是非B級1組に師弟揃って上がって、順位戦で対局してほしい。
2020年4月1日 16時00分
杉本昌隆八段の「棋道愛楽」
私は他の棋士より名人戦の順位戦では恵まれているのかも知れません。なぜなら、師匠特権?で藤井聡太七段との対戦がないからです。
約1年にわたる長い戦いの順位戦。2019年度の第78期は3月で全クラスの対局が終了しました。
トップクラスのA級は、渡辺明三冠が全勝の9連勝で名人への挑戦権を獲得。18年度もB級1組で昇級を果たし、順位戦は2年間負けなしです。豊島将之名人・竜王との七番勝負は現代のゴールデンカード。激戦必至です。
B級1組は菅井竜也八段と斎藤慎太郎八段の関西所属の若手強豪2人がA級に昇級し、同時にそろって八段昇段も決めました。タイトル獲得経験もある2人。その高い実力に、段位や順位戦のクラスがやっと追いついてきた感があります。
私はB級2組で5勝5敗。可もなく、不可もなくの結果でした。もっとも、残り2局の段階では降級点(2回で降級)の可能性もあり、そこを連勝できたのは幸運でした。
順位戦は地位や名誉、プライドをかけた棋士たちの戦いです。会社なら、昇進試験と降格のピンチが毎年あるようなもの。だから皆、必死なのです。
注目の藤井七段はC級1組で10連勝。開幕9連勝で昇級を決め、最終戦も勝って完璧な戦いぶりでした。
ベテランが「本気」を出し、勢いのある新鋭に厳しい洗礼を浴びせるのも順位戦ならではです。しかし、藤井七段には当てはまりません。これで順位戦はデビューして3年間で29勝1敗。恐るべき勝率です。同じクラスの棋士たちも内心「早く上がってくれ」と脱帽だったのではないでしょうか。
今回の藤井七段の昇級に、私はちょっとホッとしました。師弟で昇級を競い、同星の9勝1敗だった18年度のC級1組。制度上、順位が低かった藤井七段が残留し、師匠の私が昇級したことに一抹の気まずさがあったからです。でも、今度は私も藤井七段もB級2組。再び同じクラスで戦えるのが楽しみです。
順位戦の対戦相手は抽選で決められます。規定上、総当たりのB級1組やA級になるまで師弟での対戦は組まれません。弟子に負かされた師匠が陥落する……という、あまりにも厳しい勝負を避ける意味もあるのでしょうか。
1敗が1年間を左右する順位戦。1年前の藤井七段もそうでしたが、C級1組ではここ数年、9勝1敗でも昇級できないケースが続いています。
そんなこともあってか、新年度からは制度が一部変わり、C級1組とB級2組の昇級枠が2から3に増えました。降級点の比率も少し厳しくなり、より熾烈(しれつ)な戦いになると予想されます。
5月から始まる第79期順位戦。間違いなく昇級を争うであろう藤井七段。私も下ではなく上を向いて戦います。
〈すぎもと・まさたか〉 1968年、名古屋市生まれ。90年に四段に昇段し、2019年2月に八段。第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。藤井聡太七段の師匠でもある。
情報源:順位戦10連勝「完璧」な藤井七段 再び師弟で昇級争い:朝日新聞デジタル
村)杉本八段のコラムです。書き出しに引き付けられます→「私は他の棋士より名人戦の順位戦では恵まれているのかも知れません。なぜなら、師匠特権?で藤井聡太七段との対戦がないからです」
順位戦10連勝「完璧」な藤井七段 再び師弟で昇級争い:朝日新聞デジタル https://t.co/otHY6zefr4— 朝日新聞将棋取材班 (@asahi_shogi) April 1, 2020
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