永瀬拓矢王座
2021.10.10
羽生世代というと、羽生と同じ世代の数人の棋士がタイトルを独占し、他の棋士が入り込む余地のない軍団を作っていた。
例えば予選で、佐藤康光九段にやっと勝ったと思えば、次の相手は丸山忠久九段で、そこをクリアしても森内俊之九段が最後に待っているといった具合で、とても挑戦者にも辿り着けなかった時代が長く続いた。
それに対して、現在は藤井聡太三冠を中心とする、同年代の藤井世代と言える棋士はいない。藤井が若過ぎて、藤井を目標とする棋士はすべて、藤井より年上だ。
従って藤井世代とは藤井と同じ時代に活躍し、藤井を目標にして追いつけ追い越せの努力をしている棋士と言えよう。
そのトップランナーが、永瀬拓矢王座である。永瀬は藤井より10歳上の29歳だが、王座、叡王の二冠を持っている時でもなお「藤井さんに勝つにはもっとギアを上げないと」と言っていたから、かなり強く意識しているのは間違いがない。
昨年豊島将之竜王に叡王を奪われた永瀬にとって、藤井を追いかけるために、王座防衛は絶対条件だった。
対する挑戦者の木村一基九段は48歳。一昨年の王位戦で、豊島将之竜王から王位を奪取して、初タイトルの最年長記録を大幅に更新したのは記憶に新しい。この年でこれだけ活躍している棋士は、木村1人である。
木村の王位戦の就位式で、印象に残ったことがある。それは来ていたファンのほとんどが、単に報道で知ったファンでなく「地元に来て頂いてお話をさせて頂きました」というように、実際に会ったファンであるということ。
これも師匠の佐瀬勇次名誉九段が普及に熱心で、全国を回った棋士だったことが影響しているのであろう。
五番勝負は、第1局に木村が角交換腰掛銀で勝った後は、永瀬が巻き返し、この5日の第4局に勝ち、3勝1敗で永瀬の防衛となった。
注目すべきは、第2局以降の戦型がすべて相掛かりだったことで、私が常々言う、序盤から激しい将棋ほど若手有利、が実証されたことだった。
相掛かりは木村も昔から得意としていた戦型だから、逃げる訳にはいかないだろうが、若手の実力者相手には簡単には勝てないということか。
『百折不撓』とよく書く木村が、これから何歳までトップの位置で頑張れるか、永瀬が藤井に追いつく日は来るのかなど、興味は尽きない。
■青野照市(あおの・てるいち) 1953年1月31日、静岡県焼津市生まれ。68年に4級で故廣津久雄九段門下に入る。74年に四段に昇段し、プロ棋士となる。94年に九段。A級通算11期。これまでに勝率第一位賞や連勝賞、升田幸三賞を獲得。将棋の国際普及にも努め、2011年に外務大臣表彰を受けた。13年から17年2月まで、日本将棋連盟専務理事を務めた。
情報源:【勝負師たちの系譜】「藤井世代」のトップランナー永瀬拓矢 序盤から激しい若手有利の戦法で王座防衛 (1/2ページ) – zakzak:夕刊フジ公式サイト
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— zakzak (@zakdesk) October 10, 2021
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