藤井聡太三冠、むずむずと動いた手 木村一基九段「折れてしまった」

藤井聡太三冠、むずむずと動いた手 木村一基九段「折れてしまった」:朝日新聞デジタル

2021/9/20 ▲藤井聡太二冠-△木村一基九段


2021年10月27日 12時00分

普段と違う「ぶっきらぼう」な木村

B級1組順位戦5回戦 ▲(先手)藤井聡太三冠(3勝1敗)△(後手)木村一基九段(1勝2敗)

叡王を奪取して三冠になったばかりの藤井と、王座戦五番勝負を戦っていた木村。勢いのある両者が順位戦で初めて顔を合わせた。過去の対戦成績は藤井の6勝1敗だ。

9月20日。東京・将棋会館の特別対局室に先に姿を見せたのは藤井だった。木村の着席後、上座の藤井が駒箱を開ける。深く一礼してから王将を手にして、駒を並べ始めた。

B級1組順位戦で対戦する藤井聡太三冠(左端)と木村一基九段(右端)=2021年9月20日午前、東京都渋谷区の将棋会館、日本将棋連盟提供
B級1組順位戦で対戦する藤井聡太三冠(左端)と木村一基九段(右端)=2021年9月20日午前、東京都渋谷区の将棋会館、日本将棋連盟提供

先手の藤井は、今年多用している相懸かりを選んだ。図は8月に永瀬拓矢王座と指した第34期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局と同じ局面。永瀬は△9五同歩と応じたが、木村は△8五桂と跳ねた。攻められた9筋から反撃する狙いだ。

▲2六歩 △8四歩1 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金1 ▲3八銀 △7二銀1 ▲9六歩  △5二玉3 ▲4六歩4 △9四歩6 ▲2四歩7 △同 歩 ▲同 飛  △2三歩16 ▲2八飛  △8六歩 ▲同 歩  △同 飛 ▲7六歩2 △同 飛3 ▲8二歩  △9三桂1 ▲9五歩1=図(指し手の後ろの数字は消費時間〈分〉)

ノータイムの▲8七金(指了図)を見た木村が考え込む。

「全部でどれぐらい使ってる?」。記録係に尋ねる口調は、普段とは違ってぶっきらぼうだ。そのまま昼食休憩になった。(村瀬信也)

△8五桂3 ▲8一歩成9△同 銀 ▲2五飛  △8四歩8 ▲8七金

持時間各6時間 消費▲23分 △43分

読みの本線になかった手

藤井は昨年、木村は一昨年に初タイトルを手にした。ただ、そこに至る道のりは全く異なる。藤井は史上最年少の17歳11カ月、木村は史上最年長の46歳3カ月での獲得だった。いずれも、今後数十年は破られないのではと思える快記録だ。

両者は昨年の王位戦七番勝負で対戦。開幕時点では30歳差で、史上2番目の年齢差対決として話題になった。今回木村が手にしていた扇子は「王位 木村一基」の肩書入りのもの。揮毫(きごう)されていた言葉は「一発逆転」だった。

木村は昼食休憩の40分を挟む53分の長考で△7九飛成を決断したが、穏やかな△7四飛が有力だった。▲8六歩で先手の桂得が確定するものの、△3四歩▲6八玉△8八角成▲同銀と進めば、△4四角が先手陣をにらむ急所の角打ちとなる。この手が木村の読みの本線になかったようだ。藤井は後日、「先手陣にキズが多く、作戦の成否は難しいと思っていた」と述懐した。

図は▲8七金まで
図は▲8七金まで

感想戦で木村は、△7九飛成を「暴走でした」と悔やんだ。△7八銀の両取りは厳しいが、相手に飛車を渡すマイナスも大きい。

ただ、本譜は藤井にとっても本命視していない展開。「△8七銀成~△3四歩の攻めが予想以上に速いのは誤算だった」。午後はスローペースになった。(村瀬信也)

△7九飛成53 ▲同 角  △7八銀 ▲7四歩40△8七銀成34 ▲7三歩成54△3四歩19

消費 ▲1時間57分 △2時間29分

扇子「こだわりはない」

藤井が先手番で相懸かりを指し始めたのは2月からだ。今年の三つのタイトル戦(棋聖戦、王位戦、叡王戦)でも採用し、タイトル獲得につなげた。敗戦はまだ1局しかない。

昨年からは「dlshogi(ディーエル将棋)」という新しい将棋AI(人工知能)を研究に採り入れている。戦型選択の幅の広がりも含めて、さらに隙がなくなってきた印象を受ける。

40分、54分。藤井は図の局面の直前、2手連続で熟慮していたがさらに時間を使う。右手で扇子をクルクルと回転させ、パチパチと音を立てながら開閉する。目を凝らして見てみると、渡辺明名人の扇子だった。「こだわりはなく、リュックに入っている物を使う」のだという。マスクを外してお茶を飲む際には、鼻の下のそり残しのひげがのぞいた。

図は△3四歩まで
図は△3四歩まで

藤井は49分で▲6六歩といったん受けた。その後も慎重に指し進めたが、夕食休憩明けに指した▲5三とを後日悔やんだ。「▲2八飛△7八歩▲8三飛の方が良かった。と金がいる間に、どこかで▲8三飛と打つ組み立てが必要だった」

本譜の展開だと2五の飛はもう逃げられない。後手に飛車を渡したのは大きい。(村瀬信也)

▲6六歩49 △4二玉22 ▲6三と20 △3五金30 ▲5三と42 △同 玉1 ▲8三飛3 △4二玉21 ▲3五飛  △同 歩1 ▲5三金  △3三玉1 ▲8一飛成 △5二歩12 ▲6一竜6 △5三歩 ▲3六歩1

