第80期順位戦A級5回戦 ▲山崎隆之八段-△菅井竜也八段
2021年12月29日 10時00分
【観戦記】A級順位戦5回戦 先手▲山崎隆之八段(0勝4敗) 後手△菅井竜也八段(2勝2敗)
パックマン戦法
▲6六歩(図)を見て菅井が座り直した。左手で後頭部を右から左へともむ。開始から10分もたたず、盤上は面白いことになった。
▲9六歩 △9四歩1 ▲7八銀1 △3四歩3 ▲6六歩=図(指し手の後の数字は消費時間〈分〉)初手から▲7六歩に△4四歩と突く「パックマン戦法」(歩をぱくっと取らせて逆襲する)を先手番に応用したもので、山崎は過去にも指したことがある。図で△6六同角なら▲6八飛△5七角成▲7六歩△6八馬▲同金△2二銀▲1五角が代表的な変化。そこで△3三飛で互角だが、後手が好んで飛び込む変化でもない。菅井は△3二飛と振った。
本局の解説者は昨年10月にプロ入りした冨田誠也四段。「本譜の進行は▲7六歩と突かずに駒組みを進める狙いです」と話す。大駒をさばいて細い攻めをつなげる展開を得意とする菅井に対し、山崎は早々の角交換になりづらい形に誘導した。
初手▲9六歩も効いている。「△7二玉に代えて△7二銀は▲9七香~▲9八飛の端攻めが気になります」と冨田四段。さらに「▲5七銀(指了図)に△3六歩と突けません。▲同歩△同飛は▲2六歩があります。以下△3四飛にも△3二飛にも▲4六銀で、先手が押さえ込めます」。
山崎が指したのはただの奇襲ではなく、工夫が詰まった序盤戦だった。(諏訪景子)
△3二飛16 ▲6七銀 △6二玉2 ▲5六歩6 △4二銀 ▲7九角6 △7二玉3 ▲4八銀26 △3五歩4 ▲5七銀9持時間各6時間 消費▲48分 △29分
持ち味を封じる
解説の冨田四段にとって山崎は、奨励会時代の幹事。「やさしさの中に厳しさがある先生で、盤に向かう姿勢を問われました」と懐かしそうに話す。いまは研究会仲間。研究会では山崎も定跡形を指すそうだ。
本局の山崎は、前譜から徹底して菅井の持ち味を出させない序盤を目指した。「後手は△3六歩▲同歩△同飛から手順に△3四飛と引きたかったはずで、本譜の△3四飛の局面は先手の狙いが実現しています」と冨田四段。
菅井は▲4六歩に△4四歩と突いて▲4五歩~▲4六銀と盛り上がられる順を防ぎ、自陣の整備を継続する。
▲8六歩は将来▲8八飛と回る意味。局後に山崎は「▲2六歩ではすぐ▲8八飛と回るべきでした」と反省した。ただ、▲2六歩に代えて▲8八飛は△8二玉▲8五歩△7二銀▲4八玉△5四銀▲3八玉△3六歩▲同歩△4五歩と開戦される可能性があった。
本譜は4九金を2七まで上がって3六を強化。菅井が得意な細かい手作りを封じる意思を継続する。菅井は自然な手順で歩を手持ちにした。(諏訪景子)
△1四歩3 ▲1六歩4 △3四飛2 ▲5八金左24 △5二金左4 ▲4六歩1 △4四歩3 ▲4七金9 △4三銀2 ▲8六歩 △1三角18 ▲2六歩15 △8二玉7 ▲7六歩14 △7二銀3 ▲7七桂9 △5四銀6 ▲3八金 △3三桂7 ▲2七金 △4五歩4 ▲同 歩 △同 銀 ▲4六歩 △5四銀持時間各6時間 消費▲2時間4分 △1時間28分
菅井将棋に憧れ
11月4日、関西将棋会館での対局。既報の通り菅井は右腕を骨折したため、左手で駒を扱っている。回復途上でも対局のたびにリハビリが中断する。対局中は頻繁に腕をもんでいた。
解説の冨田四段は奨励会時代に菅井の対局の記録係を30局以上務めた。「思っていたより少ない」と首をかしげるほど菅井将棋に憧れ、追いかけていた。
岡山在住の菅井は対局前日に大阪で練習将棋を指すことが多く、冨田奨励会員は対局日程を常に把握し、予定を入れずに連絡を待っていた。「菅井八段の攻めは普通の人では気づかない順が多いです。よくなってからは慎重に指す将棋だと思います」と特長を話す。
先手が▲8八飛を実現させ、8筋の歩を伸ばす。冨田四段が「意外だった」と言うのが△4三銀。代えて△7四歩に▲8四歩なら△同歩▲同飛△8三銀▲8九飛△8四歩と銀冠に組み替えられる。▲7五歩~▲7六銀と8筋を攻められない。
「先手は隙だらけに見えますが大駒に進入されなければ大丈夫。後手の攻め駒は先手陣が手厚いところに集まっています」と冨田四段。仕掛けが難しい菅井は、△5五歩(指了図)で歩交換を目指した。(諏訪景子)
▲8八飛5 △6四歩7 ▲8五歩 △4三銀8 ▲8四歩1 △同 歩 ▲同 飛 △8三歩 ▲8九飛 △4四銀 ▲4八玉6 △5四歩7 ▲3八玉1 △6三金2 ▲2八玉6 △5五歩6持時間各6時間 消費▲2時間23分 △1時間58分
全軍躍動
図で▲6五歩が機敏だ。△同歩に▲9七角で、▲4二角成が受けづらい。△5三銀では▲5五歩と取られる。
