ほぉ・・・
2020年9月21日 06時00分
将棋の第61期王位戦(東京新聞主催、伊藤園協賛)7番勝負で木村一基前王位(47)を破り、8月20日に史上最年少で二冠となった藤井聡太新王位(18)=棋聖=が同29日、本紙のインタビューに応じた。あの戦いのあの一手、注目された「勝負めし」、パソコン自作の趣味、そしてこれから…。激戦を振り返りつつ、高校3年のスター棋士の今を掘り下げた。
―初の王位リーグ、挑戦者決定戦をどう戦ったか。
リーグ戦は負けても次があるので、普段以上に踏み込んで考えることができるのかなと思います。どれも大変な将棋でしたが、特に稲葉陽八段との将棋は、途中からこちらがかなり苦しい場面が続いていた。(逆転勝ちして)一つのターニングポイントになったかなと思います。挑戦者決定戦を戦った永瀬拓矢二冠には、普段からVS(1対1の研究会)で教わっているんですが、公式戦で盤を挟んでみると普段以上の気迫を感じました。
―挑戦決定から、木村一基前王位との7番勝負の開幕まで1週間しかなかったが、どう準備したか。
先後も決まっていないので、そこまで深く作戦を立てていたわけではないのですが、持ち時間8時間の対局は初めてなので、時間の使い方のイメージはある程度していきました。
―愛知県豊橋市での第1局(7月1、2日)は振り駒で先手となり、「角換わり」の将棋を選んだ。
まずは自分の得意戦法でじっくり戦おうと思いました。(中盤で)こちらの飛車が取られる展開になりましたが、すぐに厳しい攻めが来るわけではないので、ある程度読んで行けそうなのかなという感触がありました。封じ手の局面は何となく悪くはないのかなと感じていました。
―初日の夜は眠れたか。
先が読めそうな局面だったので、ある程度は考えましたが、午後11時くらいには寝ました。2日制対局では、局面にかかわらず、しっかり眠ることが大事かと思いました。
◆これまでにない疲れ感じて
―好調に攻め続けたが、終盤、木村前王位の受けの手に1時間の長考をした。何を考えていたのか。
予定の進行ではあったんですが、読み直してみると、けっこう大変な変化が多かった印象でした。当初は見えていない手もあったので、あらためて考えていました。
―攻め切っての快勝に見えたが、自身の第1局の総括は。
初日から木村先生が強く攻めを呼び込んでこられたが、それに対して自分もしっかり読んで、返すことができたと思う。8時間という持ち時間を自分なりに生かせたのかなという充実感がありました。
―棋聖戦に続き、二つ目のタイトル戦。緊張などはなかったか。
将棋会館以外でのタイトル戦は初めてだったので、始まる前は多少緊張はあったかもしれないですが、始まってからは落ち着いて指せたかなと思います。
―終局後「体力面で課題が残った」とも話していた。
2日目は1日中、終盤戦が続いている状態で、かなり読みが要求されました。そういう体験は初めてで、終わってから、これまでにない疲れを感じました。
―シリーズでは「勝負めし」も話題になった。
メニューを数多く用意していただいて迷ったんですが、せっかくなので地元の食材を使ったものを選びました(1日目は「三河鮮魚の海鮮丼」)。
―2日目の「冷やしきしめん御膳」は「キノコ抜き」との注文。キノコはどうして苦手?
