ほぉ・・・
2020.11.15 06:0
10月29日、将棋の八大タイトルのひとつ、叡王戦の主催が、“ペコちゃん”でおなじみの不二家へと移ることが発表され、藤井聡太二冠の活躍などもあり注目が集まっている将棋界のニュースとして大々的に報じられた。しかしそのウラには、凋落著しかった前主催者側の事情もあるとされ、業界関係者にとっては「いたし方ない」との思いも強いという。
もともと叡王戦は、「ニコニコ動画」や「ニコニコ生放送」でおなじみのドワンゴの主催で、2015年に誕生した将棋の一般棋戦のひとつ。2017年の第3期叡王戦から8つめのタイトル戦に昇格したばかりで、日本将棋連盟に支払う契約金の額による序列は、竜王戦、名人戦に次ぐ第3位(推定1億2500万円)。10月20日に行われた豊島将之新叡王の第5期就位式で、このドワンゴが主催から降りることが発表され、業界に激震が走る。将棋連盟と主催者がカネを巡って揉めたことはこれまでにもたびたびあったものの、主催者がみずからタイトル戦の主催を降りるなど、通常ではあり得ない事態だからである。
以下、日本将棋連盟の佐藤康光会長とドワンゴの夏野剛社長が、この就位式で述べた挨拶を引用する。
「来期の叡王戦に関しましてお知らせがあります。第6期からは今回をもって叡王戦の主催者は交代となります。ドワンゴ様は伝統と格式のある将棋界に常に新しい風を入れていただきまして、さまざまな形で貢献され感謝しております。叡王戦に関しまして一区切りではございますが、また、何かとお世話になることもありますし、引き続きよろしくお願いいたします」(佐藤会長)
「ドワンゴはかれこれ10年将棋の支援をさせていただきました。電王戦のころはまだAIと棋士が闘っていただけるっていうことだけで話題になるようなところから、今やそれが当たり前になって、ネット民のなかでも将棋人気がこれほどまで定着するというところまでできたことを非常に誇りに思います。将棋という世界で我々のような企業が支援させていただく機会を与えていただいたことを感謝いたします。10年間やってまいりましたけど、これからは主催という形ではなくなりますが、ネットの世界でも将棋を支えていく動きの中の中心の一社として、ドワンゴは頑張っていきますのでよろしくお願いいたします」(夏野社長)
ドワンゴ主催の叡王戦は、8大タイトルのなかでも“いちばん新しい”
将棋のタイトル戦を、序列順に以下に記してみよう。
・竜王戦(読売新聞主催、野村ホールディングス特別協賛)
・名人戦(朝日新聞、毎日新聞共催、大和証券グループ協賛)
・叡王戦(第5期まではドワンゴ主催、第6期からは不二家主催となり、序列は6位に)
・王位戦(新聞3社連合、神戸新聞社、徳島新聞社共催)
・王座戦(日本経済新聞社主催)
・棋王戦(共同通信社主催)
・王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社共催)
・ヒューリック杯棋聖戦(産経新聞社主催、ヒューリック特別協賛)ご覧の通りドワンゴは新聞社・通信社以外では史上初のタイトル戦主催者であり、「ニコニコ動画」を生んだドワンゴらしく、第4期まではニコニコ生放送が独占でネット配信。第5期からはABEMA将棋チャンネルでも配信されるようになっていた。
そこへきての連盟、ドワンゴの両者による「ドワンゴ、主催から降りる」の発表である。上記の通り両者ともに感謝の言葉こそ述べたが、なぜ急にタイトル戦の主催を交代することになったのか、その理由は聞かれなかった。その詳細は、10月29日の記者会見で正式に説明されるのだろうと誰もが思っていた。
混乱した日本将棋連盟・佐藤康光会長の会見、ドワンゴに対するねぎらい言葉は出ず
その記者会見は10月29日14時から東京の将棋会館で行われ、会見の様子はニコニコ生放送でも録画配信されたが、会見終了後の実際の配信まで時間がかかったことから、今か今かと待ちかねていた視聴者の不満が爆発。視聴者のコメントが動画上に流れるのがニコニコ生放送の特色だが、「もう2時過ぎたぞ」「いつまで待たせるんだ」「生放送しないのは誰の判断?」「ドワンゴは終わった」など辛辣なコメントが画面上を流れ続けた。
