ほぉ・・・
2020年8月29日 16時00分
将棋の渡辺明名人(36)=棋王・王将とあわせ三冠=は、第78期将棋名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催、大和証券グループ協賛)で、前名人の豊島将之竜王(30)を4勝2敗で破り、初の名人位を獲得した。2000年にプロデビューしてから名人への挑戦は今回が初めて。一時は「縁がない」と思いもしたタイトルを奪取したシリーズを、渡辺名人に振り返ってもらった。
――第1局の作戦は角換わりでした。
後手番角換わりは想定される将棋の一つというか、本命でした。1日目の進行はおおむね予定通りで、2日目に千日手模様になりましたが、互角なら打開して、ちょっと時間責めぎみに行くというプランでした。終盤は激戦でしたけど、はっきり負けというところはなかった。出だしとしては一番いい形になりました。
――激戦の第2局を。
相懸かりの採用は珍しいけど、1局はやろうと予定していました。得意戦法ではないので、番勝負が煮詰まってくるとやりづらい。棋聖戦と並行していたこともあり、同じ戦法だとマークされて大変なところもあるので。
――形勢をどう見ていましたか。
守勢になって、封じ手のあたりはおもしろくなかった。その後はおおむね互角で推移して、夕休憩あたりでまずくした。苦し紛れにいろいろやっていたらどんどん悪化しました。ただ、後手も明快な決め手がなかったのでちょっと複雑になった。最後は際どかったけど、足りてなかった。
――1勝1敗で第3局を迎えました。
1局目が角換わりで、それを続けるという選択肢もあったんですが、棋聖戦との兼ね合いもあって、ちょっと戦法のローテーションをしてます。1勝1敗の3局目なので、自分にとっての後手番のエースを出すかというとちょっと早い。七番勝負は先手と後手、どっちかを4回やる可能性があって、一つの戦法では乗り切れない。二つや三つの戦法を用意する必要があり、用意した以上はどの順番で行くかという感じです。
――矢倉風の力戦将棋になりました。
ちょっと序盤が軽率でしたね。2日制の将棋としては苦しくなるのが早すぎました。その後は終盤までずっと苦しかった。
相手が簡単な手を逃したのでおかしくなりましたけど、自分としてははっきり負けというつもりでやっていた。「あれっ」ていう感じになって、ひっくり返る直前までは行っていたんですけど、最終盤に踏みとどまられましたね。
――将棋の調子はどう考えていましたか。
この将棋は序盤でだめにしたので、そこは反省材料ですが、中終盤は自分の負けをはっきり読み切れていたので、そこは好材料だとは思っていました。
――第3局から1カ月あいて第4局、先手番で矢倉脇システムでした。
互いに玉が入城する定跡形は、当然相手も用意してきているので、1筋の位をとって通常の形からちょっと外すのが作戦でした。
もたれ合いみたいな感じになって、形勢判断が間違っていた部分が多かった。先攻しているから先手ペースだと思っていたんですが、そうでもなかったみたいです。
――終盤で△7七銀(図1)に対して▲同金と取った手が印象的でした。
▲7七同桂の方が正しいと思いますが、▲7七同金で強く勝負にいったのが功を奏しました。微妙なあやがある場面なんです。
その後の▲3三金に△5三玉は勝ちと読んでいた。△5二玉は、第一感で先手が勝ちだから、棋士は却下するんですよ。それが負けだということなら▲同桂でも別に悪くはない。▲同金はより勝ちが早いかなと思ってやっているので。
ターニングポイントは第5局
――第5局は力戦型。居飛車の構えから△4二飛と回り、すごい形になりました。
前々から考えていた形。第7局まで行けば、後手番があと2回あるかもしれないということを考えて、やるなら第5局かなと。
封じ手のあたりはきついなと思っていました。玉形の差はそんなにないけれど持ち駒の差が大きい。その後、駒の損得はなくなったが、先手玉が好形になったので、ちょっときついだろうなという感じでした。
▲8二飛に△7三玉(図2)としたあたりから流れが傾きました。▲8一飛成に△8二銀と進みましたが、相手の竜を攻めていればいい展開になり、分かりやすくなった。
――後手番で勝って3勝2敗になりました。
1日目から苦しい展開だった。こういう将棋を勝てるのは大きい。七番勝負で決定打になってもおかしくない勝ち方。大きなターニングポイントになる。1日目から守勢になって疲れたが、そういう意味でも勝てたのは大きかった。
