三枚堂竜也七段、古森悠太五段が昇級決定|第78期 順位戦 C級2組 10回戦


高見泰地七段 VS △黒田尭之四段(棋譜を見る

96手 9六香車打まで、△黒田尭之四段 の勝ち



2020-03-06 第78期順位戦C級2組
高見七段昇級インタビュー

【高見七段昇級インタビュー】

――お疲れさまでした。

高見 今日はかなり気合いが入っていたんですけど、空回りしてしまいましたね。こういうときに勝つのが大事だというのは分かっていたし、平常心でいたつもりだったんですけど。やっぱり、9連勝じゃないと上がれなかった気がします。

――順位戦に参加8期目での昇級でした。

高見 とにかく、つらかったです。高校生で棋士になったときはワクワクしていたのに、順位戦が勝てませんでした。転機は大学卒業で、勝ち越しを取れるようになって、ちょっとずつ上向いてきました。でも、ボーダーの9勝1敗を取るのはすごく難しく、いつか上がれると思っていたら上がれないものなんだなと考えていました。
前期は絶対に上がらなくちゃいけないと思っていたんです。しかし、初戦で石井さんに負けてしまって、そこから8勝1敗でもだめで。あのときは辛かったですね。どの対局でも負けたらつらいんですけど、順位戦はやっぱり重みがあるし、ファンの方もずっと応援してくれるものです。みんなに上がらなくちゃいけないといわれたのに、上がれなかったときは……。うーん、自分に無力感を持っていました。自分が急に変わることはできないんですけど、なんとか上がろうと思っていたのに、結局は順位が足りずに8勝2敗で終わった。順位戦は無理かなと思いましたね。

――順位戦はほかの棋戦とまた違うのでしょうか。

高見 トーナメントなら新しく始まるので、切り替えやすいんです。でもC級2組だと、1個負けたらあとがない、あとひとつ負けたら終わりという状況じゃないですか。昨年、やっぱり1勝が足りなかったですしね。順位がいいから今期はチャンスあるかなと思っていたんですけど、気持ちの面でどうかなというのが強かったですね。

――気持ちを切り替えるのに苦労したんですか。

高見 そうですね。言葉を選ぶのが難しいんですけど……。

――開幕前は叡王戦の防衛戦でした。タイトルホルダーとして忙しい毎日のなかで、気持ちをよい状態にもっていくのは、いままでと違ったんじゃないでしょうか。意識すれば、心がその通りになるというわけではないでしょうし。

高見 そうですね。あと付け加えるとすれば、自分の境遇がほかのタイトルホルダーと違っていたことです。C級2組のタイトルホルダーはどういうポジションなんだろうと思われていたところで、前期は何とか上がってやろうと思ったら、できなかった。今期はタイトルを獲られちゃって、プレッシャーがなくて戦いやすいのはよかったんですけど、やっぱりショックが大きかったですよ。いまだにいきなり思い出すこともあるので、対局中は思い出さないようにと思っていました。

――叡王戦が浮かぶんですか。

高見 ええ、いまでもタイトル戦のシーンが浮かびます。毎日、頭によぎらなかった日はないです。ひとつひとつのシーンが頭のなかにフラッシュバックします。
いま思えば、前期は自分以外の色んなものを背負ってやっていたんですけど、今期はそれがなかったので、将棋自体は伸び伸びと指せたんじゃないかなと思います。
でも、何で上がったのかは、正直分からないです。何か変わったわけではないけど、この2年間でなかなか経験できないことを経験させてもらい、C2でタイトルを持っている状態がプレッシャーで、毎日苦しくて、大変だなというのが何かの力になって、上がれたのかなと思います。どっかでひとつ負けていたら、上がれなかった気がします。とにかく、いっぱいいっぱいだったので。ただ、力がつくときっていうのは、自分では気がつかないときについていることが多いので、ちょっと将棋に力がついたのかもしれないです。順位戦は星が先行しないとだめだと思っていたので、三枚堂や佐々木大地君、同年代の昇級争いが励みになりました。彼らが上がったとしたら自分は悔しいだろうなと、潜在意識で刺激になりましたよ。

――昇級を決める9連勝まで、7カ月ほどです。これだけの期間、ずっと気持ちが張り詰めていたんでしょうか。

高見 ええ。途中で胃がおかしくなってしまって、2週間以上休むのが2、3度あったんです。体調不良がすごくて。あと、今期、昇級できなかったら、本当に死のうかなと思っていたんです。周りに死ぬしかないとかいって、追い込んでいたんです。でも追い込んでばかりだと寿命が縮むので、来期はのびのびと指したいです。

――うれしいことも苦しいこともあったなかで、ようやくつかんだ昇級。これは棋士人生にとって、どういう意味を持ちそうですか。

高見 どれも偶然ではなく、自分の歩んできた過程の中で起きたことだと思っています。特に将棋はそうですよね。前期は負けてしまったんですけど、学ぶものが多かったです。心の切り替えとか。順位戦の戦い方も少しずつ分かってきて。苦しくなっても、深夜まで粘るとか。忍耐力がついたのかなと思います。

――今期のリーグ戦で、印象に残っている対局を振り返ってください。

まずは西川戦の△1七角。あと、上村戦の△6五桂とねじ込んだのも気持ちのこもった手でした。
まず9連勝して10戦目を迎えたいと思っていたんですが、8回戦の桐山戦は苦しかったです。ずっとリードを守られてしまって、関西将棋会館でいよいよ今期負けちゃうかなと思いました。△7一飛が勝負手でした。△6五同銀に▲7五桂なら△7四飛▲6三桂成△7九飛成で勝負するつもりです。この将棋は一手でも間違えたら負けていました。
桐山先生は対局姿もかっこよくて、自分が70歳を超えたときに情熱を持って指していられるかと思ったら、まだ考えが及ばないぐらいすごいことだなと。今期、昇級争いをするなかで、名人挑戦もされた桐山先生と指せて、本当にうれしかったです。対局すると相手のすべてがわかるので、いい経験になりました。でも不思議ですよね。20代の自分と70歳を超えた桐山先生と読み筋が噛み合うのは、すごい世界だなと思いました。

――ファンの方々にメッセージをお願いします。

高見 本当は前期に上がらないといけなかったんですけど、今期に上がることができました。開幕前は心身ともに、前期の残像とかで本当に苦しかったんですけど。手紙やイベントでの声をかけていただいたおかげで、少しずつ気が楽になっていたのかと思います。今期は上がれなかったら、自分はどうなっていたんだろうという恐怖が強かったです。今年上がれなかったら、何期もC2のままだった気がします。棋力よりも精神が追いつかなかったでしょう。自分の力だけでは上がれなかったので、ファンの方とライバルに感謝したいです。

(紋蛇)