山崎隆之八段 ©中田絢子

山崎隆之八段が語る“鬼の棲み処”B級1組のすごみ「来期初参加の藤井聡太さんは…」 | 観る将棋、読む将棋 | 文春オンライン

1期抜けするだろうとの予想(2敗くらいしてほしいという希望も)


「読む将棋2021」山崎隆之八段インタビュー 番外編


順位戦のB級1組は、「鬼の棲み処」とも称される。

最上級のA級から降格してきたかつてのタイトルホルダーたちと新進気鋭の若手が交錯する場所。

来期から初めてA級に昇格する山崎隆之八段(40)は、そのB1に13年間いた。昇級することもなければ降級することもなく、まるで牢名主のように独創的な棋風で若手やベテランとしのぎを削ってきた。

山崎八段に「鬼の棲み処」の居心地、A級にかける想いを聞いた。

山崎隆之八段 ©中田絢子
山崎隆之八段 ©中田絢子

◆ ◆ ◆

危機感と調子が連動している

――13年いたB1からA級へ。どんな感慨をお持ちですか。

山崎 「やったー」という気持ちはないですね。去年はB1で3勝9敗で、本来ならB2に落ちてしまっているような成績ですから。

――同じ3勝9敗の棋士が3人いて、いわゆる「頭ハネ」の順位の関係で山崎さんが降級を免れたと。

山崎 そうです。しかも3勝したうちのひとつは相手が五手詰めを見逃していたからで、実質負けです。昨年度は中盤くらいから完敗するような将棋が続いて、はっきり力が足りないと思う内容でした。

――それが今期は初戦から5連勝で、最終局を待たずに昇級を決めました。復調のきっかけはなんですか。

山崎 私は危機感と調子が連動しているところがあります。今期は降級の可能性が高かったので、1局目からかなり集中して臨めました。それが降級の可能性がなくなったとたん、知らず知らずに負け始めまして……。

11月ごろに早指し将棋で手ひどい逆転負けをしてしまったんですよ。プロが見れば「弱い」とわかってしまうような。そこから「あんな将棋はしたくない」とまた危機感が自分の中に芽生えてきて、成績が上向いてきました。将棋の内容もそうなんですが、自分から背水の陣を敷かないとダメなタイプなんです(笑)。

B2は、昭和の空気も残っていてノホホンとしていた
――B1は「鬼の棲み処」と呼ばれたりしますが、他のクラスと雰囲気は違うものなんですか。

山崎 たしかにけっこう違います。私がB2にいたころはベテランも多く、昭和の空気も残っていてノホホンとしていました。

対局も昇級がかかっていると最終戦が近づくにつれて頑張ろうと気合いを入れていたんですが、それ以外はまあ、気楽に(笑)。こっちは下から上がってきた若手なんで、降級点も2回連続して取ることもないだろうって。(降級点は)消せるし、落ちることをまったく考えることがなかった。今は棋士の平均年齢が10歳くらい下がっているので、そんな余裕はないと思いますが。

――それがB1に上がるとがらりと変わる。

山崎 1期目から相当雰囲気が違うと感じましたね。勝負に対して執念が違う、迫力がある。いきなりなんか、一局一局、最初らへんからみんなすごい執念がある感じで。トーナメント戦で相性が良い先生もいたんですが、順位戦で負けたりして、「うわっ」という感じ。

もともとA級におられた先生がいて、昇級したいのももちろんなんですが、このクラスから落ちたくないという気持ちを強く感じました。このクラスから落ちてしまうと一気に落ちてしまうので。B1だと他の棋戦でシードがあるし、棋士としてある程度上位者だと制度上も認められています。このクラスから落ちるとパッと名前が出てくる棋士でなくなってしまうようなプライドも賭けて戦っているという空気があります。

1期でA級に上がると思いますよ

――ちょうど山崎さんが昇級されたのと交代するかのように、来期は藤井聡太二冠がB1に昇級します。さすがの藤井さんも苦戦が予想されますか。

山崎 (即答で)いやしないでしょう(笑)。彼はしないでしょう。B1でちょっとは苦労してほしいけれど、1期でA級に上がると思いますよ。個人的にはなんか2敗くらいはしてほしいなと思いますけれど(笑)。

藤井さんの将棋を見ていて、彼が3年目くらいから、どういう感じになったら勝てるのかというイメージが湧きません。それくらい強くなっています。今恐れているのは、来期に私が落ちて藤井さんが上がると、入れ替わりになって唯一順位戦で当たれない棋士になる可能性があるんですよ。ひどくないですか、それ(笑)。

――藤井さんとやはり対局したい?

