藤井聡太3冠【写真:ENCOUNT編集部】

藤井聡太2冠王手! 叡王戦第3局は豊島将之2冠の激しい攻めに動じず 真田圭一八段解説 | ENCOUNT

真田圭一八段


2021.08.09

藤井聡太2冠【写真:ENCOUNT編集部】
藤井聡太2冠【写真:ENCOUNT編集部】

藤井2冠は得意の角換わり相腰掛け銀を選択

豊島将之叡王(竜王=31)に藤井聡太2冠(王位、棋聖=19)が挑戦する第6期叡王戦五番勝負第3局が9日、料亭「か茂免(かもめ)」(名古屋市)で行われ、先手の藤井2冠が121手で勝ち2勝1敗とし、叡王奪取に王手をかけた。中盤に一気に激しい戦いになった第3局を振り返る。

1勝1敗で迎えた叡王戦第3局。勝った方がタイトルに王手がかかる、重要な1戦だ。藤井2冠の先手で角換わり相腰掛け銀に。いよいよというべきか、ついにこの形になった。藤井2冠にとって、角換わり相腰掛け銀は一番の得意戦法。デビュー以来、基本的にその位置付けは変わらない。

この戦法の特徴として、確かな終盤力が絶対に必要。また事前の研究も大事だ。形勢を損ねると玉型が薄く粘りが利かない。中盤のねじり合いも難解な展開になりやすく、力量が求められる。要するに高い総合力がなければ指しこなせない戦法なのだ。藤井2冠はデビュー当時からこの戦法で勝ちまくっていたわけだから、その高い潜在能力を証明していたと言える。

もう一つだけ非凡な点を挙げるとすれば、後手を持ってやや受け身となる展開になったとしても、対応を間違えない強さが備わっていたことだ。将棋は本質的には受けの難しいゲームで、それはプロでも変わらない。玉の薄い将棋でも勝ち切れる強さまで持ち合わせているのだから、高い勝率も当然と言える。

中盤は渋い展開から一気に激しい戦いに

さて、対局に戻ろう。角換わり相腰掛け銀の、定跡最前線の形になった。まずは豊島2冠が研究手を見せる。58手目△8五歩と継ぎ歩を入れてから△2二金と手を戻した。これで前例を離れ未知の局面に。

その後、65手目▲8四角と打った手が一つのポイント。この角は敵玉から遠く、意味は敵攻撃陣の牽制(けんせい)で、完全に受けの手だ。さらにその直後、67手目▲6六桂も攻めの銀を後退させる受けに重心を置いた手。持ち駒をどんどん投入して、相手の攻めの手段を奪う指し方だ。

この辺り、どのような展開を志向するかは大局観が一番問われるところであり、藤井2冠がどのような判断、読みのもとに受け重心の展開を選んだのかが非常に気になる。一方、豊島2冠は相手が持ち駒を使ったことに満足して無理をしない。70手目△3一玉、74手目△5二金と玉を安定させながら間合いを計る。渋い展開になり、長い中盤も予測されたが、77手▲9五歩を境に、局面は予想外に激しくなった。以下△6五歩▲7四桂△8五桂と、豊島2冠が一気に牙をむいて攻めかかったからだ。

週1局を上回る対局をしている2人ならではの境地に

ここは他にもさまざまな手、考え方ができた局面だ。つまり豊島2冠は展開を選ぶことができた。その中で、おそらくは最も激しいと思われる順を選んだ。この背景には、両対局者の現状が多分に反映されていると感じられた。叡王戦と王位戦、2つのタイトル戦を同時進行で戦い、特に最近は週に1局を上回るほどのペースで2人は戦っている。そうなると、具体的な指し手とは別に、相手の思考回路を感じとる距離感がどんどん近くなって、そのことが将棋の組み立て方に影響するようになる。

そんな中で、この将棋に関しては、豊島2冠は激しく攻めたい、または激しく攻めなければダメだというような、なんらかの感性が働いたのではないだろうか。実際の展開としては、その後85手目▲7七桂と進んだ局面は、藤井2冠がよさそうな局面になったと思う。だが、その直後の△6六香。この手が豊島2冠の指したかった手ではないだろうか。

ここは、第一感は△6六桂と、香ではなく桂を打つ手。だがそれではよくならない。△6六香は、藤井玉が身動きのできなくなる手で、終盤の手としては厳しい手だが、持ち駒に乏しい現段階ではそれほどでもない。よって狙いとしては、藤井玉にプレッシャーをかけて、その状況でどう対応するかを見てみたい、そんな考えがあったのではないか。

プレッシャーに動じなかった藤井2冠が勝ち切った

ここからの藤井2冠の指し回しは素晴らしかった。安全に指すならどこかで▲6六角と香を外してしまえばよい。だが必要以上に安全主義に陥ることなく、87手目攻めの▲3三歩、91手目後の▲6八歩を可能にする読みの入った▲6三歩成、105手目落ち着いて盤上の駒を活用する▲9六銀、と硬軟自在の指し回し。自玉が頭金一発で詰んでしまう形ながら、全く心理的負担や動揺を感じさせない指し方で勝ち切ってしまった。

玉を薄くしてプレッシャーをかけても効果は無いなと、豊島2冠も舌を巻いたのではないか。安定した強さを発揮して勝ち切った藤井2冠。これで叡王奪取に王手となった。どんどん隙がなくなっていく印象で、果たして次局勝って3冠王を決めてしまうのか。ますます目が離せなくなってきた。

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投了までの10分

https://www.youtube.com/watch?v=Mp1VZVWI0LI&hd=1


初手からの解説

https://www.youtube.com/watch?v=lgAhuR25crM&hd=1


藤井聡太二冠-△豊島将之叡王(棋譜中継

121手 3四銀まで、▲藤井聡二冠 の勝ち



 

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