菅井は囲いを崩して△5二金と受ける。続く▲5五歩に△同銀は▲5六銀左△同銀▲同銀△4五歩▲5三歩△同金上▲6五桂で先手好調。本譜の△4五歩には▲6四歩が痛打になった。金を引かせて桂馬を跳ね、先手の駒が前に進む。さらに▲5六銀左で全軍躍動。自陣が薄くなるが、銀交換から▲5二銀が厳しいと見ている。
飛車を成られても△4八同竜に▲3八銀がしっかりした受け。代えて▲3八金では△7八竜▲5一銀不成△6一金▲5二歩成に△4七歩成で逆転模様だ。
今日の譜は指し手が長いが、山崎が▲6五歩と突いたのが午後4時頃。指了図まで2時間で指された。「後手はあまり変化の余地がなく、菅井八段らしい技が繰り出せない展開です」と冨田四段。先手優勢で夕食休憩に入った。(諏訪景子)
▲6五歩5 △同 歩2 ▲9七角 △5二金1 ▲5五歩3 △4五歩9 ▲6四歩13△6二金引1 ▲6五桂 △3六歩2 ▲同 歩1 △5五銀 ▲5三歩3 △5一金 ▲5六銀左1△4六歩 ▲4八金1 △5六銀12 ▲同 銀 △4七銀 ▲同 銀6 △同歩成 ▲同 金 △4六歩1 ▲3七金左8 △5四飛3 ▲5二銀5 △5八飛成2 ▲4八歩 △同 竜 ▲3八銀8△5二金上1 ▲同歩成3 △同 金 ▲6三金 △4七歩成11 ▲同 金 △7八竜 ▲8八飛2 △6九竜持時間各6時間 消費▲3時間22分 △2時間43分
唯一の勝負手
夕食休憩前に24分考えていた山崎は、再開後すぐに▲5二金と指した。
代えて▲7二金は「攻めが細い気がした」と山崎。冨田四段は「▲7二金は以下△同玉▲6三銀△8二玉▲8四歩△同歩▲8三歩と攻めて先手勝ちですが、万が一にも逆転しない手を選んだのでしょう」と話す。
山崎はA級の前局、佐藤康光九段戦の最終盤で、大錯覚の悪手を指して一気に負けにした。目の前にあるA級初勝利を取りこぼすわけにはいかない。考慮中に何度もうなずき、読み筋を確認する。
菅井は力なく△3九銀と王手。山崎は▲1八玉。序盤で上がった2七金の利きが強く、簡単に寄らない。
骨折した腕の痛みがあるのか、菅井は顔をしかめることが多い。ぼんやりと盤を見つめている。局後には「駒損なのでさすがに厳しいです」と苦笑いを浮かべた。
菅井らしさが出なかった一局と言う冨田四段が「唯一、菅井八段らしい勝負手」と示したのが△3七歩。選択肢の多い局面にして相手を迷わせる。ただ本局は既に差が広がっていた。山崎は▲6三歩成から攻めて銀を使わせ、▲3七金左(指了図)で万全の態勢にした。(諏訪景子)
▲5二金24 △3九銀5 ▲1八玉3 △9九竜2 ▲8七飛4 △9八竜15 ▲8八歩 △8七竜 ▲同 歩 △5八飛2 ▲4九金 △3七歩 ▲6三歩成16△同 銀 ▲6二飛13 △7二銀打 ▲3七金左持時間各6時間 消費▲4時間22分 △3時間7分
A級初勝利
図での△5二飛成に山崎は▲5三桂成。駒を高く持ち上げて着手した。ここでも何度もうなずいている。
△3一角はハッとするが、本譜が明快。▲6一銀が決め手で、△1六歩には▲7二銀不成が詰めろになる。
成桂を取り返す▲3七同銀(終了図)で菅井が投了した。終局は午後8時44分。△1一角と竜を取っても▲同竜があり、先手玉は寄らない。入玉に望みを託したいが、▲8六銀や▲8六香と押さえられてしまう。
菅井にとっては不本意な一局。20分ほどの感想戦で、ほとんどしゃべらなかった。
「局面をまとめる力がある山崎八段らしい序盤で自分の土俵に持ち込み、中盤で菅井八段らしさを出させない展開にしました。終盤は勝ちを急がない丁寧な指し方で、山崎ワールドが発揮されたと思います」と冨田四段は総括した。
A級初勝利の山崎は「仕掛けは自信がなかったです」。感想戦でも弱気だった。ただ、状態がいいときほど自分を律する発言が増えるのが山崎。慎重な言い回しは山崎ファンにとっては吉兆と言える。(諏訪景子)
△5二飛成 ▲5三桂成 △3一角3 ▲5二成桂4△9七角成 ▲3九金 △1五歩 ▲5一飛5 △6六角8 ▲2八金上 △4五桂 ▲6一銀11 △7一金6 ▲7二銀成 △同 金 ▲6一飛上成△1六歩 ▲8一竜2 △9三玉 ▲1一飛成4△3七桂成 ▲同 銀 △―――2 まで、山崎の勝ち持時間各6時間 消費▲4時間48分 △3時間26分
情報源:山崎隆之八段、隙だらけの布陣から全軍躍動 顔しかめる菅井竜也八段:朝日新聞デジタル
村)山崎八段が初勝利を挙げた一戦の観戦記まとめ読みです。山崎八段の作戦は「パックマン」。出だしは常識外れの手順に見えますが、遠大な構想が徐々に明らかになります。
山崎隆之八段、隙だらけの布陣から全軍躍動 顔しかめる菅井竜也八段:朝日新聞デジタル https://t.co/n5v1JHPygN #— 朝日新聞将棋取材班 (@asahi_shogi) December 29, 2021
▲山崎隆之八段-△菅井竜也八段(棋譜DB)
20時44分 投了
135手 3七同銀まで、▲山崎八段 の勝ち
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