敏。逆に後手が横歩を狙ったのである。
「▲同歩△同飛に▲8七歩は△7六飛で先手不満。後手は先手から角交換してもらって手得をする狙いです」と稲葉八段。斎藤も、「この辺りはうまく指された。6八に銀を運ぶ駒組みも考えていたので、▲8八銀型を強いられたのは不本意だった」と言っている。
駆け引きの末、実戦はありそうでない先後同形になった。では、指了図の同形はどちらがいいのか? 先手からの打開は可能か? これが本局の重要テーマである。(青)
▲4六歩2 △7四歩1 ▲4七銀1 △7三桂 ▲3六歩11 △1四歩1 ▲1六歩2 △6四歩 ▲5八玉1 △9四歩 ▲3七桂19 △8六歩1 ▲同歩15 △同飛 ▲2二角成1 △同銀 ▲8八銀 △8一飛 ▲8七歩2 △6三銀 ▲4八金1 △6二金1 ▲2九飛2 △5二玉6持時間各6時間 消費▲1時間2分 △1時間1分
打開に成功
両対局者や稲葉八段の総合判断によると、本局の同形は先手成功とは言えないらしい。「千日手がちらつき、簡単には打開ができない。作戦的には後手に不満がない」と斎藤。
ただし、実戦は先手が打開に成功した。△6五歩によって△6五桂がなくなり▲5七角が生じたのが大きい。さらに、角を打つ前の▲8六歩が読みの入った好手だった。
△6五歩では同形を崩さない△3三銀が局後に検討された。以下▲4五歩△6五歩▲6八銀となった時に、①△4二銀は▲8八角で先手が打開できそう。「この同形は避けたかった」と永瀬。だが、②△2二銀が斎藤が気にしていた手。以下▲8八角は△6四銀で、先手の動きが難しい。これは今後の研究課題になりそうだ。
実戦の▲8六歩で、すぐに▲5七角は△6四銀▲9五歩△同歩▲9三歩に△7五歩▲9五香△9四歩▲同香△8四飛で先手が大変になる。▲8六歩△3三銀としてから▲5七角と打ったのがミソで、今度△6四銀なら▲9五歩△同歩▲7五歩で手になる。△8五桂のさばきを封じているのが▲8六歩の効果だ。
実戦の△7二金は9筋の備えだが、今度は7筋に手が生じた。先手は苦心の構想が実りかけている。(青)
▲7七銀7 △5四歩2 ▲5六歩2 △6五歩5 ▲8六歩49 △3三銀29 ▲5七角19 △7二金21 ▲7五歩21 △同歩33 ▲同角 △7四銀 ▲5七角持時間各6時間 消費▲2時間40分 △2時間31分
形勢傾く
解説の稲葉八段は第75期の名人戦挑戦者で、斎藤は前期の名人戦挑戦者。どちらも新A級でいきなり挑戦者になったが、名人戦で敗れた。そして、「もう一度あの舞台に立ちたい」という思いで順位戦を戦っているところも同じである。
「七番勝負は1勝しかできなかったが、そこで得たものもたくさんある。負けて成長したところを見せたい」と対局前の斎藤は言っていた。
先手が巧妙な組み立てで局面の打開に成功したが、実際の形勢はまだ難しい。だが、ここからの数手で一気に流れが傾いてしまう。
「△7六歩はなかった」と永瀬。図で後手は△7五歩と打って押さえ込みを図るべきだったのだ。以下①▲5五歩が第一感だが、△同歩▲4五桂△4四銀▲5四歩△6三金▲5三歩成△同銀▲同桂成△同玉の玉頭戦は先手にもリスクがある。
先手は結局、②▲7六歩と自分から打つことになりそうだが、以下△同歩▲同銀△8六飛▲8七金△8一飛▲8六歩(▲8四歩)となれば、双方の持ち歩が実戦とは一歩違う。これなら互角に近い形勢だった。
実戦は▲7五歩△6三銀と押さえた時に先手はまだ歩を持っているので攻めに余裕がある。指了図で夕食休憩になった。(青)
△7六歩10 ▲同銀6 △8六飛 ▲8七金16 △8一飛3 ▲8六歩4 △4二銀9 ▲7五歩15 △6三銀 ▲7七桂 △4一玉1持時間各6時間 消費▲3時間21分 △2時間54分
攻めが決まる