消費 ▲3時間58分 △3時間57分

弟子が「さすがです」

3七の歩を突いた▲3六歩(図)は、悠長に見えるが実は厳しい手だ。△7八飛なら▲3五歩△7九飛成▲4八玉で良い。後手玉は詰めろが受けづらい。

図は▲3六歩まで
図は▲3六歩まで

木村は少考で△1四歩と突いた。角を移動させて玉を安全な2二に収める狙いだが、手数がかかるためやりづらさもある。別室で戦況を見ていた解説の高野智史六段は「この手を指せるのはさすがです」と声を上げた。

高野六段は、木村と1対1での練習対局を毎月行っている。「王位を失冠されてからの方が強さを感じる。AIの研究で序中盤がさらに洗練され、充実している」。40代後半の今もなお、さらなる実力向上を目指す師匠に刺激を受けている。

「▲4一銀がいい手だった」。後日、木村はそう振り返った。後手玉をいきなり寄せるのではなく、まずは守りを弱体化させる狙いだ。代わりに▲3四金△2二玉▲2四歩と攻めるのは△同角▲同金に、金を取らず△7八飛で後手が良くなる。

金を6九に使ったため先手は戦力不足になったが、▲9一竜~▲3四歩が好手順。藤井が細い攻めをうまくつないでいる。後手玉に王手がかかった指了図が問題の局面だった。(村瀬信也)

△1四歩8 ▲3五歩18 △1三角5 ▲4一銀49 △7八飛28 ▲6九金7△7四飛成11 ▲9一竜7 △2二玉2 ▲3二銀成 △同 玉 ▲3四歩4 △同 竜1 ▲4五金1 △7四竜2 ▲3七香2

消費 ▲5時間26分 △4時間54分

藤井、見逃さなかった隙

2016年にプロになった藤井は、順位戦でも快進撃を続けている。本局を迎えた時点での通算成績は42勝2敗。今期2回戦の稲葉陽八段戦で敗れてC級1組の時から続いた連勝は22で止まったが、昇級候補であることに変わりはない。A級に昇級していきなり挑戦者になれば、谷川浩司九段が持つ最年少記録を更新して20歳で名人になる可能性がある。

木村は前期、1勝3敗の出だしから巻き返して8勝4敗。昇級した2人とは1勝差で次点だった。3度目のA級昇級を待ち望んでいるファンは多い。

△3三歩が失着だった。感想戦では、△3五歩▲同香△3三歩▲3四歩△同歩▲同金△4二玉という手順が示された。香車を3五に近づけておけば、1三の角で取る手が生じるので受けやすい。続いて▲3二歩には△2二銀とかわして耐える。こう進めば後手陣の攻略は容易ではない。

図は▲3七香まで
図は▲3七香まで

図で後手の持ち時間は1時間以上残っていた。「△3三歩、2分ですもんね。考えなくちゃいけない」。木村は局後、棋譜を確認してから記者の方を向いて、そうつぶやいた。

△2五銀(指了図)は、相手の攻め駒にプレッシャーを与える木村らしい手だ。だが、藤井は後手陣の隙を見逃さなかった。「華がある」と評される藤井将棋らしい手が飛び出す。(村瀬信也)

△3三歩2 ▲3四歩1 △同 歩1 ▲同 金  △3六歩9 ▲同 香  △2五銀1

消費 ▲5時間27分 △5時間7分

むずむずと動いた藤井の手

▲2四金が妙手だ。木村は背筋を伸ばして正座になり「う~ん」とうなる。ここで勝負は決まった。

図は△2五銀まで
図は△2五銀まで

▲4一角の王手竜取りがあるため、後手は▲1三金を取れない。「涙の辛抱」で指された△4二玉を見た藤井の右手がむずむずと動いた。次の手が瞬時に浮かび、駒台に手を伸ばしそうになったのだろう。▲3二歩には4分の考慮時間が記録された。優勢を築いた後も抜かりがない。

▲6五角(終了図)と竜と成銀の両取りがかかった局面で、木村は「負けました」と告げた。後手は駒損がひどく、攻防共に見込みがない。終局は午後11時28分だった。

藤井は居玉のまま細い攻めをうまくつなげた。「まだまだ先が長い。一局一局を大事にしてやっていきたい」と語った。戦力不足で派手な手が出にくい展開の中、相手の駒の間をすり抜ける▲2四金~▲1三金は、詰将棋を得意とする藤井らしいトリッキーな駒運びだったと言えよう。

木村にとっては守勢が続き、不本意な一局となった。「粘りを欠いたというか、折れてしまった」。その言葉を聞いて、「百折不撓(ふとう)」という木村の座右の銘を思い出した。何度失敗しても立ち上がるという意味だ。勝負はまだこれからである。(村瀬信也)

▲2四金3 △3六銀11 ▲1三金  △4二玉 ▲3二歩4 △同 銀10 ▲2二金  △7一歩 ▲6五角  △―――11  まで、藤井の勝ち

消費 ▲5時間34分 △5時間39分

情報源:藤井聡太三冠、むずむずと動いた手 木村一基九段「折れてしまった」:朝日新聞デジタル



投了までの10分

https://www.youtube.com/watch?v=3JtTz6UfiR8&hd=1

初手からの解説

https://www.youtube.com/watch?v=HBG5fdjruH8&hd=1


56手「△1四歩」の局面~放送終了まで

2:43:00 79手「▲2四金」
3:25:00 木村一基九段 投了
3:28:35 インタビュー
3:37:14 初手からの解説


藤井聡太二冠-△木村一基九段(棋譜DB

79手「▲2四金」

87手 6五角打まで、▲藤井聡三冠 の勝ち



  

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三枚堂七段、ここは一つ勝っておきたいところ。


  

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