2020年に行われた第13回朝日杯の準決勝
2021年2月7日 5時00分
対局前の出来事を会場を埋め尽くした多くの観衆は不思議に見ていたに違いない――。2020年2月11日、有楽町朝日ホール(東京都千代田区)で行われた第13回朝日杯将棋オープン戦の準決勝。朝日杯3連覇を狙う藤井聡太二冠(18)と2年連続4強入りを果たした千田(ちだ)翔太七段(26)が盤を挟んで着席した。居住まいを正すと、千田は藤井に向かって「どうぞ」と手を差し出した。通常、駒箱を開けるのは上手(うわて)の役目だ。この時藤井の肩書は千田と同じ七段。本来なら先輩の千田が行うものだが、2年連続優勝の藤井に敬意を表して、千田が譲ったのだ。
藤井はしばらく気づかず、約40秒、沈黙が続いた。千田が再度促し、気づいた藤井は固辞したが、千田も引かず、譲り合うこと数回。結局、藤井が押し切られる形で駒箱を開けた。
対局が始まると、互いに「研究済み」といった感じであっという間に指し手が進み、角換わり腰掛け銀の戦型で中盤の勝負どころを迎える。藤井は天王山に角を打ったが、千田に受けられると連続長考し、ついに1手60秒未満の秒読みになった。
盤外と反対に盤上では千田が主導権を譲らない。大盤解説会で木村一基九段(47)は「千田さんが狙いどおりに行っているのかなという感じがします」。
千田は確実にリードを広げ、藤井を追い詰める。受ける手段がなくなった藤井はティッシュで顔を拭き、お茶を飲んで上を見上げ、うなだれる。最後にまたお茶を一口飲むと、深々と頭を下げた。千田は持ち時間を残して会心の勝利。藤井はデビュー以来、朝日杯では負けなしだったが、連勝は16で止まった。
終局後、藤井は「強く踏み込まれて、いくつか正しい手を選択できずに形勢を損なった」と反省。「粘り強く指すことができなかったのが残念です」と話した。=敬称略(村上耕司)
◆毎週日曜に掲載します。
情報源:(大志 藤井聡太のいる時代)黎明編:4 駒箱も盤上も押し切られ、朝日杯3連覇逃す:朝日新聞デジタル
研究手だったんだっけ。
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