食感です、はい。自分はシイタケとエノキとナメコくらいしか経験がないんですけど、その辺りがだめだったので、おそらくほかのキノコもだめかと(笑)。
◆局面が激しくなる手を選ぶ
―札幌市の第2局(7月13、14日)は、先手の木村前王位の得意戦法「相掛かり」になった。
相掛かりの可能性が一番高いと思っていました。序盤から手の広い将棋で、前例のない形になったと感じました。1日目の途中から自信のない局面が続き、2日目にははっきり形勢を損ねてしまいました。
―終盤で粘りを見せ、逆転勝ちと話題になった。
開き直るというか、何とか勝負に、という姿勢で指していました。ずっと苦しい将棋だったので、王位獲得に向けて非常に大きな1勝だったと思います。
―形勢が悪い時、あくまで最善手を選ぶか、相手が間違えやすい手を探すか、どちらのタイプか。
自分は苦しい時の粘り方があまりうまくない方だと思うので、課題ではあるんですけど…。自分で読んで、はっきり負けまでいかない程度で、それなりに局面が激しくなるような手を選ぶようにしています。
―「勝負めし」は1日目が「中華セット」、2日目が「ビーフステーキカレー」。若々しい選択だった笑)。
中華セットは、2年前の王位戦(同じホテルで指された第3局)で、当時の菅井竜也王位が頼んでおられたのを写真で見て、おいしそうだなと思った記憶がありました(笑)。2日目は局面が進んでいる場合が多いので、カレーが手堅いかなと。
―北海道の印象は。
家族旅行で訪ねたことはあったが、札幌は初めて。時間があれば市街地の方にも行ってみたかった。来年を楽しみにしたいです。
◆温泉に入って気がついた
―第3局(8月4、5日)は神戸市の有馬温泉。先手番で「矢倉」の戦いを挑んだ。
(緊急事態宣言による対局中断が明けた)6月以降、角換わりと矢倉を半々くらいの比率で指していたので、次は矢倉というつもりでした。いろんな戦型で指せればと思っていました。
―木村前王位の封じ手は△2三歩だったが、終局後の感想戦で、△2三銀=図=の手があったと指摘していた。
1日目の夜、温泉に入っている途中で△2三銀に気付きました。そうすると、こちらから動いていく必要があるのですが、ぱっとする対応が見えなくて。そこから結構考えました。夜の12時くらいには寝られたと思いますが。
―結局、封じ手は別の手だった。攻める展開になったが、どうみていたか。
リズム良く攻めることができ、形勢は少し良いのかなと思っていたんですが、(具体的な)手が分からないという感じになってしまった。早い段階でしっかり先まで読み進める必要があったのかなという気がしています。
―木村前王位の懸命の受けに、珍しく決め損なう場面もあった。
木村先生にうまく踏みとどまられたところがあり、一気に寄せるのか、じっくりやるのか、指し手の方針が定まらないまま、時間に追われてしまいました。
―逆転には至らず、何とか3勝目を挙げた。
最後は負けにしたかなと思っていました。秒読みの時間が長く、1局を通して大変な将棋でした。時間がないときは方針を決めるのが大事ですが、はっきりできなかったのがミスにつながったと思っています。
―「勝負めし」は「神戸牛すき鍋膳」と「肉うどん」。選択のポイントは。初日は「すき鍋」という言葉にひかれました。肉うどんは(対局場の旅館)「中の坊瑞苑」さんの名物と聞いていたので。結果的に(神戸牛が)かぶってしまいましたが。
―結局、温泉の方は楽しめたのか。
「金泉」(*1)に入りました。結構色があるので、最初入るのに勇気が要ったんですけど(笑)。入ってみると肌触りもよく、いいお湯でした。
―3連勝で臨んだ第4局(8月19、20日)は、強気の飛車切りの封じ手が話題となった。
初日から想定以上に激しい変化の多い展開になりました。本譜のように進んだら(飛車を)切るつもりでしたが、その後の変化が複雑なので、(封じ手の前に)あらためて考えました。飛車を逃げる手もあったと思うので、難しいところですが、2日目は終始、積極的に指せたので、結果的には良かったと思います。
―勝てば史上最年少の二冠ということで、震えたりはしなかったか。
こちらの玉も危ない形になり、際どい局面が続いていたので、そういうことは浮かばなかったです。
◆移動時は外の景色を見る
―今回は時間がなかったが、九州や福岡で行きたかったところは。
福岡は3回目だったんですが、まだラーメンが食べられていないので、次は機会があればと思います。
―対局中のおやつに「マンゴー杏仁プリン」を連続で頼んでいた。
どういうものか正体が分からないところがあったんですが、食べやすく、2日ともおいしくいただきました。機会があればまた、とも思います(笑)。
―木村前王位と番勝負を戦ってどう感じたか。
受けと攻め、どちらも力強いという印象が深まりました。第2局の中盤、あえて自玉のコビン(玉の斜め前)を開けた手など、気付かない手を指され、苦しめられる場面も多かった。非常に勉強になりました。
―全4局で、自分らしさが出たのはどこか。第1局と第4局で、こちらから踏み込んでいったところは、自分の良さが出せたかなと思います。
―移動中や対局の夜はどう過ごしたか。
移動のときは外の景色を見ることにしています。対局1日目の夜はある程度、局面のことを考えて、見通しが立ったらすぐお風呂に入って寝る、という感じでした。
―今シリーズの対局場は第1局がチャペル、第2局がホテル、第3局が温泉旅館、第4局が能楽堂と、バラエティーに富んでいた。
1局ごとに雰囲気が違ったが、どこもすばらしい対局場を用意していただき、その中で指せるのは幸せだと思いました。特に能舞台での第4局は、そういう神聖な場所で指せるのは身の引き締まる思いでした。
◆AIそのものが理想ではないけれど
―最近パソコンの自作に熱心だとか。
パーツを集めるのは好きなんですけど、組み立てるのは怖いです(笑)。王位戦の後も1台作っていて、それが3台目。最新のものはCPU(中央演算処理装置)に「Ryzen Threadripper(ライゼン スレッドリッパー) 3990X」(*2)を使っています。
―一番重視するのはCPUか。
はい。将棋ソフトの読みの速さはCPUで決まってきますので。ほかにゲームなどは入れていないので、ビデオカード(高度な画像処理ができるパーツ)は映ればいいという感じです。
―ライゼンの発売元である米国の半導体メーカー「AMD」のリサ・スーCEO(最高経営責任者)も以前、藤井王位がユーザーと知って「とてもうれしい」とツイッターでつぶやいていた。それがうれしかったということだが。
はい。その情報は学校の同級生に聞きました。当初はあまり詳しくなかったんですが、現状は将棋用途なら自信を持ってライゼンをお薦めできます(笑)。
Thanks @detune00. I heard about this from my team in Japan. We are very excited that Sota Fujii is an @AMDRyzen user and fan!! We share Fujii-san’s excitement and look forward to bringing Zen2 to the market next year!
