ほぉ・・・
2020年8月1日 16時30分
「負けました」
ガックリと頭を下げて投了する藤井聡太七段。カド番の渡辺明棋聖が意地と力を見せました。
東京のホテルで7月9日にあった棋聖戦五番勝負の第3局。ここまで2勝の藤井七段は勝てば最年少での初タイトル獲得です。日本中の注目を集めた大一番。私も現地に駆け付けました。超ハイペースで進む序盤戦は研究と自信のぶつかり合い。あっという間に終盤戦に突入です。タイトルが動くかもしれない重要局にも関わらず、両者の思い切りの良さには控室も驚きでした。
1階のロビーで将棋ファンの女性数人と会いました。聞けば、藤井七段と同じ昼食メニューを食べにレストランに来られたとのこと。ホテルのランチで静かに応援。まさに新しいファン像で、現代ならではの応援です。
この日、私は師匠・板谷進九段の写真をかばんに忍ばせていました。「東海地方にタイトルを」はわが師の夢。もう亡くなられて30年以上経ちますが、孫弟子がそれを達成するかもしれない日の対局、モニター越しの対局風景を師匠にも見せたかったからです。
渡辺棋聖が見事な序盤作戦を見せます。実に90手目まで研究手順という用意周到さ。藤井七段は長考を余儀なくされ、消費時間に大きな差がつきました。
リスクを恐れない真っすぐな踏み込みが藤井七段の武器。しかしそれを逆用できるのがタイトルホルダー。対戦相手の性格や棋風を完全に読み切った渡辺棋聖の巧者ぶりが光りました。
苦戦に陥った藤井七段も粘りを見せますが、差は縮まりません。これで勝負の行方は第4局以降に持ち込まれました。
さすがに悔しそうな藤井七段でしたが、最終局まで含めて一つの勝負なのがタイトル戦。一喜一憂する必要はなく、きっと次は切り替えていることでしょう。
この原稿が掲載される頃、藤井七段は棋聖戦の第4局を終えているはずです。果たして新タイトルホルダーの誕生に湧いているのでしょうか。それとも渡辺棋聖が底力を見せ、2勝2敗のタイに持ち込んでいるのでしょうか。いずれにしても熱い将棋界は今、夏真っ盛りです。
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すぎもと・まさたか 1968年、名古屋市生まれ。90年に四段に昇段し、2019年2月に八段。第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。藤井聡太七段の師匠でもある。
※藤井聡太七段は7月16日、棋聖のタイトルを獲得しました。
情報源:(杉本昌隆八段の棋道愛楽)わが師の夢 東海地方にタイトルを:朝日新聞デジタル
ふむ・・・