録画会見はなんとか15時から配信されたが、「第6期叡王戦の主催のほうは、株式会社不二家様にお願いをいたしました。また、ひふみ投信を運用するレオス・キャピタルワークス様、SBI証券様に特別協賛をいただくこととなりました。本当にありがとうございました」という日本将棋連盟の佐藤康光会長の冒頭の挨拶は、歯切れの悪いものだった。
第6期叡王戦の段位別予選が10月31日からスタートすることが決まっており、日本将棋連盟による新しい主催社、協賛スポンサー探しに加えて、ドワンゴに代わる放映先をどうするかなど、水面下での混乱をうかがわせる記者会見のようにも思われた。東京将棋記者会による質疑応答でも、事前に申し合わせでもあったのか、当たり障りのない質問ばかり。棋戦のネット配信、AIと棋士との対決等々、将棋界において新たな鉱脈を発見し多くのファンを生んだドワンゴに対するねぎらいの言葉ひとつ、出ることはなかったのである。
ドワンゴの将棋中継関連スタッフが、ABEMAにごっそり移籍か
将棋界の内情に詳しい将棋ライターは次のように話す。
「ドワンゴの経営がよくなくて、1年くらい前からドワンゴの将棋中継関係のスタッフが、サイバーエージェントとテレビ朝日が共に運営するABEMAのほうに移ってしまっていたんですよ。ドワンゴを創業した川上量生社長は“将棋事業”にすごく力を入れていたんですが、昨年3月にドワンゴの取締役を退任した。そのことが与えた影響は大きかったと思います。金額は詳しくは知りませんが、毎年何億という金を連盟に出すわけで、それを維持するのが厳しかったようです。今回の撤退の詳細については、本当に秘密になってるようで、各新聞社も連盟の関係者もあまり知らなったようです。連盟とドワンゴのごく一部の幹部しか詳しいいきさつは知らないのではないでしょうか。表に出せないような会社の事情もあるんでしょうね。
ドワンゴは1年くらい前から、今後はタイトル戦の中継契約を結ばないと、主催する新聞社に通達していたそうです。新聞社の棋戦担当記者も、『契約しないということは、おそらくもうドワンゴは撤退するんだろうな』と言っていましたからね。今年も、ニコ生で中継したのは叡王戦だけ。それまではいろんな棋戦を中継してましたから、藤井二冠の対局が見たい人は、ドワンゴから相当ABEMAに流れたんじゃないですか。でも、将棋ファンのほとんどはニコ生には感謝してるし、『これまでありがとう』という気持ちだと思いますよ。人間とAIが闘う電王戦をやったりした功績は将棋界にとってものすごく大きいですからね」(将棋ライター)
ドワンゴ側の叡王戦からの撤退表明は、かなり早い段階で連盟側に伝達済みか
「将棋連盟様といつから話し合いをしたのか、具体的なことは申し上げられませんが、それなりの期間は要しました。昨年から『ペコちゃん初めての将棋教室』を共済するなどお付き合いがありましたので、そのようなお付き合いの中で双方による話し合いで事が進んだという流れです」(不二家広報室)
今回あらためて本サイトよりことの経緯についてコメントを求めると、不二家側からは以上の回答が得られた。主催となるまでにそれなりの期間がかかったということは、上記将棋ライターのコメント通り、ドワンゴ側の撤退表明がかなり早い段階で連盟側に伝えられていたことがうかがえる。
一方のドワンゴ側からも、広報部より以下のコメントを得られた。
「これまで将棋ファンの拡大および将棋界の発展を掲げ取り組んでまいりましたが、この度、その一端を担い役目を果たすことができたと考えました。同時に、ドワンゴでは昨年より事業再編に伴うコンテンツの選択と集中を進めていることも重なり、検討の末、今回のタイミングで叡王戦の主催撤退に至りました。叡王戦の主催者としての役割は終わりましたが、今後とも形を変えて将棋文化の発展に貢献していきたいと考えております」
これは、10月20日の夏野社長の会見コメントとほぼ同様の内容といえるだろう。実際のところ、ドワンゴ側にはどのような事情があったのだろうか。
叡王戦からのドワンゴ撤退のウラに、ニコニコ動画の業績不振が?