――第6局は先手が矢倉で後手は急戦矢倉でした。
8四歩型が珍しい。この作戦はマークしていなかった。序盤で主導権を握られ、一本とられた感じになった。1秒も考えていない手を指されることもあって、時間も使わされた。
――豊島さんが攻撃を開始したところで▲5三歩(図3)がいいタイミングでした。
封じ手の後、ホテルの部屋で考えている時に気づいた手です。後手が攻めてきたら、▲5三歩がピッタリではないかと思いました。
――勝利が近づいて、どんな気持ちでしたか。
2日目の午前中から優勢を意識し始めた。でも逆に困ってきた。勝ちの変化しかないから。もし間違えたら、「時間があるのになに間違えてんの」となる。普段だったら同じ変化はそんなに読まないけど、何度も確認しました。もしすっぽ抜けたら一生後悔する。そういう恐怖と戦っていた。
――改めてシリーズを振り返ってください。
前半3局、後半3局という日程で、後半戦が始まってから一気にいけた。6月に比べて7月下旬以降の豊島さんは成績が悪かった。互いに他棋戦を戦っていたが、結果的にスケジュールはこっちに味方したかな。
第3局、第5局はずっとこちらが苦しかったが、第5局は決定打を与えずに踏ん張れた。そういう意味で大きかった。
――名人として今後どんな成績を残したいか。
今までキャリアを積み重ねてきて、名人戦には縁がないと思っていた。1回でも名人になれたという事実は自分としては大きいことだと思う。
――来期に向けては?
タイトル戦って、終わって1、2カ月ぐらいが一番楽しい。でも今回は例年よりも2カ月以上終わるのが遅く、在位期間が2カ月ぐらい減って、余韻に浸っている間がない。是が非でも1期では終われない。1月からは王将戦なので、もう楽しんでいる場合じゃないなと思いました。
ライフワークは競馬、野球、海外サッカー
――将棋以外のことについてもうかがいます。日常的な趣味は、野球やサッカーでしょうか。
ライフワークとして必ずやるのは競馬、野球、海外サッカー。この三つはどんなに忙しくてもやりますね。暇なら、カーリングとかもやります。
――野球はヤクルトファンですね。
ヤクルトです。一番よく見ていたのは小学生の時で、また見るようになったのは5年ぐらい前ですかね。
――ヤクルトファンになったきっかけは。
よくわからないですけど、自分が子どもの時は強かったんですよ。魅力的な選手も多かった。古田(敦也選手)、池山(隆寛選手)、広沢(克実選手)といたので。
――去年は神宮球場に見に行きましたか。
10試合ぐらい行きましたね。2週間に1回ぐらい見に行ったという感覚です。
――海外サッカーは。
どこのファンというのはないです。野球と違って、メンバーが毎年すぐ変わるんですよ。1年経つと別のチームになるので、感情移入しづらい。全体の力関係を把握して見ています。
――どこの国のリーグを見ますか。
世界的に一番人気があるイギリスのプレミアリーグと、スペインのリーガ・エスパニョーラを見ています。どのチームが強いかというのを把握して見ている感じです。
――競馬はどうですか。
競馬も全体像を把握して見ている感じですね。
――馬券は買いますか。
全体を把握して、その週で一番自信があるレースを買うという感じです。全レースを買うのは、もう卒業しました。時間が回らなくなってきたので。1レース買って「投了」する時もあります。
――会心のレースは。
会心のレースはないです。基本的に競馬って、負けるので。でも、見ているだけで楽しいですけどね。
――印象に残る馬は。
応援している馬でいうと、障害レースに出ているオジュウチョウサンは応援していますね。将棋が好きな元調教師の和田正道さんにお世話になっているのですが、千葉県成田市にある和田さんの牧場によくいるので。レースの前に見学させてもらったこともあります。(村上耕司、村瀬信也)
情報源:「1期では終われない」 渡辺明名人が語る栄冠への思い:朝日新聞デジタル
村)渡辺名人に名人戦を振り返っていただきました。例年より在位期間が2カ月ぐらい短いため、「是が非でも1期では終われない」と感じているそうです。野球、海外サッカー、競馬についても聞きました。
「1期では終われない」 渡辺明名人が語る栄冠への思い:朝日新聞デジタル https://t.co/ingeIvn3Ra— 朝日新聞将棋取材班 (@asahi_shogi) August 29, 2020
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