2021/10/29 の対局
夕食休憩明けから中継(アーカイブ)
解説者:金井恒太六段
4:10:50 22時48分 投了
4:11:24 感想戦
4:36:50 感想戦終了
4:37:40 インタビュー
2021年12月7日 17時30分
【A級順位戦4回戦・観戦記】
▲(先手)広瀬章人八段(1勝2敗)△(後手)糸谷哲郎八段(2勝1敗)
糸谷八段の趣向「私にしては珍しく…」
10月29日に行われた4回戦のラスト局。黒星先行の広瀬は「ここは踏ん張りどころと思って臨みました」と振り返る。過去の対戦成績で5勝12敗と相性が悪い糸谷は「私にしては珍しく研究を投入しました」――。なんと図で、平然と△4二銀と上がったのである。
約12万5千局の前例を収録するデータベース上に、1局も見当たらない変化技。意識的に流行形を避け、自らの土俵で戦うのが糸谷好みのスタイルだ。直後に飛車先交換を許しても、陣形整備を早めて「幅広い将棋に持ち込めれば」と考えた。
▲2六歩1 △3四歩 ▲7六歩 △8四歩 ▲2五歩 △3二金 ▲7八金=図(符号のうしろの数字は消費時間<分>)意表をつかれた広瀬は「無難な駒組みを目指しました」。△8五歩には▲7七角から雁木に構える方針が現代調にも思われたが、▲7七銀で指し慣れた矢倉を志向。5筋を突かないで後手の急戦を警戒する手堅い指し方を採った。「後手番で有力とされる手法ですけど、2筋が切れているので悪くはないはずとの判断が働きました」
広瀬が想定した後手の攻撃形は6三銀―7三桂型。だが糸谷は▲3七銀に対し、豪胆にも△5五歩(指了図)と突っ張った。(剣)
△4二銀 ▲2四歩7 △同 歩 ▲同 飛 △3三銀 ▲2八飛 △2三歩 ▲6八銀6 △6二銀6 ▲4八銀 △8五歩 ▲7七銀1 △5二金 ▲6九玉1 △4一玉 ▲5八金2 △7四歩 ▲3六歩5 △5四歩4 ▲6六歩1 △6四歩14 ▲3七銀2 △5五歩54持時間各6時間
消費 ▲26分 △1時間18分
糸谷の宿痾「大抵は負けて…」
図の△5五歩は、昼食休憩を挟む本局一の長考で指された。「中央の位を取るのが好きなのは私の宿痾(しゅくあ)でして、大抵は負けてしまうのですがそれでも突いてしまいます」と糸谷は笑う。
▲4六銀には△4四銀で歩を守り、続いて△5三銀上~△5四銀と加勢。ここまでは十分に局面の均衡が保たれていたようだが、先手の▲7九玉に△6二飛が疑問符のつく一着だった。次に6筋からすぐに攻勢をかける手段が望めない以上、この飛車回りは1手の価値に乏しかったのだ。
代案としては単に△6五歩と突き、1歩交換を果たしてから▲6七金右に△7三桂で間合いを測るのが一策。△3一角~△6四角の活用が好転換となる。
本譜は▲6六歩△5四銀に、先手は▲5九角~▲2六角と転回する順も考えられたが▲3七桂がよりスピーディー。「後手は△4二金右に代えて△6三金でバランスを取る選択もあったでしょうが、玉が薄くなるので上がりづらいかも」とは広瀬の見解である。糸谷は「これまでの悪いイメージが積み重なったせいか悲観し、△1四歩(指了図)で後手の不利を自認しました」と苦笑した。(剣)
▲4六銀8 △4四銀 ▲7九角4△5三銀上2 ▲6八角2 △5四銀2 ▲7九玉5 △6二飛21 ▲6七金右41△6五歩50 ▲同 歩1 △同 銀 ▲6六歩1 △5四銀 ▲3七桂11△4二金右8 ▲8八玉6 △6一飛1 ▲9六歩15 △9四歩5 ▲1六歩11 △1四歩2持時間各6時間
消費 ▲2時間11分 △2時間49分