2014年のKADOKAWAとの経営統合後しばらくは飛ぶ鳥を落とす勢いだったドワンゴだが、その主力事業だった「ニコニコ動画」は、月額550円の有料プレミアム会員の減少に歯止めがかからない。2015年には一時250万人を超えたプレミアム会員は、現在は150万人を下回ろうかという勢いだ。
2019年2月に代表取締役社長に就任した夏野剛社長は「不採算事業の整理とコストの見直しで、今年度中にプレミアム会員数の回復を実現したい」と語っているが、実は親会社であるKADOKAWAの今年3月期決算を見ると、webサービスの営業益は前年の27億円の赤字から25億円へと黒字回復を果たしている。
ただし、コロナ渦で巣ごもり需要が望めたはずの今年4~6月期のwebサービスの売上高は、前年の65億円から52億円に減収。夏野社長が描く新たな収益の柱は「ニコ動」でも「ニコ生」でもなく、“国産YouTube”として有料会員数が今年120万人を突破した総合コンテンツプラットフォーム「ニコニコチャンネル」にシフトしているのかもしれない。そのためにも、10年をひとつの節目として、叡王戦を含めた将棋コンテンツからの一時撤退が必要だったのではなかろうか。
不二家の創業家は藤井聡太二冠と同じ「藤井」、協賛の証券会社の主力商品「ひふみ投信」は加藤一二三九段の愛称と同じ
すでに第6期叡王戦は不二家主催、レオス・キャピタルワークスとSBI証券の特別協賛で、ABEMAによる単独配信という形で開幕した。冒頭で述べた通り、主催は一転して、今年創業110年を迎える老舗菓子メーカー、不二家だ。
不二家のペコちゃんは誕生から70年という節目の年。不二家の創業家は藤井二冠と同じ名字の藤井家。さらに、協賛するレオス・キャピタルワークスが運用するひふみ投信は、“ヒフミン”こと加藤一二三九段と同じ名前だ。
10月31日に行われた第6期叡王戦の初戦段位別予選(四段戦)は、藤井聡太二冠と同じ18歳で、プロになったばかりの最年少棋士・伊藤匠四段の公式戦デビューであった。伊藤四段は杉本和陽四段(29)と対局したが、101手で敗れデビュー戦を白星で飾ることはできなかった。
第6期叡王戦の段位別予選(八段戦)の日程はまだ未定だが、注目の藤井二冠の対戦相手は、これが初手合いとなる長沼洋八段(55)。棋風は受け将棋だが、居飛車、振り飛車も指すオールラウンダーだ。
新たな装いで歩み始める叡王戦の今後を見守っていきたい。
(文=兜森 衛)
情報源:将棋叡王戦をドワンゴが手放したワケ…ニコニコ動画業績不振、ABEMAへのスタッフ移籍
将棋叡王戦をドワンゴが手放したワケ…ニコニコ動画業績不振、ABEMAへのスタッフ移籍 https://t.co/8Yj5pOc4TK pic.twitter.com/pCf6c5T69Q
— Business Journal/ビジネスジャーナル (@biz_journal) November 14, 2020
- 第6期 叡王戦 | 株式会社不二家
- 【不二家×日本将棋連盟 共同主催】不二家が将棋タイトル戦「叡王戦」を主催!(PDF)
- 将棋タイトル戦「叡王戦」への特別協賛について | ニュースリリース | レオス・キャピタルワークス株式会社
- 将棋タイトル戦「叡王戦(えいおうせん)」への特別協賛について(レオス・キャピタルワークス)- PR情報|SBIホールディングス
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