ほぉ・・・
2021年11月13日 18時49分
藤井聡太さん(19)と豊島将之さん(31)が初めて将棋盤を挟んだ瞬間を、記者が目撃した日から、もうすぐ丸7年になる。あの日、豊島さんから将棋を教わるという感じだった藤井さんが、今年6~11月の三つのタイトル戦で豊島さんに連続勝利。藤井さんの成長に驚くばかりだ。
2014年12月29日、名古屋市内のビルの一室。当時、藤井さんは小学6年生でプロ養成機関「奨励会」の初段。棋士と認められる四段になるまで、あと3回、昇段しなくてはならなかった。このころから寡黙で、大人びていた。当時七段だった豊島さんは、まだタイトルに手が届かない時期だったが、実力は高く評価されていた。
練習将棋をセッティングしたのは名古屋市出身・在住の棋士、杉本昌隆さん(53)。愛知県瀬戸市出身・在住の藤井さんにとっては師匠で、同県一宮市出身の豊島さんにとっては東海地方の先輩棋士。2人の才能を知る杉本さんは、朝日新聞に連載中のコラム「杉本昌隆八段の『棋道愛楽』」で19年5月に「いつか必ずタイトル戦で当たるであろう組み合わせを見たかった」と明かしている。
杉本さんが見通していた「いつか」は、2021年だった。しかも、2人は王位戦七番勝負、叡王戦五番勝負、竜王戦七番勝負という異例の「十九番勝負」を繰り広げた。
2人のタイトル戦が実現したのは、豊島さんが一足先にタイトル戦の常連となっていたことも大きいと思う。初タイトルの棋聖獲得は18年。19年には将棋界の二大タイトルとされる名人と竜王を奪取し、史上4人目の名人・竜王に輝いていた。
このころ、豊島さんが藤井さんについて語った言葉を、強烈に覚えている。
名人を奪取した翌朝恒例の「名人獲得から一夜明けて」の取材の際、「藤井さんをどう見ているか」という質問に対して豊島さんは「自分とは一回り違うので、彼が25歳の時に自分が37歳。そう考えると、自分が年齢的なものを乗り越えて相当うまくこれからの時間を過ごしていかないと、なかなか彼が全盛期といわれる時に戦うのは難しいかなと思っていて……。それでも本当にすごい棋士ですから、戦ってみたいですし、それを長期的な目標としてやっていきたい」。4連勝で念願の名人を奪取した直後の豊島さんに、ここまで評価される藤井さんに、すごみを感じた。
豊島さんも、すごかった。ただ危機感を吐露しただけではなく、公式戦で藤井さんに勝ち続けたのだ。前述の豊島さんの発言の時点では2人の公式戦の対戦成績は豊島さん1勝だったが、その後、豊島さんは5連勝。21年1月の第14回朝日杯将棋オープン戦の本戦2回戦で初めて藤井さんに敗れるまで、藤井さんに計6連勝。藤井さんにタイトル戦で勝つ有力候補は豊島さんとみられていた。
一方、藤井さんがタイトル戦の常連となったのは20年から。20年度は棋聖戦でタイトル挑戦と獲得の最年少記録を塗り替え、王位も奪取。21年度は棋聖、王位を防衛し、叡王、竜王を奪取し、四冠に。なお、王将戦で挑戦、奪取すれば、21年度内に五冠になる可能性が残っている。
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豊島さんは王位戦で挑戦者になり、第1局で藤井さんに勝ったが、第2~5局で4連敗し、挑戦失敗。第5局(8月24・25日)は中盤で豊島さんに大きな見落としが出た。人間なのでミスが出るのは仕方ないのだが、「序盤、中盤、終盤、隙が無い」がキャッチフレーズの豊島さんらしからぬ、大差の将棋になってしまった。この辺りから「豊島さんでも藤井さんのタイトル戦での快進撃を止められないのか」という空気が漂い始めたと記者は感じている。
両者2勝2敗で迎えた叡王戦第5局(9月13日)も藤井さん勝ち。挑戦者なら敗退しても、ある意味、失うものは無いが、タイトル保持者は敗退すると、失冠となる。このダメージは、タイトル戦常連の豊島さんでも大きかったのではないか。叡王戦第5局の4日後にA級順位戦の対局で関西将棋会館に現れた豊島さんは、気丈に振る舞ってはいたが、記者には疲れ果てたように見えた。
一方、王位防衛を決めた当日の記者会見で、藤井さんからは余裕を感じた。記者は「豊島さんとの公式戦での対戦成績は、出だし6連敗だったが、21年に入ってからは(王位戦第5局までで)7勝3敗。急激に盛り返した理由は?」と尋ねた。藤井さんは「内容的には苦戦が多いので、まだまだこちらが足りないところが多いのかなと思っています」。いつもどおり謙虚に答えたが、「今年1月の朝日杯で初めて(豊島さんに)勝つことが出来て、それが良いきっかけになってこの番勝負に臨むことが出来たのかな、と思っています」と続けて、ニッコリ。朝日新聞記者の質問に、朝日新聞社主催の棋戦での勝ち星を「良いきっかけ」と答えてくれたのは、多少のリップサービスも含まれているのでは、と記者は感じた。
続けて、冒頭で紹介した豊島さんとの練習将棋について記者が質問すると、藤井さんは「自分が奨励会の時に教えていただいたこともあったので、タイトル戦の番勝負という舞台で対戦できるのは、とてもうれしい。今後もそういう機会を多く持てるようにしたい」と答えた。この言葉どおり、5日後の8月30日に竜王挑戦を決め、豊島さんとの3度目のタイトル戦を実現させた。
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厚いと思われた「豊島さんの壁」を藤井さんは、あっさりと破ったように見える。見事としか言いようが無い。
竜王を奪われて豊島さんは無冠になり、将棋界の八つのタイトルは四冠の藤井さん、名人・棋王・王将の渡辺明さん(37)、王座の永瀬拓矢さん(29)の3人が分け合う形となった。
ただし、豊島さんは10月、将棋日本シリーズJTプロ公式戦準決勝で渡辺さんに215手という大熱戦の末に勝ち、3日後のA級順位戦でも永瀬さんに逆転勝ち。豊島さんの勝利への強い執念は相変わらず、すごいと、記者は感じている。
藤井さんとのタイトル戦で最終局までもつれ込む接戦を演じたのは、これまでのところ、豊島さんだけ、でもある。
藤井さんと豊島さんのドラマは、まだ先が、あるはずだと思っている。(佐藤圭司)
情報源:藤井聡太四冠の成長、乗り越えた豊島前竜王の壁 記者が見つめた姿:朝日新聞デジタル
藤井聡太四冠の成長、乗り越えた豊島前竜王の壁 記者が見つめた姿 https://t.co/UepdccUs7Y
佐藤圭司記者のコラム。同感です。「藤井さんとのタイトル戦で最終局までもつれ込む接戦を演じたのは、これまでのところ、豊島さんだけ、でもある」「藤井さんと豊島さんのドラマは、まだ先が、あるはずだ」
— 高津祐典 (@yusuketakatsu) November 13, 2021
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