山崎 実際に当たったら嫌だなと思いますよ。トーナメント戦で当たりたいとは思わないですけれど、順位戦は総当たり戦なんで(笑)。

インタビューの本編は、文春将棋ムック『読む将棋2021』に掲載されています
インタビューの本編は、文春将棋ムック『読む将棋2021』に掲載されています

――それでは来期、ますますA級での対局が楽しみですね。

山崎 A級に上がった棋士の5、6割は1期で降級してしまうという統計があります。私もA級はほとんど勝ったことがない棋士ばかりです。最初からまた背水の陣という危機感を持てるので、楽しみってことはないですが、勝てたら40になっても強くなれた、ということじゃないですか。

師匠は「もっとも勝負根性が強いのは山崎君」
私はかつて山崎さんの師匠である森信雄七段(2017年5月に現役引退)と、その弟子たちの取材をして『一門 “冴えん師匠”がなぜ強い棋士を育てられたのか?』(朝日新聞出版)という本を書いた。そのなかで森さんは「現役の一門の中でもっとも勝負根性が強いのは山崎君」と評していた。山崎さん自身、中学に通いながら森さんの自宅で内弟子時代を送り、「将棋が弱いならば死ねばいい、くらいの気持ちでした」と振り返った。

――いまの柔らかい山崎さんとだいぶご様子が違う気がします(笑)。

山崎 いやもう、中学時代のテンションがもう残っていませんよ。我ながら恥ずかしいです(笑)。

――なにか転機となることはあったんですか。

山崎 10代のころは思い込みが激しかったですから。当時はネットもないし、携帯もないし、親と話すのは正月だけ、(高校に進学しなかったため)学校に行ってないんで友だちもいないし、将棋をするしかない。完全に世界が将棋だけのモノトーンで狭い。一冊だけ古本屋で哲学書を見つけて、その本だけずっと読んでいました。「自由とは何か」みたいなことを書いた本です。

森門下はひとりでフラフラしている人が多い
――山崎さん以外にも、糸谷哲郎八段が棋王戦挑戦、西田拓也五段が朝日杯将棋オープン戦で準決勝に進み、昨年10月には室谷由紀女流三段が女流王将戦に初挑戦するなど、森一門の活躍が目立ちます。なにか理由はあるんでしょうか。

山崎 森門下はひとりでフラフラしている人が多いのですが、コロナで外に出られなくなって、練習する機会が増えたんじゃないでしょうか。私も糸谷さんと、彼のYouTube配信とか棋士会の仕事の合間合間にネット対局をたくさんしました。それはありがたかったです。

――昇級はどのように森さんにご報告されたんですか。

山崎 順位戦の対局の翌朝です。いつも対局を終えたあとは脳が興奮状態にあるので、夜はなかなか寝られないんですよ。それで朝までずっと起きていて、翌朝の8時くらいに電話しました。「良かったな」とひと言いただきました。

◆ ◆ ◆

山崎隆之八段のインタビュー「“魅せる将棋”で初のA級へ『齢40にして強くなる』」の本編は、文春将棋ムック『読む将棋2021』に掲載されています。

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情報源:山崎隆之八段が語る“鬼の棲み処”B級1組のすごみ「来期初参加の藤井聡太さんは…」(文春オンライン) – Yahoo!ニュースコメント

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B級1組を全勝したことがあるのは、渡辺明名人と丸山忠久九段だけかな?、一期目で全勝昇級したのは丸山九段だけ?


 

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