差が縮まる
図は、堅い玉形の先手がハッキリ優位に立っている。戦機が熟したと見た広瀬は、ここで▲5六歩と突いた。
しかし局後、この手を後悔。「代えて▲3五歩が急所でした。△同歩▲1五歩△同歩▲1三歩△同香▲2五桂△1四香にそこで▲5六歩とすれば後手陣の乱れが大きく、先手がかなり勝ちやすい流れだったと思います」
手順中▲1五歩に△3六歩も、▲2五桂△2四歩▲1四歩△2五歩▲1三歩成で先手の快調な攻めが続く。▲5六歩と突いていなければ、後手からの反撃が存外難しいのだ。3筋と1筋を先に突き捨てる順は攻めが細いきらいはあるのだが、この際は後手に斬り合いの勝負をさせないメリットが上回る。△6五歩と攻め合われた本譜は、5筋の歩の突起を逆利用される懸念が生じて差が縮まった。
本譜▲1五歩に△5六歩は、▲1四歩△5五銀左▲1三歩成△同香▲同香成△同桂▲5五銀△同銀に▲5三歩が巧打で先手優勢。次に▲5二銀が厳しく、後手は△6六歩が間に合わない。糸谷は素直に△1五同歩と応じ、広瀬は▲1三歩と垂らす。△同香なら▲6五歩と手を戻せば、△同銀▲6六歩△5六銀▲同金△同歩に▲1二銀と絡んで先手よし。
▲1三歩を待って糸谷は△5六歩とし、迫力満点△5五銀左(指了図)と出た。(剣)
▲5六歩19 △6五歩28 ▲1五歩20 △同 歩 ▲1三歩 △5六歩11 ▲1五香4△5五銀左1持時間各6時間
消費 ▲2時間54分 △3時間29分
ついに糸谷八段が追いつく
前譜で先手に手順前後のミスがあり、形勢はやや接近したものの図では後手がまだ苦しい。ところが、当然に見えた広瀬の▲1二歩成が最善ではなく、△4四角の場面は後手がさらに盛り返したというのだから驚く。
糸谷が危惧していたのは、歩成りに代えて▲2四歩。先手は本譜より確実にまさったという。「①△2四同歩に▲1二歩成△4四角▲5五銀が正しい手順だったようで、△同角なら▲4六角とぶつけてよし。△同銀には▲2四角と出られるのが2筋打ち捨ての効果。そこで△2七歩がよくわかっていなかったのですが、▲2一と△2八歩成に▲5四桂が厳しかったですね」と広瀬は話す。先手は駒の補充が利く上に、▲4五桂の援軍が心強い。
さかのぼって▲2四歩には②△6六歩も怖いが、▲2三歩成△6七歩成に強く▲2二とでいい。△7八と▲同玉で後手は矢倉の金2枚を削れても、△2七歩▲3二と△同玉▲2七飛と進んだ局面は先手玉が寄らないのだ。
本譜は▲2一とに、糸谷の△6九銀が際どい勝負手段。これには▲7二銀と切り返して△6二飛に▲7九金とすれば、先手は△6六歩▲6九金△6七歩成に▲6三銀打が味のいい挟撃で残していた。が、広瀬は単に▲7九金と引き、ついに糸谷が追いついた。(剣)
▲1二歩成41△4四角1 ▲5五銀13 △同 銀 ▲2一と4 △6九銀17 ▲7九金43 △6六歩 ▲5四歩持時間各6時間
消費 ▲4時間35分 △3時間47分
攻防の決め手
図は△6六歩の金取りに、先手が▲5四歩と打った局面。実に悠然と味わい深い、寄せの距離感にたけた広瀬ならではの垂れ歩だ。
対して平凡に①△6七歩成は、▲5三桂△同金▲同歩成△同角▲4五桂で後手の一手負けとなる。糸谷は②△5二玉と得意の力強い玉さばきで応えたが、失着。広瀬の▲7二銀が厳しい追撃で、先手が再び優位に立った。
後手の正着は③△6五飛。これに▲4五桂は、△6七歩成▲5三歩成△6六銀で全軍躍動態勢に入って後手が勝つ。▲5三歩成△同金▲4五桂も△5四金で後手に分がある。糸谷は▲2四桂△同歩▲同角△6七歩成▲5三銀を恐れたが、△6六銀と踏み込めばむしろ後手が有望だった。
