女流史上最年長でタイトル挑戦する中井広恵女流六段。足かけ39年の大舞台登場は棋史に残る驚異の記録だ

【王手報知】38年後の夢 女流史上最年長挑戦者・中井広恵女流六段「もう前回がいつだったか思い出せませんよ~」

中井広恵女流六段は1969年4月1日生まれの51歳
男性棋士だと佐藤康光九段が10月1日生まれの51歳だな


2020年10月24日 10時0分

女流史上最年長でタイトル挑戦する中井広恵女流六段。足かけ39年の大舞台登場は棋史に残る驚異の記録だ
女流史上最年長でタイトル挑戦する中井広恵女流六段。足かけ39年の大舞台登場は棋史に残る驚異の記録だ

昭和57年に13歳でタイトル戦に登場した少女は38年後、令和2年のタイトル戦に女流棋戦史上最年長挑戦者として臨場する。将棋の中井広恵女流六段(51)は、11月5日に開幕する第28期倉敷藤花戦3番勝負で里見香奈倉敷藤花(28)=女流名人、清麗、女流王位=に挑戦し、通算20期目のタイトルを目指す。晴れ舞台を前にした今の思いを聞いた。(北野 新太)

大切に保管した和服をクローゼットから取り出して、13年ぶりにまとう権利を得た。中井は笑顔を浮かべる。「いくつか一通り揃っているので娘たちの卒業式でレンタルしてあげようかな、と思ってたくらいなんです(笑)。腰の手術をして正座を続けるのは苦しいので悩み中ですけど、着たいです。着ないと和服がかわいそうですよね」。過去43度のタイトル戦で披露してきた華麗な和装は、女流棋士像の象徴でもあった。

「もう前回がいつだったか思い出せませんよ~。タイトル戦をずいぶん指してないな~とは思っていたんですけど」。2007年の女流名人位戦(現・女流名人戦)以来13年ぶり、倉敷藤花戦は16年ぶり。10月1日の挑戦者決定戦で石本さくら女流初段(21)に勝って大舞台への切符を得た。

51歳4か月でのタイトル挑戦は清水市代女流七段(51)が2018年に女流王座戦挑戦者になった当時の49歳9か月を上回る女流史上最年長記録となった。40代で一度も立てなかった大舞台に臨む。「年齢のことをたくさん言われるのは…と思いますけど、年齢を重ねても大きな舞台に立てることはとても幸せなことですよね」

昭和、平成、令和の3時代でタイトルを取る可能性があるのは棋界全体でも中井、清水、谷川浩司九段、福崎文吾九段、南芳一九段の5人しかいない。「結婚も出産も育児も介護も経験した51歳でも頑張れることを後輩たちに見せられたら。里見さんは本当に強いからなかなか難しいとは思いますけど…今までの相手とは世代が違う方なので、何か違う時間にはなるのかなというのは楽しみです。気負いはありません」。対戦成績は6勝6敗。前回の対局が5年前のため「今の里見さんとは違うので参考にはならないですよ」と語るが、5年前も里見は女流棋界の覇者だった。複数局を指して負け越していない女流棋士は中井のみ(西山朋佳女流3冠・奨励会三段は対里見戦9勝7敗)。女流棋界では少数派の居飛車党本格派で豊富な経験値も持つだけに、激闘の予感が漂う。

王道と言うべき棋風だが、AI研究も柔軟に採り入れている。「将棋の常識や自分の考えからは離れた感覚の手を示されると、面白いなあ、と思います。今は何でもありですからね。駒損なんて気にしないという価値観なんてなかったですから。自分の感覚との間にある迷いのようなものをタイトル戦までに少しでも修正出来たらな、とは思っています」

北海道稚内市出身。後の師匠・佐瀬勇次名誉九段に才能を見込まれ、小学5年で上京して内弟子になった。「たただだ『将棋のプロになりたい』『東京行きたい』という思いだけでした。親は心配だったみたいですけど、私としては親元離れてさみしい、とかなかったですね。帰りたいと思ったことも一度もないです」

上京の日を今も覚えている。「稚内から飛行機と電車を乗り継いで、千葉の師匠のご自宅まで一人きりで。小学生の飛行機乗り継ぎって係員の人が付き添ってくれるものなんですけど『私、いいです』って断って。度胸というか。物怖じしないところはあるのかな…。いや、でも小さい頃から海外で頑張っている方もいるので全然ですよ。サッカーの久保建英選手の方が100倍すごいです。スペインですから(笑)」。翌年には同学年の佐藤康光九段や1学年下の羽生善治九段も出場した小学生名人戦で準優勝を果たしている。

女流棋士になり、棋士養成機関「奨励会」でも戦った。「当時は将棋を指す女の子が珍しかったので、周囲の声も辛辣でしたし、奨励会で勝てなかった頃は苦しかったです。将棋を辞めなくちゃいけないと思っていたので」。様々な経験を糧に1990年代、2000年代と清水らと時代を築き、タイトル獲得19期を重ねた。

実は最年少タイトル挑戦者でもある。1982年、13歳で林葉直子女流王将に挑戦した。「よく覚えてます。たしか北海道対局で、立会人は師匠の佐瀬勇次だったのですが『君たちは仲が良いからって一部屋でいいだろう』って言われて、前日は林葉さんと同じ部屋で泊まったんですよ。何とも言えないビミョーな空気になって…ちょっと信じられないですよね(笑)」。挑戦を決めたら林葉さんから祝福と激励の電話があった。「『広恵~、いくつになったの~?』って。ずっと林葉さんの1つ下ですよ(笑)」

◆中井 広恵(なかい・ひろえ)1969年6月24日、北海道稚内市生まれ。51歳。故・佐瀬勇次名誉九段門下。4歳で将棋を始め、81年に当時最年少の11歳で女流棋士に。獲得タイトルは女流名人9期など計19期(歴代3位)。夫は植山悦行七段。3人の娘がいる。

【担当記者から】タイトル戦から遠ざかった13年間、中井は対局室の外で苦しい思いを重ねた。2006~07年、日本将棋連盟の女流棋士会は新法人設立を目指す過程で分裂した。07年に新設された日本女子プロ将棋協会(LPSA)で代表理事を務めたが、10年に退任した。14年にはLPSAを退会してフリー女流棋士になった。「本当にいろんなことがありすぎて、もちろん最初に目指した形とは違うので残念な思いもありますけど、思いはみんな一緒だったと思いますし、今は女流棋界全体の空気も変わってきているので、もっと良い方向に向かうと思っています」。中井がタイトル戦の舞台に立つことは、女流棋界全体の空気をさらに前へと進めると信じている。

情報源:【王手報知】38年後の夢 女流史上最年長挑戦者・中井広恵女流六段「もう前回がいつだったか思い出せませんよ~」(スポーツ報知) – Yahoo!ニュースコメント

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