— Lisa Su (@LisaSu) December 3, 2018
―よく自身と比較される人工知能(AI)について、どう思うか。
ソフトは今まで気付かなかった可能性に気付かせてくれるので、プレーヤーとしてはプラスの面が大きいと思います。ソフトの指標があることで、将棋観戦も楽しみやすくなりました。
―AIを理想として、目指しているのか。
基本的にソフトそのものが理想ということはないです。ただ、自分にない優れたところが非常に多くあると思うので、それを取り入れて強くなりたいです。
◆考えなくても勝手に手が進む
―別のインタビューで以前、次の手を考えるとき、頭の中に将棋盤が出てこないと話していたが本当か。
頭に盤がないということではないです。ただ、読んでいくとき、頭の中の盤で駒が一手ずつ動いていく感じではないというか。何手か進んで、またその局面を考えるという感じです。
―局面を飛ばして考えるということか。
はい、そういう感じが近いです。
―詰め将棋を解くときも同じように考えるのか。
そうですね。たくさん解いていると、あまり考えていなくても勝手に(手が)進むことがあります。
―最近、詰め将棋は解いているか
それが、以前ほどは解いていなくて。「詰将棋パラダイス」という雑誌(の掲載問題)は毎月解くようにしています。
◆SNS「自分の性格的に、あまり…」
―コロナ禍とタイトル戦の過密日程で、春から学校に通えなかった。通学は再開したか。
あー、それはまだなんです。6、7月と比べれば対局が少しは減ってくると思うので、あらためて。はい。数学の公式など全然頭に残っていなくて…(笑)。
―来春には高校卒業。大学には進まないと話しているが、身の振り方は。
基本的には、大きく変わることはないのかなと思います。まだ決まっているわけではありませんが、(現在住んでいる)愛知県から対局に通うことになる可能性が一番高いです。
―SNSをする棋士が増えたが、やる気はあるか。
今のところは考えていないです。何というか、自分の性格的には、あまり…。
―読書はしているか。
最近は新聞を読むくらいで、なかなか本を読めていない。時間があるときに何か探して、じっくり読めればと思います。
―次に目指すタイトルは本戦リーグ入りしている王将戦。意気込みを。
王将リーグは今年も手厚いメンバーで、厳しい戦いになると思います。1局1局精いっぱい指して、上を目指したいです。
(聞き手・樋口薫、岡村淳司、世古紘子)
*1…有馬温泉古来の鉄分と塩分を含んだ湯。無色透明の「銀泉」もある。
*2…米国の半導体メーカーAMDが今年2月に発売したハイエンドパソコン向けCPU。命令を実行する回路の数である「コア数」で、世界初の64コアを達成した。市場価格は約50万円。
情報源:振り返るあの一手と自作PCのこだわり 藤井聡太王位インタビュー:東京新聞 TOKYO Web
先日紙面に掲載された藤井聡太二冠の王位獲得記念インタビューのロングバージョンがネットにアップされています。王位戦7番勝負の振り返り、勝負めしを選んだ理由、自作PCのこだわりなど、たっぷり語っていただきました。ぜひご一読ください。https://t.co/gr22shpRdb
— 東京新聞文化芸能部文化班 (@tokyobunkabu) September 21, 2020
へぇ・・・