夕食の注文は永瀬がポークステーキとご飯・スープのセット。斎藤が豚しゃぶカレー。さらに、永瀬はバナナ3本とコーヒーの買い出しも頼んだ。深夜の戦いに臨む闘志満々の姿勢に見えたが、内なる心は折れかけていたようだ。
「結構差がついていますよね」と局後の永瀬。後手が△4一玉と引く前の局面を指してそう言い、感想戦ではあとの検討はされなかった。いつも粘り強い永瀬の対局で、こんな光景は初めて見た。逆に言えば、それだけ斎藤の指し手にスキがなかったのである。
▲4五歩は角の利き筋を通しながら、▲1五歩△同歩▲1三歩の攻めを見せて△3一玉から△2二玉の移動を牽制(けんせい)した手。永瀬は△5一飛~△2二角で中央からの反撃を見せたが、そこで▲6五桂から駒を補充したのが絶好のタイミング。▲5六歩△5一飛の瞬間、▲2二歩△同金▲4六桂で攻めがぴったり決まった。
換気のため、対局室の窓は夜に入っても少し開けられている。ひんやりした空気が入ってくるが、永瀬は上着を脱いだまま。届けられたバナナにも手を付けていない。(青)
▲4五歩24 △5一飛14 ▲4六角9 △2二角13 ▲6五桂22 △同桂1 ▲同銀 △6四歩 ▲7六銀1 △5五歩1 ▲同歩13 △同角1 ▲同角 △同飛 ▲5六歩 △5一飛 ▲2二歩4 △同金14 ▲4六桂1 △3三桂5 ▲3四桂7 △3二金 ▲4二桂成3 △同玉持時間各6時間 消費▲4時間45分 △3時間43分
斎藤、5連勝
斎藤が初めてタイトルを取ったのは2018年の王座戦。翌年その斎藤から3―0のストレートでタイトルを奪ったのが永瀬で、現在に至る。「王座戦も含め、過去の永瀬さんとの対戦には大変な思いしかなかった」という斎藤だが、本局は一方的になった。
図から▲3五歩が厳しい。「後手は次の▲3四歩が受からず、反撃は△3六歩しかないのであとの攻め合いが読みやすい」と斎藤。さらに、▲4六桂から▲3四角が決め手だ。この角は盤上を支配する馬になって後手玉にとどめを刺した。終了図で△4二同飛なら▲同桂成△6二玉▲8一飛で受けがない。
終局午後10時2分。
「この2人の対戦で日付が変わらなかったのは意外だが、それだけ斎藤さんの内容がよかった。感想戦は両者のレベルの高い読みのぶつけ合いが印象的だった」と稲葉八段。
5連勝の斎藤は「上を目指し、気を緩めずやっていきたい」。3敗目の永瀬も、「修正して、残りの対局はいい内容にしたい」。局後はそろって前向きに語った。(青)
▲3五歩2 △3六歩13 ▲3四歩 △3七歩成 ▲3三歩成 △同金 ▲3七金 △2四桂3 ▲3四歩6 △同金 ▲4六桂2 △4五金1 ▲3四角4 △3六歩9 ▲3八金2 △3五金6 ▲2三角成6 △1二桂 ▲2四飛 △同桂 ▲同馬 △5二玉 ▲3五馬 △5三歩 ▲5四桂打2 △4一飛2 ▲4二銀2 △――7 まで、斎藤の勝ち
情報源:斎藤慎太郎八段スキなし 永瀬拓矢王座が残した手つかずのバナナ:朝日新聞デジタル
村)A級順位戦斎藤八段―永瀬王座戦の観戦記まとめ読みです。「長考派」と「粘り腰」の対戦とあって、終局は遅くなるかと思われましたが…。筆者は青記者です。
斎藤慎太郎八段スキなし 永瀬拓矢王座が残した手つかずのバナナ:朝日新聞デジタル https://t.co/F3ADNh6G6e— 朝日新聞将棋取材班 (@asahi_shogi) January 3, 2022
▲斎藤慎太郎八段-△永瀬拓矢王座(棋譜DB)
22時2分 投了
121手 4二銀まで、▲斎藤慎八段 の勝ち
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ほぉ・・・
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