広瀬の予定は③△6五飛に▲2二と。これに△6七歩成は▲3二と△同金▲5三銀で先手の勝ち筋なので、後手は△2二同金と応じて▲4五桂に△6七歩成と進む。以下は▲5三歩成△同角▲5四銀△7八銀成▲同金△同と▲同玉△6七金▲8八玉△7八金打▲9八玉△7七金寄▲同角△6九飛成が一本道で、▲5三桂不成△同金▲8八金なら形勢不明の大激戦が続いていた。
本譜は▲7七銀が沈着冷静な好手。続いて▲8二飛が攻防の決め手となった。(剣)
△5二玉25 ▲7二銀10△6七歩成27 ▲6一銀不成3△同 玉 ▲6九金 △6六銀 ▲同 銀8 △同 と ▲7七銀9 △8六歩6 ▲8二飛2 △7六と15持時間各6時間
消費 ▲5時間7分 △5時間0分
広瀬八段「弱くなった自分、復活する日が…」
▲8一飛成の王手に糸谷は△6二玉で上部脱出を図ったが、▲6六桂が決定打となって勝負あり。終了図からは一手一手の寄りだ。
「作戦勝ちを収めた先手が順調にゴールまで突き進むかに思えましたが、糸谷さんが怪力を発揮してスリリングな終盤に。広瀬さんが序盤であまり時間を使わずに指し進めたのが印象的でした」とは本局の解説者である金井恒太六段の感想。もう1人の長岡裕也六段は「作戦が不発に終わってから、徐々に混戦に持ち込んだのはねじり合いに強い糸谷流でさすがでした。広瀬さんは何げない序盤の駒組みに研究の深さが漂い、終盤の組み立てには強者のすごみを感じました」と語った。
近々郊外に引っ越す予定という広瀬は「すっかり弱くなった自分がこれを機にまた復活する日が来るのか。予想できないのですが頑張ります(笑)」。行動経済学の基礎論文がフェイクだったか否かの話を最近面白く感じたという糸谷は、山にもよく登る。「澄んだ空気が負けのつらさを吹き飛ばしてくれるのがいいですね」と快活な笑顔を見せた。(剣)
▲8一飛成1△6二玉1 ▲5三銀15 △同 金 ▲同歩成 △同 玉 ▲6五桂1 △5四玉 ▲6六桂 △同 と ▲4五金1 △6五玉2 ▲4四金 △5七歩成 ▲6六銀5 △同 玉 ▲7七角 △5六玉 ▲8六竜 △6六歩 ▲6五角1 △5五玉 ▲6六竜1 △6四玉 ▲4三角成 まで、広瀬の勝ち持時間各6時間
消費 ▲5時間32分 △5時間3分
情報源:怪力を発揮した糸谷哲郎八段 スリリングな終盤、広瀬章人八段の追撃:朝日新聞デジタル
村)広瀬八段―糸谷八段の観戦記まとめ読みです。糸谷八段の趣向で見慣れない将棋になりました。糸谷八段は「中央の位を取るのが好きなのは私の宿痾(しゅくあ)でして…」
怪力を発揮した糸谷哲郎八段 スリリングな終盤、広瀬章人八段の追撃:朝日新聞デジタル https://t.co/HCK0uB4MjL— 朝日新聞将棋取材班 (@asahi_shogi) December 7, 2021
A級順位戦・広瀬八段ー糸谷八段の観戦記をまとめた記事が配信されました。担当は剣記者です。
「私にしては珍しく研究を投入しました」などなど、糸谷八段らしい、語録になりそうな言葉が次々と……。
怪力を発揮した糸谷哲郎八段 スリリングな終盤、広瀬章人八段の追撃https://t.co/lhC6gBuHqI
— 高津祐典 (@yusuketakatsu) December 7, 2021
▲広瀬章人八段-△糸谷哲郎八段
107手 4三角成まで、▲広瀬八段 の勝ち
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